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銀行の本店はなぜ仰々しいのか?

2026.03.30 公開 ポスト

銀行で出世する人の共通点 “優秀な人”はなぜ消えるのか鈴木雅光(金融ジャーナリスト)

銀行の本店はなぜ、あれほど仰々しいのか。なぜ銀行は儲かるのか。証券会社や保険会社は、本当に顧客本位で動いているのか――。私たちの生活に深く関わる金融の世界には、知っているようで知らない“仕組み”と“裏側”があります。

そんな金融業界のリアルを解き明かすのが、金融ジャーナリスト・鈴木雅光さんの著書『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』。本書では、銀行・証券・保険といった身近な金融機関の構造や慣習、そして不祥事が繰り返される背景まで、豊富な知見と取材をもとにわかりやすく解説しています。本記事では、その一部をご紹介します。

*   *   *

ホールディングスの社長と銀行頭取、偉いのはどっち?

前述したように、今のところ持株会社は、事業持株会社と金融持株会社とに分かれているのですが、正直なところ、これがずるいのです。
前にも述べましたが、事業持株会社は傘下に金融を持つことができるのに、金融持株会社は自由に事業会社を持つことができないからです。

たとえば楽天グループは楽天市場というイーコマースの会社を中心にして、傘下に楽天証券のような金融機関を持っているのですが、金融持株会社はイーコマースの会社を傘下に持つことができないルールになっています。

なぜ、この「ワンウェイ規制」が設けられているのかというと、銀行が他業種に参入すると、銀行業務に専念していた時とは違う種類のリスクまで取らざるを得なくなり、銀行経営が不安定になることを避けるため、というのがひとつです。

あるいは、銀行が他業種に参入すると、自行の利益を優先するべく、他業種の競争相手に対して公正な取引を行わなくなるケースも想定されます。

こうしたことから金融持株会社には厳しいワンウェイ規制が課せられてきたのですが、この規制があると自由競争の観点から金融持株会社にとって不利になるので、規制を緩和して、金融持株会社も事業持株会社になるべきだという議論も出てきています。

ここは今後、大きな論点になるかもしれませんし、これが実現すれば、銀行のビジネス領域が拡大して面白い競争が展開されると思います。

「ホールディングス社長>銀行頭取」が基本構造

では、金融持株会社の場合、ホールディングスの社長と銀行の頭取、どちらが偉いのでしょうか。

基本的には、ホールディングスの社長が序列としては上になります。

ただし例外もありました。三井住友フィナンシャルグループは、どちらかというと三井住友銀行頭取が、三井住友フィナンシャルグループの社長よりも序列は上という状態が長らく続いていましたが、現在はいろいろ事情があって、他の金融持株会社と同様、ホールディングスの社長が銀行頭取よりも上という序列になっています。

また地方銀行だと、ホールディングスの社長が銀行頭取を兼ねるパターンもありますが、これはかなりの激務になります。

何しろホールディングスの社長として株主対策をやりつつ、銀行頭取として地元貢献から、地元の大口融資先の決済までこなさなければなりません。

前述のとおり近年、銀行法の改正によって、子会社や兄弟会社を通じてフィンテック企業や地域商社の設立、さらに銀行の付随業務として「ITシステムの販売」「データ分析、マーケティング・広告」「登録型人材派遣」など業務が多様化してきたので、ホールディングスの社長と銀行の頭取を兼務するのは、ますます困難になってきています。

そんなことでトップに過労死されても困るので、地方銀行もゆくゆくはホールディングスの社長と銀行頭取の兼務は解消されていくと思います。

ところで、ホールディングス社長が銀行頭取に比べて序列が上となると、出世意欲のある人は「それならホールディングスに入社したほうが出世の近道では?」と思うかもしれません。ですが、いきなり新卒でホールディングスに入社し、そこでキャリアを積むというケースはあまりないようです。

ところで、かつての銀行、とりわけ都市銀行などの大手銀行は、就職活動における人気企業ランキングの上位常連でした。

しかし「失われた30年」の間に、依然として一定の人気は保っているものの、冒頭で触れた株式時価総額ランキングの低下と軌を一にするかのように往時の勢いは失われています。

もはや、かつてのように特定の難関大学の学生を集中的に採用することは難しくなり、霞が関のキャリア官僚と同様、東京大学の学生人気にも翳りが見え始めています。

銀行で出世する人、しない人

採用の話をしたので、入行してからどうなるのかということにも触れていきましょう。気になるのはやはり、銀行という組織でどんな人が出世するのか、ではないでしょうか。

と、その前に特別待遇で入行する人がいるのかどうか、という話をしたいと思います。

どうやら、実際にいるようです。銀行には、政治家の子供はもちろんのこと、上場企業の社長・役員や大物官僚の子供などがゴロゴロいます。

銀行としては、上場企業社長の子供を入行させることによって、恩を売ることができます。それはいずれ銀行にとってビジネスにつながりますから、悪い話ではありません。もちろん、こうしたエスタブリッシュメントの子息のなかにも、きちんとした選抜を経た優秀な人もたくさんいますが……。

余談ですが、議員の子供が入行するケースですが、たいていは定年まで勤めることはなく、入行して10年もすると辞めて、議員の道へと進んだりします。岸田文雄元総理も石破茂前総理も銀行員でした。

では、メガバンクで出世するのはどういう人なのでしょうか。

おそらくどのメガバンクも同じだと思うのですが、卒業する大学によって最初の篩にかけられています。

昔の三菱銀行は、東京大学卒以外は頭取になれないなどと、まことしやかに言われた時期もありましたが、銀行には今でも多かれ少なかれ学歴重視の面があります。

事実、メガバンクグループの社長・頭取の出身大学は、東京大学、京都大学、一橋大学等の難関国立大学と、私大の雄である早稲田大学、慶應義塾大学に偏重しています。もっとも、これらの大学からの採用人数そのものが多いのも事実ではありますが……。

銀行で出世するのは「従順で空気を読む人」

それでは、銀行の人事評価はどうなっているのでしょうか。

評価は、「業績評価」と「人物評価」の2種類があって、前者は簡単に言うと仕事ができるかどうかです。後者は勤務態度や本人の性格など、銀行員としての人格が問われる評価です。

加えて同僚や部下などが多面的な評価を行う「360度評価」も昨今増加しています。

人物評価で悪い点をつけられないようにするために、絶対にやってはいけないことがあります。それは、上司のメンツを潰すことです。

たとえば会議に出席して、上司や先輩が間違いを言った時に、どうしてもひとこと言わなければ気が済まない人がいます。「それ、間違っていますよ」と言ってしまうタイプです。そういう人は、銀行では確実に出世できません。

一方で、間違っているとわかっていても、会議の場では一切指摘しない人もいます。そして会議が終わった後、その上司や先輩のところに行って「実はかくかくしかじかで……」と言うのです。こういう人は出世の階段をのぼっていきます。

日本の銀行はゼネラリスト志向なので、何か特定の分野に秀でていることよりも、たとえばコミュニケーション能力が高いとか、上下関係を重んじるといった、組織人としての常識を弁えた人が出世します。

一方、実力がめちゃくちゃあって、上司や先輩にも忖度することなく、どんどん自分の言いたいことを言える人材は、銀行で出世できるのでしょうか。

少なくとも、私がこれまで見聞きしてきたなかで、この手のタイプで偉くなった人は一人もいません。これからはひょっとすると、そういう人材が重用される時代が来る可能性もありそうですが、今のところ、おそらくこの手の人材が銀行の頭取やホールディングスの社長になることはないでしょう。

それよりも、この手のタイプの人材は遅かれ早かれ銀行を辞めて、自分のやりたいことをやっていくと思います。

たとえば日本興業銀行を辞めて、楽天グループを創業した三木谷浩史氏や、野村證券を辞めて、ソフトバンクの孫正義氏と一緒にソフトバンクインベストメント(現SBIホールディングス)を立ち上げた北尾吉孝氏も同じタイプだと思います。

要は、いわゆる規格外の人間には出世しにくい人事考課になっているのです。

銀行員50歳定年説は本当?

銀行への就職、昇進の話をしたら、キャリアの締めくくりの話もしておく必要がありますね。

今から10年くらい前の銀行では、実質定年は50歳などと言われていました。銀行以外の一般企業だと、当時でも55歳で役職定年、60歳で本当の定年でしたから、ずいぶんと若い年齢で一線を退かされるというイメージです。

銀行の出世競争というのは結構苛烈で、役員にまでのぼれる人は同期の数%と言われています。イメージとしては、あるメガバンクのその年の新卒採用人数が400人だとしたら、役員になれるのは同期で10人前後ではないでしょうか。

実際、メガバンク勤務の人たちは、どのようにして出世の階段をのぼっていくのでしょうか。

一般的に、メガバンクで出世する人が配属される部署は、(1)規模の大きな支店、(2)本店の営業部署、(3)一部海外支店、(4)人事部や経営企画部など中枢機能を担う部署のいずれかが多いと言われています。

新卒入社直後から(2)、(3)、(4)の部署への配属は、ほぼないと考えてもよいでしょう。したがって、新卒で配属されるのは(1)かそれ以外ということになります。

また、これは銀行によって若干の違いがあるので何とも言えませんが、新卒採用の多くは、全国にある支店に配属されます。そこで銀行員としての基礎を学んでいくわけですが、最初に配属された支店に関しては、どこであったとしてもそれほど出世には関係ありません。大事なのは、その次の異動からです。

だいぶ変わってきているようですが、銀行の人事評価は減点主義です。

2店目以降の配属先で、同期入行者との目に見えない比較をされながら、「バツ」と称される大きな失敗をせずに実績を積み上げ、役員や上司に引き上げられるような人が出世していきます。

そして、この項目の冒頭でも触れた50歳定年説ですが、これは同期役員が誕生する50歳前後で、大半の人が銀行の関連会社か、取引先への出向・転籍を命じられることから、そのような言われ方がされたのです。

「50歳定年」は崩壊、人手不足で銀行員の寿命は延びた

ところが、昨今はちょっと面白いことに、出世コースから外れたとしても、出向しなくて済むケースが増えてきました。早期退職といった肩たたきも減りました。

なぜなら、人手不足が、いよいよ銀行にも押し寄せてきたからです。

一番の問題は就職氷河期世代です。就職氷河期世代とは、1970年4月2日生まれ以降、1983年4月1日生まれまでと一般的に定義されています。2025年時点の年齢だと、42歳から55歳までの人たちが該当します。

就職氷河期は銀行もご多分に漏れず、採用人数を絞りました。結果、この年代の人が非常に少なくなっていて、50歳以降に出向・転籍させることができなくなっているのです。

逆に言うと、出世にこだわらないのであれば、銀行員のまま60歳、あるいは65歳まで仕事を続けられることになります。

賃金も、50歳以降には役職定年のような制度があって、大きく減らされるのが通例でしたが、今はそうもいきません。50歳以降の賃金下落のカーブがはるかになだらかになってきたのです。この傾向はメガバンクだけでなく、地方銀行も同じです。

銀行をはじめとする金融機関について、現実を知る多くの銀行マンを取材した話を包み隠さず、紹介してきました。就活中の方で、「それでも銀行に行きたい!」という方は、きっと適性があるのだと思います。

関連書籍

鈴木雅光『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』

銀行や証券、生命保険、ゆうちょ。これらと無縁に生活している人は、今やほとんどいないだろう。だが、その仕組みや実態について疑問を抱いたことはないだろうか。銀行の本店はなぜ、あれほど仰々しいのか。メガバンクは他行を吸収合併し、近年では通信会社との業務提携も加速させている。だが、それらは果たして本当に成功しているのか。コンプライアンスに人一倍厳しいはずの金融業界で、なぜ不祥事が後を絶たないのか……。金融業界の“裏側”を深く知ることで、世の中を見る解像度が劇的に上がる一冊。

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銀行の本店はなぜ仰々しいのか?

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鈴木雅光 金融ジャーナリスト

金融ジャーナリスト。JOYnt代表。一九六七年生まれ。一九八九年岡三証券入社。その後、金融専門紙記者を経て、投資信託データベースを扱う会社に入社し、投信業界を中心に取材。二〇〇四年独立。出版プロデュースやコンテンツ制作にも関わっている。

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