予測不可能な乱世のなかで
乱世で犠牲になるのはいつも弱い人たちだ。ロシア軍に虐殺されたウクライナのブチャの住人たち、イスラエルに虐殺されたガザの住人たち、米軍のミサイルで殺されたイランの小学生たち。大国が大きな言葉で勇ましい発言をするたびに、その陰で多くの市民が犠牲になっている。
僕は繰り返し乱世来る!と言ってきた。敢えて言えば、そこにはワクワク感もある。既存の前提が崩壊し、予測不可能性が増していくということはこれまで存在も知られていなかったようなものや価値を認められて来なかったものへの評価が逆転していく可能性があるからだ。
乱世の先にパレスチナ人やクルド人から世界史に残る偉人が登場するかもしれない。どこかの小さな街で未来のゴッホやカフカが作り出したものすごいアートが世界を驚かせるかもしれない。
安定して予測可能、計算可能な社会ではあり得なさそうなことに開かれていく可能性に、僕はワクワクを覚える。それが乱世のワクワクだ。
だが物事はいいとこ取りが出来ない。予測不可能性が高まると、そもそも不安定な状態で生活している人たちが最初の煽りを受けることになる。バングラデシュ南部で洪水被害に怯えながら暮らしている人とフロリダのマール・ア・ラーゴを比べて見ればわかるだろう。
乱世は今の世界を覆う格差を崩していく可能性もあるが、それでも最初は格差の低層から飲み込まれていく。
乱世!乱世!と言っている僕もまた、透析患者として社会のセーフティーネットに引っかかってギリギリ生きている存在でもある。
米国とイスラエルが国際法違反の先制攻撃でイランを攻撃した。最初の攻撃でイランの指導部の大半を殺害されたが、イランは屈服せず戦争は長引いている。トランプ大統領はイランの報復攻撃そのものに驚いたと言っていて、いかに杜撰な計画で戦争を始めたのかがわかる。
長引く戦争の中でイランはホルムズ海峡の事実上の封鎖に踏み切っている。中東からの石油やガス輸出の大部分が通る海峡が封鎖されたことにより、世界経済は文字通り大混乱に陥っている。米国はこの事態も想定していなかったのか?とまた驚くが、トランプ大統領が武力で脅しをかけても封鎖を解くことは出来ず、この原稿を書いている時点では停戦も見えていない。
イランは侵略加担国以外の通過は認めると国連に通達している。そもそもイランと独自にパイプがあったはずの日本には交渉可能性があったが、対米追従一本槍でその機会を逃している。
国際法違反の先制攻撃に追従すること自体が問題だが、日本政府の判断の影響を受けるのは国民だ。石油やガスが止まると最初に連想するのはガソリンなどの燃料だが、実は石油関連製品は多岐にわたる。
全国保険医団体連合会は医療資材の不足などへの緊急対応を政府に求めている。日常診察に不可欠な医療用ガウン、グローブ、アルコール綿、注射器や点滴バッグ、カテーテルなどの医療資材は全て石油関連製品だ。
僕が週3回受けている透析治療で使う透析用の回路、針、ダイアライザー、血液抗凝固剤の注射器もそうだ。こうした医療資材の供給が不足したり、値段が高騰したりすれば患者のいのちや健康に直結する。これを書いている僕も、透析治療が継続できなくなればすぐに生命の危機だ。

米国とイスラエルはイランを悪の帝国だと糾弾し、今回の攻撃の正当化を試みている。イランの体制がとても抑圧的でイラン市民を弾圧している事実を指摘して擁護する声も多い。ジャファール・パナヒ監督の映画『シングル・アクシデント』(日本では5月公開予定)はイランの体制に不当に投獄され人生を狂わされた人たちが登場する。
ふとした事故がきっかけで主人公は自分を拷問した看守への報復行動に出るのだが、映画は復讐劇を追うスリラーであると同時にコメディーの要素が多く含まれる。コメディー要素を提供しているのはイランの人々の普段の生活だ。そこに人が暮らしているという事実。権威主義体制は権力によって人間性を奪おうとするば、それでも人は怒り、笑い、祝い、踊り、食べて眠る。
悪の帝国を打ち倒せ!イランの体制を打ち壊せ!という大国の大声のもとで落とされる爆弾やイランが報復攻撃で湾岸諸国に打ち込むミサイルはこうした人々の日々の生活を破壊していく。
小学生が殺され、インフラが破壊され、そして世界中で医療に繋がっている人たちの生活にも影響していく。乱世だからこそ、一人一人の人間と共にありたいと思う。
礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。
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