フェイクドキュメンタリーQによる連載は、今回が12回目。連載開始から1年という節目を迎えます。最終回となる今回は、先日編集部宛に届いた1通のメールをご覧いただきたいと思います。彼女の経験を「フィクションである」ということにするため、皆様にはご協力いただけますと幸いです。
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2026年 幻冬舎に届いたメール
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件名: じゆうちょう「Q」への投稿 Fwd: 修復の件
送信日時: 2026年2月26日
幻冬舎 じゆうちょう「Q」ご担当者様
はじめまして。急なご連絡申し訳ありません。
「幻冬舎plus」にて連載されているじゆうちょう「Q」で、私の話を取り上げていただきたくご連絡しました。
じゆうちょう「Q」がフィクション作品であることは知っています。
むしろ、私の経験も「フィクションである」ということにしていただきたいのです。
以前、なにかで「呪いや怪異は人々が信じることで成立する」というのを読んだことがあります。それならば、多くの人が「フィクションである」と信じることで、反対に呪いのようなものを無効化できるのではないでしょうか。
くだらないかもしれませんが、どうしても長年の不安が解消されず、ダメで元々と思いご連絡した次第です。
内容は約10年前、私が美大生だったころに恩師より依頼された絵画の修復についてです。
以下に当時の教授とのやりとりを転送いたします。問題の写真も載っています。このまま使っていただいても構いません。
教授も、依頼主である教授のご友人も亡くなってしまい、あの絵はご友人のお宅に保管されているそうですが、どうにも不安なのです。
どうか皆様のお力でこれを現実ではなかったことにしてはいただけませんか。
ご検討のほどよろしくお願いいたします。
加辺瑞紀(仮名)
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(※以下、転送されたメールの内容。編集部にて時系列順に並べ替え)
[201X/10/05 20:11] 成田教授(仮名) -> 加辺さん
加辺さん
先程は有難う。お手数ですが修復作業の方、宜しくお願いします。
そのままアトリエで作業を進めてもらって構いません。
(※編集部注 「アトリエ」とは学内にある共同作業場の事)
依頼主は急がないとのことなので、ご自分の制作に支障のない範囲で作業して下さい。
[201X/10/05 22:38] 加辺さん -> 成田教授
成田先生
先程はありがとうございました。
念の為、現状を撮影しましたので画像をお送りしておきます。

表面のワニスの黄変が激しく、全体的にベタついています。後ほど元の状態の写真をお送りいただけますでしょうか。
また進捗を報告します。
[201X/10/05 22:43] 成田教授 -> 加辺さん
写真を添付します。修復の参考にして下さい。

[201X/10/22 22:48] 加辺さん -> 成田教授
お疲れ様です。
修復の件、進捗を報告します。
表面の古いワニスの除去が終わり、顔周りの補彩を少しずつ進めている状態です。
ここから周囲の大きな剥落止めと着物部分の作業に入りますので、乾燥の時間も考慮すると、来月末までには全工程を終えてお渡しできそうです。
(ただ、今週から来週にかけて油画の講評会が控えており、自分の制作の追い込みがあるため、少しこちらの作業ペースは落ちると思います)

[201X/10/24 09:15] 加辺さん -> 成田教授
すみません、今朝確認したところ、向かって右側に広範囲な剥離が起きていました。


画像では分かりにくいですが、表面が少しネチャついています。一旦作業を止めます。
補彩に使った溶剤が、下地の古い油分と合わなかったのかもしれません。定着用の樹脂をより収縮の少ないものに変えて、再度剥落止めを行ってから様子を見ます。
[201X/10/24 10:30] 成田教授 -> 加辺さん
報告有難う。新しく乗せた樹脂と溶剤が化学反応を起こして、塗膜を引っ張ってしまったのかもしれません。
溶剤や樹脂を変えても状況が変わらない場合はまた連絡を下さい。
[201X/10/26 23:06] 加辺さん -> 成田教授
申し訳ありません。さらに悪化してしまいました。
溶剤を変えて剥落止めをやり直したのですが、顔面の塗膜が広範囲で溶解したように崩れ、原形を留めない状態になっています。
また、頭髪部分の暗色の絵の具が本来の輪郭を越えて下部へ異常に滲み出しており、着物部分も急激に色抜け(白化現象?)を起こしています。


私は見たことがない状態なのですが、原因がおわかりになりますでしょうか?
古い油絵の具というより、ツンとくるような薬品臭と、動物の毛が焦げたような、古い膠かなにかのような臭いがします。
また、元の絵の具と溶剤の相性が悪かったのか、作業していると喉が痛くなってしまい、手足にも少ししびれが出てしまいます。
少し作業をお休みさせていただいても良いでしょうか?
[201X/10/26 23:30] 成田教授 -> 加辺さん
加辺さん、体調は大丈夫ですか。手足の痺れというのが気になります。無理をせず、念の為病院にもかかって下さい。
作業は中断して構いません。
私もまだ帰国が先になるので、来月以降になる可能性がある旨、依頼主には伝えておきます。
[201X/10/30 21:11] 加辺さん -> 成田教授
体調が戻りましたので絵の状態を確認したのですが、このようになっていました。。

誰かが上書きしたように見えるのですが、教授の方で別の方に作業を依頼されていますでしょうか?
すみません、ちょっと混乱しています
[201X/10/30 22:05] 成田教授 -> 加辺さん
体調が回復して何よりです。
その絵の件は加辺さん以外に依頼していません。
これは元の肖像ではなく、加辺さんの肖像が描かれていますよね。
学生の悪戯かもしれません。学生課に私から連絡しておきます。
作業は無理に進めなくても大丈夫です。
[201X/10/31 10:15] 加辺さん -> 成田教授
やはり私の顔に見えますよね、、、
友人にこの作業の話はしていたので、考えたくはないですが彼らがやったのかもしれません。念の為あとで聞いておきます。
自分の顔が勝手に描かれているのも不気味なので、剥がしの作業はしようと思います。
[201X/10/31 15:17] 加辺さん -> 成田教授
剥がし作業をしていたのですが、元の肖像画の下に別の顔があるのに気づきました。
写真を送ります。


[201X/10/31 16:57] 加辺さん -> 成田教授
先ほどの作業の続きの写真です。


[201X/10/31 23:17] 加辺さん -> 成田教授
なんなんですかこれ 何人もの肖像画が重なっています


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この絵はなんなんですか
[201X/11/1 18:07] 成田教授 -> 加辺さん
加辺さん
所有者である私の友人に状況を伝え、絵の詳細を聞きました。
彼の御母堂の遺品とのことで、描かれていたのは若き日の御母堂であるとのこと。
誰が描いたかの記録は残っておらず、また、ちょうど肖像と同じくらいのご年齢の時に御母堂は火事で亡くなったそうです。
絵の現状を説明したところ、修復は中止で構わないとのことでした。
その状態のまま先方にお返ししますので、そのままアトリエに置いておいて下さい。
報酬については、一旦確認しますが、作業日数分はお出しします。
また連絡します。
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本内容は、幻冬舎宛に送られてきたメールを再構成したものである。
送られてきたメールアドレスに追加取材を打診したが、返信はなかった。
本連載は今回が最終回となる。
じゆうちょう「Q」の内容は、すべてフィクションである。
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この「じゆうちょうQ」はひとつの区切りを迎えますが、ここに書かれてきた出来事の断片や余白は、きっとこれからもどこかで続いていく気がしています。
一年間、本当にありがとうございました。
幻冬舎plus 編集部
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