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SEX

2019.06.26 更新 ツイート

今なにしてます?サクッとヤりません?LiLy

女性から絶大な人気を誇るLiLyさんがはじめて書いた官能小説「SEX」。

マッチングアプリでのワンナイト、泥沼化するオフィスラブ、セックスレスからの不倫、女の子との官能的な同棲生活、SMーー。

女の心情と現代をリアルに切り取った衝撃作が誕生しました。

発売を記念し、特別に全4回の試し読みを行います。

 

*   *   *

 

Lesson01 女の武器を自分の中に探せ。ーーもし、シビアなゲームに参戦するなら。

 

 もし、写真からはかけ離れたルックスをした男が登場したら、どうしよう……。ここは、自ら指定した宇田川町のバーカウンター。口から心臓がでそうな勢いで加速する緊張を、押し込むようにビールを喉に流し込んでいる。もう、すぐにでも男はここにやってくる。

 

 怖い。色々と、想像以上に怖くって、もう、吐きそう……。

 だって、もし、男が想像以上にイケていたとして。相手側からヤル相手としてのNGを出されたとしたら、そっちのほうが精神的ダメージを引きずりそうだ。とはいえ、初めからそこを一番に考慮して選んだ男がYutoなのだ。

 Shogoレベルの男が私の容姿にテンションがアがるかどうかは分からないが、Yutoくらいの男ならきっとアがって頂ける。そんな読み。そう、アイコン写真とプロフィール文から予測したレベル論。だからといって、メイクや服に手を抜いたりはしていない。1ミリも。そりゃあそうだ。勝負なのだから。今夜は、書類審査を通過した、第一次にして唯一の面接審査のようなもの。身なりを完璧に仕上げて家を出た。

 

 

 ね? だから大丈夫、そこはきっと大丈夫、と自分をなだめてグラスの中のビールを飲み干す。さらに自分を落ち着かせるために、ここから数時間の目的を脳内復習。

 本命を落とすための練習でゲットしたいものは、たったの二つ。私とマッチできてラッキーだったと浮かれる男をこの目で見ることで「女としての自信」に対する「根拠」を頂くこと。そして、この手の出会いに「慣れ」ておくこと。

 女としての自信のなさと状況に対する不慣れさは、このゲームでは絶対的に不利となる。自信なさげで不慣れな“隙”がモテるというのは、所詮平均レベル以下の男にのみスーパー有効な“演技”の話。

 最悪のシナリオは身バレすることだが、顔写真を送っても気づいていなかった時点でそこはセーフと願いたい。Yutoは渋谷勤務の会社員という話で、自称年齢は27。私はmomoで、28歳で、アパレル関係の仕事をしているOL設定。

 ─────ならば相手だって、すべては真っ赤な嘘かも分からない。

「店、わかりました」

 ラインの交換は嫌だったので、今夜のためにわざわざダウンロードしたカカオトークがメール通知を知らせてくる。

「少し遅れてしまってごめんなさい。入りますねー」

 ─────死ぬ。心臓に負担がかかりすぎるこんな遊びはやっぱり良くないリスク高すぎ今ならまだ引き返───

「こんばんは」

 振り返ると、

「momoさん、ですよね? すぐに分かりました」

 

 

 スーツ姿のフツメンが立っていた。

 眉の細さが気になる、がYutoの第一印象だった。仕事の関係で上京したばかりだという情報を思い出し、それは事実だろうと隣に腰掛ける男をチラッと見ながら思っていた。眉の形のトレンドは、地方まで情報がいくのに洋服以上に時間がかかるというのが持論である。

「なんか、こういうの緊張しますね……」

 適度に照れた感じで自分の声が響いていた。頭の中では眉毛のことを考えているとは、相手は微塵も思わないに違いない。

「ハハ。そうですね。momoさんは、今までアプリで会ったことはないんですか?」

「これは、嘘でもなんでもないんですけれど、初めてです」

「わ。それは嬉しいなぁ」

 なにげない会話をしながらも、試合はとっくに幕をあけている。これは特殊なクイズショー。相手が実際の自分の姿を見てどう思ったのかを、互いに言葉や目線や態度から読み取ろうとしている今なのだ。

「あ、これビール? じゃあ、俺も。同じでいい? あの、すみません、これと同じものを二つ」

 敬語を少しずつ外しながら、相手は私の精神的なパーソナルスペースを縮めにかかる。

「ありがとうございます」

「敬語……。僕たち、年、近くないですか?」

「あ、はい。アハハ、かたいですね、私、すみません」

「いや、よくよく考えたら僕が一つ年下ですよね。敬語頑張ります」

「いえいえ」

 Yutoは、私の彼に対する感想を読み取ることに苦戦している。

 可もなく不可もなく。

 それが最も読みづらい。

 運ばれてきたビールを一口飲んだ後で、Yutoは言った。

「お綺麗な方で、正直ビックリしました」

 初めてここで、Yutoの目線にキラリとしたものが宿ったことが自分で分かった。ありがとう。ありがとう。それをもらうためにここにきた。「ありがとうございます」。謙遜をしてみせるほど、Yutoは私のタイプではない。「どういたしまして、なのかな?」と笑うYutoと、もう会うことはないだろう。

 今夜2杯目にしてラストのビールが、渇いていた喉にひどく美味しく感じられた。仕事帰りに一杯飲みませんか、と誘ったのは私であり「一杯」は比喩ではないと柔らかい笑顔で伝えると、Yutoは面食らったようだったが意外にもすんなりと了承した。

「超楽しかった! もしよかったら、今度はゆっくり会えたら嬉しい♡♡」。ありがとう。ありがとう。欲しいものをくれて「ありがとうございます」。性欲で膨らんだハートマークが添えられたタメ口に敬語で答え、第1戦をスーパーショートタイムにて勝利で〆る。

 

 

「初めまして。momoと申します」

 帰りのタクシーの中でメッセージを送信した。マッチから数日経ってもShogoからの連絡は一切ない。私はもちろんそれを、彼自身がイケている証拠とみなした。そこまで素敵であるならば自ら出向こう。そんな所存である。

「仕事関係の知り合いにバレたくなくて、顔出しせずにごめんなさい。写真、送れます」

 必死さを悟られないよう、文末にルンルンマーク、すなわち音符の記号を入れてみた。本当は、今すぐに会いたかった。性欲を満たしたいから、というよりは、初対面の男に合格をもらうために完璧に外見を仕上げた状態だったので、このままついでに本命にも会っておきたいというほうが正確だ。それに、4月を過ぎれば、もう会えない。あと2週間のうちにShogoとヤれなければ、その後はもうアプリを使わなかったとしても難しいだろう。恋人と別れて既に半年が経っている。このチャンスを逃したら、もう私は徹底的に男に飢えることになってしまう。

 返事がくる前に、家の前に着いてしまった。Shogoのアイコンの下には、1㎞圏内と書かれている。走って会いに行ける距離にいながらも、まだ出会うことすらできないじれったさにイライラする。

 今なにしてます? サクッとヤりません?

 そう送りたい気持ちでいっぱいだったが、ヤリモクの男でさえこんなメッセは送らないだろう。仕方なく本音は心に留めてアプリを閉じた。

 返事がきたのは翌日の昼で、私は会社にいた。社内でアプリを開くことには抵抗があったのでトイレにまで駆け込んでメールを確認したので、目に入った五文字に面食らった。

 ─────「どうも笑笑」

 性格が悪そう。Shogoの印象はその一言に尽きた。初めての会話での「笑」のダブル使いは、ハートマーク以上にウザいものがある。が、これまた好都合であると前向きに解釈することにする。抱かれたとしても惚れずに済みそう。だって、なんだよ、どうもって。

 

to be continued...

 

続きは書籍でお楽しみください。

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LiLy『SEX』

『Numero Tokyo』の大人気連載、女性のための官能小説。 書き下ろしの最新話を加えてついに書籍化! 「この本が、読んでくださったあなたを少しでも、ほんの一瞬でも「ァ」って、キモチ良くできたなら幸せです。何かピンとくるものを感じて本書に腕を伸ばしてくださったあなたを、きもちよくすることに失敗した本作であったならば、期待したのに失望させられた男を捨てるような感覚で「下手クソッ! !」って床に投げ捨ててくださいね」(著者あとがきより)

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LiLy

作家。1981年、横浜生まれ。NY、フロリダでの海外生活後、上智大学卒。音楽ライターを経て2006年デビュー。女性の共感を呼び圧倒的な支持を受ける。小説『オンナ』(幻冬舎文庫)、エッセイ『目もと隠して、オトナのはなし』(宝島社)など著作多数。現在は雑誌「オトナミューズ」「VERY」「Numero TOKYO」にて連載。「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)に審査員として出演中。

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