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2019.04.21 更新

DNA検査の結果佐久間裕美子

2000年代に入って、消費者向けのDNA検査というものが世の中に登場した。DNA検査というものは、当初は、生まれる(または生まれた)子供の父親が誰か、というようなことを確認する用途に使われることのほうが多かったけれど、2010年以降には、いくつもの会社が登場して、値段も下がり、自分のアイデンティティを確認するために使う人が増えた。

自分は「何人である」という認識を持っていて、ある特定の人種に対する人種偏見を持った人たちが、自分の真の人種アイデンティティを知り、ショックを受ける、という動画を見たことがある人も多いと思う。それを見て、自分は何人か、という認識の心もとなさを認識した。

とはいえ、私もなかなか自分のアイデンティティを調べる気にはならなかった。単に面倒くさいということもあったし、特に必要性を感じなかったのだ。ところが、後輩の日本人女性が「実は、一部スペイン人が入っていました。遠縁のいとこが何百人もいました!」と喜んでいるのを聞いて、自分もやってみたいとトライすることにした。そういえば、私が生まれる前に亡くなったおばあちゃんのことを、たまに「外国人みたいにきれいだったよ」と聞くことがあった。自分にも、そんな血が入っていたりして! とワクワクした。

 

ところが結果は、想像以上に凡庸だった。自分は95%以上日本人で、わずかに韓国人や「Other Asians」の血が入っていた。Other Asiansとはなんぞや。中国系や韓国人だったらそう書かれるはずだ。どういうこと? と思ったが、アメリカの会社の行う調査では、そこまでしかわからなかった。しばらく経ってポロッとメールがきた。「あなたのDNAの最新結果があります」と。Other Asiansのさらに内訳に、「Siberian」と入っていた。サイベリア? そのままコピペして、画像検索をしたら、犬の画像ばかりが出てきて、一瞬のけぞった。「Siberian People」と入れてみたら、サイベリア系の民族がいるということがわかった。髪の毛と目の色の黒い民族だった。それだけでも少しは興奮した。

そんな折り、仕事場をシェアしている白人男子が「そういえば、いとこから電話があって」という話をしてきた。「DNA検査を受けたんだけど、君にも関係があることだから一応連絡しようと思って。聞きたいか、聞きたくないかは君次第」と言われたのだという。「聞きたい!」と返事をしたら、「実は僕ら、ジューイッシュの血が入っているらしい」と言われたそうだ。「どうりでユダヤ系の食が好きなわけだ! 」と盛り上がっている。共通の友達のジューイッシュ女子には、「どうりでケチなわけだ」とイジられていた。ジューイッシュの彼女だから言える軽口である。

世の中には、特定の人種を憎んだり、蔑視したりする人たちがいる。そういう人たちがみんな検査を受けたらいいのにね、という結論になった。よくよく考えたら、何世代も前の先祖が、誰とセックスして子供を作ったかなんてわかるわけはないのだ。人の人種アイデンティティなんて、それくらい心もとないものなのだ。自分の人種アイデンティティが、極東の小さな島国で形成されたのだとしても、それがわかっただけでよしとしよう。

アメリカに来たばかりの頃、キレキレの政治的ジョークを言うジョージ・カーリンというコメディアンに夢中になったことがある。ポリティカル・コレクトネスをまったく無視する彼のコメディに、「そこまで言っていいのか」と衝撃を受けたのだ。あるとき彼のスタンドアップで、「どいつもこいつもやりまくって、人種なんて概念がなくなってしまえばいいんだ」という一節があった。ニューヨークに来たばかりで、人種の多様性の美しさに夢中になりながら、人種というものに縛られ続ける社会の辛さも認識し始めた頃だった。今、彼の一言が、自分の心の礎のひとつになっている気がする。

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佐久間裕美子『ピンヒールははかない』

NYブルックリンひとり暮らし。どこまでも走り続けたい。 ニューヨークで暮らすようになって、もうすぐ20年になる。 ここでは「シングル=不幸」と思わせるプレッシャーがない。 周りには、果敢に恋愛や別れを繰り返しながら、社会の中で生き生き と頑張っている女性が山ほどいる。一生懸命生きれば生きるほど、 人生は簡単ではないけれど、せっかくだったら、フルスロットルで めいっぱい生きたい。だから自分の足を減速させるピンヒールははかない。 大都会、シングルライフ、女と女と女の話。

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NYで暮らすようになって20年。ブルックリン在住のフリーライターが今、考えていること。きわめて個人的なダイバーシティについての考察。

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佐久間裕美子

1973年生まれ。ライター。慶應義塾大学を卒業後、イェール大学大学院で修士号を取得。98年からニューヨーク在住。新聞社のニューヨーク支局、出版社、通信社勤務を経て2003年に独立。アル・ゴア元アメリカ副大統領からウディ・アレン、ショーン・ペンまで、多数の有名人や知識人にインタビューした。翻訳書に『日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力』『テロリストの息子』、著書に『ヒップな生活革命』『ピンヒールははかない』がある。最新刊はトランプ時代のアメリカで書いた365日分の日記『My Little New York Times』。

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