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仮想人生

2019.02.25 更新

炎上に傷つくたびに「引退」の文字がよぎる加藤貞顕/竹村優子/はあちゅう

「人生がひとつしかないから私たちは苦しいんだ」。
そんな帯コピーとともに発売されたはあちゅうさんの小説『仮想人生』。その記念イベントが1月21日に開催されました。
テーマは、「ネット上に人格を作るということ 〜自分のままで、もう一つの人生をどう生きるか?〜」。担当者編集者の二人(幻冬舎・竹村、ピースオブケイク代表・加藤さん)とともに、小説を書くことを炎上のつらさとともに語りあいました。最後には客席からの質問にも率直に答えました。
(構成:アケミン)

はあちゅう誕生から14年、ネット人生を振り返る

竹村 はあちゅうさんがネット上に「はあちゅう」を誕生させてからどれぐらいですか?

はあちゅう ブログを始めたのが18歳のときなので、もうかれこれ14年が経ちますね。そういった意味でも、私は「ネットは第二の人生」だと思っています。そしてこれからの時代はオンラインとオフライン、それぞれの人生を持って生きることが普通になっていくのかもしれません。これはなにもツイッターだけでなく、オンラインサロンにも当てはまります。現実の生活では会社や家族に所属しているけれど、オンラインサロンという仮想のコミュニティに居場所を見つける人も増えていますね。

竹村 「はあちゅう」と「伊藤春香」は別ものですか?

はあちゅう 私は特に戦略がないまま、先にネット上で有名になってしまったので、「はあちゅう」と「伊藤春香」は密接していると思います。最近では同じようにフォロワーが多くても、セルフブランディングをして有名になった人と、思いがけず有名になった人と2パターンあるように思います。

例えば前澤(友作)さんは、はじめからブランディングをしている方なので「ZOZOの前澤さん」というイメージが作られている。けれど、私は特にブランディングをしないまま、ある日思いがけずブログが炎上して知名度が上がってしまった後者のケースです。ブログを始めたばかりのころは、「ブスなのに顔写真をアップしている!」なんてことで炎上したこともあります。もはや自分ではコントロールできないところで燃えていった。

竹村 何をしている人なのか皆がハッキリとしたイメージを抱く前に、勝手に知名度が先行してしまったんですね。

はあちゅう そうです、そしてそういう人は炎上しやすいんです。逆にセルフブランディングを先にしているスピリチュアル系女子やお花畑系起業家女子は、実際のところ批判を浴びる要素があるのに意外と燃えない。それはフォロワーが一定の範囲内で収まっているからなんです。逆に知名度が先行してしまったタイプの人は、まったく意図しないフォロワーや自分の意見から離れたフォロワーにまで自分の意見が届いてしまうので、炎上しやすくなってるのかなと思います。


小説を書くことが自分を一番鍛えてくれる

加藤 有名人とはいえ、ご本人は大変ですよね。そしてはあちゅうさんは炎上のたびにめちゃめちゃ傷ついてますよね。

はあちゅう 炎上はつらいし、しんどいですね。これまでも精神的に何度も死んでます。もちろん知名度がある人でも炎上を乗りこなす人も多くいます。堀江貴文さん、田端信太郎さん、西野亮廣さん、箕輪厚介さん…彼らのようなプロデューサータイプは、炎上も乗りこなせるように感じます。

加藤 それに対して作家気質の人は「わかってほしい」という思いも強いからいっそう傷つくのかもしれませんね。

はあちゅう これは聞いた話なのですが、人間が感じるストレスで一番大きいのは「身近な人の死」、そしてその次が「理解されないこと」なのだとか。つまり私は「身内の死」に近いストレスをこれまでの人生で何度も受けてる状況なんですよね…。そう考えると我ながらよく生きてるなって思いますね。

竹村 小説は「わかってほしい」という願望を遠くまで届けるためには、ときに強力なツールになりますよね。ハマったら感情を揺さぶられるし、その世界観に取り憑かれる。けれど、それだけの作品を書き上げるには、相当の時間、体力、能力が必要です。なにより本が出るかどうかもわからない状況で書き続けたはあちゅうさんの原動力は、一体なんだったのでしょう?

はあちゅう 私にとっては小説を書くことは、筋トレと同じで、嫌だけどやったあとの達成感が強いものですね。お金を稼ぐだけなら、方法はいくらでもあります。私の場合、広告案件なら一回で数十万円をもらえることもあります。その一方で、誰からも書いているところを見てもらえず、書いたものが出版されるかすらわからない中で書き続けて、さらに本が出たら出たで、自分で売っていく努力をコツコツする…いずれもハードな作業です。

それでも小さい頃から抱いていた「書くことで生きたい」という夢が今も強く自分の中にあるのが大きいですね。書く仕事の中でもっとも自分の能力を伸ばしてくれるのが小説だと考えているからこそ、書き続けられているのだと思います。

加藤 一番パワーがあるけど、一番大変なものが小説、そんな風にも言えますね。

はあちゅう 「仮想人生」に関しては登場人物に私自身が憑依して、登場人物になりきったつもりで書きました。これも新しい経験でしたね。小説の中には書かれていないけれど、「実はこの登場人物は、裏ではこういう生活をしているんじゃないか」という細部に渡ってイメージするよう心がけていたので、この小説を書いている一年間は、現実世界と小説の世界がリンクしていました。またこの本は、ちょっとしたところに「はあちゅうっぽい」自己啓発的な要素も散りばめています。読み終わったあとに「少しだけ自分の人生を前向きに生きていこうかな」という気持ちになれるので、小説をあまり読んだことのない人にも楽しんでもらえたら嬉しいですね。

竹村 最後に会場から質問をいただきましょう。

脅迫状を受けるインフルエンサーの安全対策

はあちゅうさんは、炎上するとアンチからのレスが来るなど精神的にも大変なことがあると思いますが、普段はどんな風に安全対策をしているのでしょう?

はあちゅう 実は今、自宅に脅迫状が来てるんです。

会場 ええー⁉

はあちゅう ファンシーな封筒に入っていて、「はあちゅうさんへ いつも見てます」などと書いてあるので一瞬、ファンレターかなと思うのですが、読んでいくと3ページ目に「しみず、俺は見ているぞ」と実は旦那宛の脅迫状で…。いったいどこから自宅の住所が知られたのかわからないですが、1ヶ月に1回は届くんです。イベントなどでも、どこにナイフを持っている人がいるかもわかりませんが、「そういう人がいませんように」と祈りながら生きていますね。

警察に相談しても実際に放火された、とか体を傷つけれるなど実害が起こらない限り、脅迫状レベルでは何も動いてくれません。なので私個人では、せめて初対面の人とは公衆の面前で会うなど最低限のリスク管理は心がけていますが、結局は「人を信じながら生きていくしかない」と思っています。もともとあまり他人を疑うことをしないタイプなので、どんな場面でも人を疑わないほうが、気をラクにして生きていけるのかなと今は考えています。


傷つきながらも発信する原動力

はあちゅうさんは何度も炎上で傷つきながらも、それでも発信し続けるとおっしゃっていました。その原動力を教えてください。

はあちゅう 確かに毎回、炎上のたびに死んでいますが、そのたびに精神的な死を迎えて、また新しく生まれ変わっているのだと思います。

私にとって発信をしたり、自分の意見を言うことは、少しでも世の中を良い方向に動かすこと。そしてもうそれが自分の生き方となってしまっているので、今さら逃げられない。もちろん炎上するたびに「引退」の二文字が頭の中をよぎるものの、「この人に迷惑がかかる」「あの人が残念がるだろな」などと生々しいことを思い浮かべては「どうせ辞めるんだったら、倒れるまでギリギリのところまでやってみよう」という気持ちになるんです。

それでもたまに浮上できないこともありますよ。けれど最終的には時間しか癒やしてくれるものがないので、炎上が過去の出来事になるまで待つしかないと思っています。

あとは、やはりネットだけを見ていると否定的な言葉を見つけてしまいがちなので、リアルの友達と会ったり、家族と話したりする時間も重要ですよね。「ネットは第二の人生」とも話しましたが、ネット以外の人生も同じように大事なのかなと思います。

また私は寝る前に色んなことを想像するのですが、最近は「はあちゅうを辞めたとき」について考えを巡らせるのが好きですね。あとは誰も私のことを知らない旅先に行くと、「ここでカフェをして暮らそうかな」なんて夢想することもありますね。

実際にふっと自分の人生を消し去って、違う場所で新しい人生を送る人は一定数いると思うんです。現実に生きているのに、まったく現実感がない人たちですね。ネタバレになるので詳細は伏せますが、そんな要素も「仮想人生」には盛り込んでみたので、ぜひ手に取ってもらえたらと思います。


向上しなくても、ただ日常を生きているだけでいい

はあちゅうさんは日々、向上心を持って行動していらっしゃると思いますし、そんな姿を見ていると僕自身も頑張ろうという気持ちになります。でもときには向上心を持ち続けることがしんどくなることもあります。はあちゅうさんもそんな気持ちになることがありますか? もしあるとしたら、その際のどんな風に対処しているのか教えてください。

はあちゅう そんなときは寝るに限ります(笑)。あとは落合陽一さんのツイッターとかは見ない(笑)。落合さんのように寝ずに仕事し続けて活躍している立派な人の活動歴を見ると「私は一体、なにやっているんだろう…」とますます落ちてしまうので、別の世界を見ますね。小説を読んだり、買い物に行ったり…とにかく目線をそらす。すると「別に世の中、頑張っている人だけじゃないし」と、ちょっとだけラクになります。一旦は「向上しなくては」という洗脳を解くことをオススメします。

そもそも人間がマイナスな気持ちになるのは、ご飯、睡眠、筋トレ、この3つのうちどれかが足りてないときなのだとか。私の場合、まずは寝て、そして美味しいご飯を食べて、そしてネットで発信しない女友だちと会う時間を持つように心がけています。掃除や洗濯をして、スーパーに行って、家族のために料理をしたり…日常生活をしっかりしてる人がなによりも偉いし、そういう人こそ尊いのだと最近つくづく思います。

ネットで発信し続けたり、向上し続ける人だけが偉いのではなく、自分の生活を生きていること、そのものが尊い。そう思えるような心の状態にまずは自分を持っていく。そうするとおのずと前向きな気持ちになるので、ぜひ参考にしてみてください。


日常における「作家はあちゅう」の視点

この小説の執筆する際、裏アカウントを通じて知り合ったナンパ師と実際に会ったとおっしゃっていましたが、その際はどんな視点で彼らを分析されていましたか?

はあちゅう そもそも人と人が会うときは、どんな人でも分析してると思うんです。ナンパ師の人と会ったときも、相手がナンパ師であることをいったん忘れて、先入観なしで相手を見るように心がけていました。

肩書きがなくてもほんのささいな仕草や会話の節々で、人としての相性がいい人は自然と嗅ぎ分けられるものだと思います。人の本性は細かなところに現れる。たとえば普段きちんとしている人なのに、ふとしたときにゴミの分別をしていない…とか(笑)。日常の小さな出来事からいろいろと想像を巡らせる、そんな性分だからこそ、これまでもこれからも私は小説を書いていくのだと思います。

(おわり)


 

はあちゅう『仮想人生』

人生がひとつしかないから私たちは苦しんだ——。33歳、ユカ、専業主婦。 だから、「もう一人の私」を作った。 SNSでむき出しになる人間の愚かさと優しさ。孤独のなかで懸命にもがく姿が愛おしい、衝撃の裏アカウント小説!

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仮想人生

現実世界で「普通の人」でいるために裏での息抜きが必要なんだ。
ネットを知り尽くすはあちゅうさんにしか描けない、SNSでむき出しになる人間の素顔。
衝撃の裏アカウント小説『仮想人生』について。

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加藤貞顕

ピースオブケイク代表取締役CEO。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。2011年株式会社ピースオブケイクを設立。『ゼロ』(堀江貴文)、『ニコニコ哲学川上量生の胸のうち』(川上量生)などを担当編集しつつ、2012年コンテンツ配信サイト『cakes』をリリース、2014年クリエイターとユーザーをつなぐウェブサービス『note』をリリース。

竹村優子

幻冬舎plus編集長と単行本、新書、文庫の編集に携わる。手がけた本は、『世界一の美女になるダイエット』(エリカ・アンギャル)、『青天の霹靂』(劇団ひとり)、『職業としてのAV女優』(中村淳彦)、『快楽上等!』(上野千鶴子・湯山玲子)、『大本営発表』(辻田真佐憲)、『弱いつながり』(東浩紀)、『赤い口紅があればいい』、『「自分」を仕事にする生き方』(はあちゅう)、『じっと手を見る』(窪美澄)など多数。

はあちゅう ブロガー・作家

慶應義塾大学法学部卒。電通コピーライター、トレンダーズを経てフリーに。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、ネットと紙を中心に媒体を横断した発信を続ける。著作に「半径5メートルの野望」(講談社)など。月額課金制個人マガジン「月刊はあちゅう」が好評。
ツイッター・インスタグラム:@ha_chu
月刊はあちゅう https://note.mu/ha_chu

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