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仮想人生

2019.01.16 更新 ツイート

SNSと生きる私たちの景色をガラリと変える現代小説(涼花/りょかち)はあちゅう

自撮り女子“りょかち”は本名の人生を拡張させるアバター

“涼花”という、私の名前は、母がつけた。

たぶん、それなりに珍しい名前だと思う。26年間生きてきて、SNSでは時々見かけるものの、実際に同じ名前の人間と対面したことはない。

母は、名前の由来を尋ねるたびに違うことを言う。「生まれる前は男の子ができると思っていて、CHAGE and ASKAの飛鳥涼に憧れて『涼』と名付けようと思っていたけど、生まれてみたら女の子だった」とか「私が生まれた日は地元の花火大会の日だったから、花のついた名前にしたくて、夏生まれだから『涼しい』という漢字をつけた」とか。本当のところはわからない。だけど、みんなが「いい名前」と褒めてくれるから、「なんでもいいや」と思っている。

夏生まれの、「涼花」。とってもきれいな名前でしょう?

***

はあちゅうさんの『仮想人生』という小説は、とある主婦がひょんなきっかけから”Twitterの裏アカウント”を作り、同じく匿名アカウントを持つ人たちと交流しながら、少しずつ人生を変えていく話だ。

内容紹介:ユカの夫・恭平は、人材派遣会社を経営しており、いつも帰りが遅い。一人で過ごす夜に耐え切れず作った、ツイッターの裏アカウント「人妻の美香」。そこから覗く世界には、表では聞けない欲望と愚痴がうずまいていた。
ネットでナンパを繰り返す「圭太23歳」。ツイッターにアップした絵が突然注目を浴びる大学生「ナオ20歳」。情緒的な恋愛ツイートが人気の「暇な医大生21歳」。童貞食いを繰り返す「ねね42歳」。彼らがツイッターの中で少しずつ交わるとき、表の世界では恭平が姿を消す―。
失敗も、成功も、人生はふとした出来事で変わる。
ネットを知り尽くす者にしか描けないSNSでむき出しになる人間の素顔。衝撃の裏アカウント小説!

私は小説を読みはじめてすぐに、「ああ、知ってる話だ」と思った。

なぜなら、私が「りょかち」という名前のSNSアカウントを持っていて、そのアカウントで嘘みたいにカワイイ自撮りをあげたらフォロワーがとっても増えて、だけどそれは本当の自分とは少し違うキャラクターが評価されているように思えて、だから私はりょかちを「アバター」と呼んでいたからだ。

(写真:延原ユウキ)

「りょかちさん」は私よりもずっと可愛いキラキラした女の子で、涼花としての私の人生を拡張してくれる、アバターである。

「りょかちさん」は、数年で大人気になった。電子書籍も出したし、取材もたくさん受けたし、テレビにも出たし、連載も沢山持っている。私は未だに、「りょかちさんはあなたですか?」と聞かれたら、100%頷けないだろう。だってきっと、何度も撮り直したくりくりした目の自撮りや、徹夜して気合を入れて書いた文章や、何度も書き直したいくつもの140字のツイートの集合から、多くの人が形成している、大活躍の「りょかちさん」のイメージは、本当の私とは少し違うはずだから。

***

”裏アカウント”を持っていることは、私だけでなく、周りでもよく聞く話だった。とある企業の人事が実はパパ活アカウントの中の人だったり、会社の先輩のSNSアカウントが有名な婚活アカウントだったり、友人が超有名美容アカウントを運営していたり。裏アカウントという、「仮想人生」を持っていることは現代社会において、珍しいことじゃない。今読んでくれている人の友達にも、似たような境遇の人がいるんじゃないだろうか。

だからこそ、この「仮想人生」という小説は、極めて現代的な、現代に生きている人なら誰しもが、”心当たり”を感じる小説だと思っている。SNSアカウントを誰もが持っていることに何の違和感も感じない現代に生きる、私たちのための小説なのだ。

(写真:延原ユウキ)

とある人はきっと、いつの日か「裏アカウントを作ろう」と思い立った自分を思い出し、裏アカウントを作ってしまう、その行為自体に興味を惹かれるだろう。隠れて裏アカウントを作っていた元カノを思い出して、小説を手に取る人もいるかもしれない。いつもSNSのタイムラインで愉快に見ている、ナンパアカウントやオフパコアカウントやパクツイアカウントがテーマになっているのに気づいて、覗いてみたくなってしまう人もいるはずだ。

私たちが「ああ、知ってる」と思う世界が、そこにはある。

***

そして、きっと、読み終えたあとにもその”心当たり”は継続して存在しているはずだ。しかしそれは、読み始める前の”心当たり”とは形を変えている。

私たちがこの本を手に取るときになんとなく思い浮かべていた、無数のアカウントの裏にある人生、その中に潜む生身の感情に思いを馳せることになる。もしかしたら強烈に誰かの顔が浮かぶかもしれない。だけど同時に、浮かんでいた顔が別人に見えてしまうかもしれない。

その”心当たり”を手繰り寄せて、私たちは、普段よくTVでやっている「今ネットで話題になっているニュース」さえいつもと違うように聞こえるようになるはずだ。また、タイムライン上の炎上をいつもとは異なる表情で眺めることになるだろう。

SNSが好きな人も、全く触らない人も、SNSと生きる私たちなら、目の前の景色が変わってしまう。そんな現代小説だと思う。

(写真:延原ユウキ)

***

最後に、現代人ならきっと、この本は、人生において色んなシーンや出会いを重ねるたびに読み方が異なる小説なのではないかと思う。

この本を読み終えて、誰もが「仮想人生」を持っていることを知り、自分も時々”仮想の人生”を生きてみたならもう一度読んで欲しい。きっと、また違う”心当たり”や感想に出会えるはずだ。

だって、この本の感想を書こうとしたときに、りょかちさんに囁かれた気がしたのである。

「涼花ちゃん、あなたのほうが『仮想』でしょ?」

(コラムニスト @ryokachii )

**
『仮想人生』
はあちゅう・著
1400円+税

 

人生がひとつしかないから私たちは苦しんだ——。
33歳、ユカ、専業主婦。
だから、「もう一人の私」を作った。

SNSでむき出しになる人間の愚かさと優しさ。
孤独のなかで懸命にもがく姿が愛おしい、
衝撃の裏アカウント小説!

はあちゅう『仮想人生』

人生がひとつしかないから私たちは苦しんだ——。33歳、ユカ、専業主婦。 だから、「もう一人の私」を作った。 SNSでむき出しになる人間の愚かさと優しさ。孤独のなかで懸命にもがく姿が愛おしい、衝撃の裏アカウント小説!

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仮想人生

現実世界で「普通の人」でいるために裏での息抜きが必要なんだ。
ネットを知り尽くすはあちゅうさんにしか描けない、SNSでむき出しになる人間の素顔。
衝撃の裏アカウント小説『仮想人生』について。

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はあちゅう ブロガー・作家

慶應義塾大学法学部卒。電通コピーライター、トレンダーズを経てフリーに。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、ネットと紙を中心に媒体を横断した発信を続ける。著作に「半径5メートルの野望」(講談社)など。月額課金制個人マガジン「月刊はあちゅう」が好評。
ツイッター・インスタグラム:@ha_chu
月刊はあちゅう https://note.mu/ha_chu

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