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MTVが教えてくれたこと

2019.02.06 更新

第8回

「音楽に政治をもちこむな」みたいな中で思う、マドンナとあのMV横川圭希

ポリティカル・コレクトネス(英: political correctness、略称:PC、ポリコレ)とは、性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用することを指す。政治的妥当性ともいう。
(Wikipediaより)


この日本で一番ポリコレに萎縮しているのはミュージシャンかもしれない。「音楽に政治を持ち込むな」なんてことを言い出すリスナーが多発した日には、そりゃミュージシャンもバランスをとるというもの。バランス?社会状況とバランスをとるミュージシャン、というのもなにかの皮肉に聞こえなくもないが。

それにしても社会や政治の話題をしないのは、この国の人々の特徴でもあるのだから仕方がないと捉えるのか、それともミュージシャンだからこそ、その状態すらも露わにするような楽曲をつくってしまえないのか、と考えるのかは、どちらが先に始まるとも言えないイタチごっこの議論になるに違いない。しかも、その原因を探り出すとどこまでも深みに嵌(はま)って、とてもこの連載の文字数では書ききれない。

その点、海の向こうの音楽はヨーロッパにしてもアメリカにしても、社会に政治に切り込んでいくものも少なくないのは当たり前の光景で、もちろんMVもその点では社会的なメッセージを包含してないことの方が少ないのかもしれないくらいだ。そして、そのメッセージが過激すぎてリアルな社会問題にまで広がる場面もあったりもする。それでも折れないアーティスト、ディレクター、そしてプロダクトを支える面々、って書くとなんだかクールだが、海の向こうでもやっぱり大迷惑なことには変わりないのだろう。

 

それでもどうしても惹きつけられる落とし前をつけるアーティストがいる。今回もその筆頭としてマドンナを挙げたい。以前「Vogue」という楽曲を紹介した時に書いたように、彼女はマイケル・ジャクソンと並んでMTVの歴史の常に中心にいた。そしてマイケル・ジャクソンが早逝した後の時代をも走り続けている。自分自身が常に輝き続け、そして多くのクリエイターをアッパーなシーンに送り込み、新しい時代の空気をいつも自分流のアレンジメントで、音にも、そして映像にも反映させてきた。

それでも彼女が飛び抜けて社会問題とリンクしたのは、巨大飲料メーカーのペプシとの確執だろう。

きっかけはこの楽曲。「Like A Prayer」だ。

 

 

4thアルバム「Like A Prayer」(1989年)収録。MV監督はメアリー・ランバート。

 

Rolling Stone誌に顛末が載っている(「マドンナミュージックビデオベスト20:監督が明かす制作秘話」2016.2.12)のだが、要は、この作品が宗教的なタブーを過激に表現しているということで、この楽曲を採用していたペプシのCMが放映中止になり、契約金の500万ドルが没収になったということだ。

このMVを観て、キリスト教徒ではない日本人にとっては、そこまでの事件になるという切実感にピンと来ないかもしれない。でも、実際にこの楽曲が発表された1989年の前年の1988年に発表された、マーティン・スコセッシ監督、ウィレム・デフォー主演の「The Last Temptation Of Christ(最後の誘惑)」(ユニバーサル)は、その上映にあたり全米各地で敬虔なキリスト教徒の人たちから抗議運動が起こり、一部、上映中止に追い込まれたという。

そんな時代背景の中でゴスペル調のあの楽曲にこういうMVを採用するマドンナという人の胆力は半端ない。しかも、この件には20年越しの後日談がある。

COSMOPOLITANのこちらの記事(「CMが炎上中の「ペプシ」をマドンナが皮肉に斬る!?  」2017.4.8 )に詳しいが、2017年に今度はペプシ自体のCMの演出が問題になり、やはり放送中止に追い込まれた。そのタイミングで、マドンナは敢えてInstagramにコカ・コーラを手に持った画像を投稿する。しかもだ、その時の服装が「Nothing Really Matter」という楽曲の衣装だというおまけ付き。

これは先のRollingStone誌に載っている、「Like a prayer」の監督メアリー・ランバートの言葉なのだが、「私は自分たちが何か大きなスイッチを押していることがわかっていた」と彼女は言っている。宗教的な論争が起きるのはわかっていた。でも、ただ過激な表現を選んだのではなく、人種の問題、そして常に自分の身近にある聖なる者へ溢れるプリミティブな感覚への好奇心、こういうものを表現してこそのアートだ、と言っているのだ。

さて、こういう種類の切実さが果たして僕らの社会にあるかどうかはわからないが、きっと僕らの社会も表現によって昇華出来る切実な感覚があるに違いないと思っている。

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MTVが教えてくれたこと

1981年8月1日午前0時に「観る音楽」の文化を作り出し、熱狂を巻き起こした音楽番組MTVは始まった。CM→MV(ミュージック・ビデオ)→映画監督という流れができ、あらゆる映像技術がMVで試されて行ったあの時代を振り返る。

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横川圭希

1966年生まれ。映像作家。ギタリスト。「ベストヒットUSA」などの音楽番組やMV制作にかかわる。震災直後からは東北の被災地や福島に入り取材と記録を継続。原発事故で環境中に大量に振りまかれた放射性物質から子供たちを守る「オペレーション・コドモタチ」発起人。市民メディア「confess」で映像配信、映像制作などを行っている。twitter:@keiki22 https://www.facebook.com/ConfessTokyo

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