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マンガ停留所

2018.12.23 更新

友愛物語?群像劇?ハードボイルド犯罪活劇?全貌をいまだ見せない不思議な作品 オノ・ナツメ『レディ&オールドマン』(集英社)中条省平

今回、紹介するのは、オノ・ナツメの作品です。

オノ・ナツメについては、『マンガの論点』(幻冬舎新書)としてまとめられた時評で、かつて論じたことがあります。2008年7月のことです。

そこで私は、すぐれたマンガ評論家たちが当時もっとも注目すべき作家として取りあげていたオノ・ナツメについて、こう述べています。

「グラフィックな完成度の高さといい、これまで類似したマンガ家が存在しない個性といい、オノ・ナツメは注目すべきマンガ家であり、もっと高い場所に行ける人だと思う」

あれからちょうど10年経ちました。そして、たまたま書店のマンガコーナーにオノ・ナツメの新作が出ていたので手に取りました。2015年から連載が始まった『レディ&オールドマン』の第6巻です。カラーの表紙の、BD(フランスのマンガ)を思わせるオノ・ナツメ独特の絵柄があまりにもお洒落で、読みたくてたまらなくなり、全6冊を買いこんで、一気読みしてしまいました。

舞台は近現代のアメリカ、もっと正確にいえば、ケネディ大統領が暗殺された1960年代のロサンゼルスです。

オノ・ナツメの個性は、アメリカやイタリアなどを舞台にして欧米人が主人公になるマンガをごく当たり前に描きあげてしまうことにあります。彼女の「バタくさい」タッチがそういう外国の風景や人間の姿にじつにぴったりと当てはまっているのです。本作でも、そうしたコスモポリタンな筆致がじつに巧みに当時のアメリカの風物を結晶させています。それが第一の魅力です。

主人公はふたり組で、「レディ」と呼ばれる19歳の少女シェリーと、「オールドマン」という通り名の121歳の男ロブ。

ロブは121歳ですが、不老不死で、その姿は青年のままです。殺人と放火の罪(無実らしい)で100年間刑務所に服役したあと、シャバに出てきて、シェリーと彼女の父親に拾われます。そして、暗黒街やハリウッドの映画産業と関わる世界で、シェリーと一緒に、いわくありげな品物をアメリカ各地へと、サイドカー付きのオートバイで届ける「運び屋」の仕事を始めたという設定です。

そこに、いずれもひと癖もふた癖もありそうな登場人物が大勢絡み、さらには、ジョニー&クレイグなるロサンゼルス市警の元警部のコンビで、現在は暗黒街の「掃除屋」(殺しはじめなんでも引き受ける雑用係)が活躍して、物語は複雑にくり広げられています。

現代版吸血鬼の運命をめぐる因果話なのか、男女ふたりの感情の交流を見つめる友愛の物語なのか、60年代アメリカの風俗を活写する群像ドラマなのか、はたまた、ハードボイルドな犯罪活劇として弾けるのか……。そのスケールは茫漠として広がり、いまだに全貌を見渡せません。相変わらず、オノ・ナツメという人は、不思議に読者の好奇心を宙吊りにするマンガ家でありつづけています。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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