

朝、店まで来ると扉とシャッターとの間に、その日届いたダンボール箱が置かれています。Titleに来る新刊本の多くは「取次」と呼ばれる問屋によって、日曜日以外は毎日届けられますが、全国の書店に並ぶ本も、こうした表からは見えない人たちの仕事により、支えられています。
取次の人は個人的に何人も知っていますが、その多くは〈淡々と〉仕事をしている印象があります。出版社や書店の人間のように、一冊の本に関して思い入れ深く話すことはまれで、その関心は、「どうしたら〈その思い入れの深い本〉をいち早く適正に、全国の書店に届けることができるか」ということに向けられている気がします。それは彼らがもともと、倉庫でダンボール何十箱と荷受けをして、自分の手で本の冊数を数え、毎日トラックを走らせて全国の書店に荷物を届けるという、〈肉体労働者〉の集まりであったことと関係があるでしょう。
以前は取次会社に入社すると、何年かのあいだは自社の物流倉庫で働きながら、本の動きを身体で学ばされていたと聞いたことがあります。最近では、新卒で入ったばかりの若いかたと店頭で話すことも多いので、それも少しずつ変わってきているのだろうと思いますが、ディスプレイで見る「100」という数字と、運び慣れた100冊の本の塊とでは、やはり実感できるものが変わってきます。ベテランの取次人と話していると、何千何万という数の本が、実際にはどのくらいの量感があり、それを動かすにはどれだけの人手と時間が必要か瞬時に把握できるので、たいしたものだと思います。
取次は一度契約を結んだ書店とは、余程のことがない限り、それを打ち切ることはないとも聞いたことがあります。それは彼らが「本を運ぶ」というシステムそのものであり、ある意味で採算性よりも使命を優先させてきた表れなのだと思います。
時代とともにシステムは、その存続のために調整されていくもので、取次というのはそうした効率化がまず行われる職種ではありますが、その一方で「人の手が通った物流」というものを求めたい気持ちも、まだどこかに残っています。
今回のおすすめ本

営む店でも書く文章でも、堀部さんには「芸」がある。そしてそれは、彼が長年自分の足で集め、浴びるようにして摂取した本や映画、音楽などのカルチャーにより支えられている(つまり、簡単に集めたものは、簡単に失われるということだ)。
時代が変わっても、物事の本質は変わらない。そう思わせる、誠光社店主の本。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年4月25日(金)~ 2025年5月13日(火)Title2階ギャラリー
「定有堂書店」という物語
奈良敏行『本屋のパンセ』『町の本屋という物語』刊行記念
これはかつて実在した書店の姿を、Titleの2階によみがえらせる企画です。
「定有堂書店」は、奈良敏行さんが鳥取ではじめた、43年続いた町の本屋です。店の棚には奈良さんが一冊ずつ選書した本が、短く添えられたことばとともに並び、そこはさながら本の森。わざと「遅れた」雑誌や本が平積みされ、天井からは絵や短冊がぶら下がる独特な景観でした。何十年も前から「ミニコミ」をつくり、のちには「読む会」と呼ばれた読書会も頻繁に行うなど、いま「独立書店」と呼ばれる新たなスタイルの書店の源流ともいえる店でした。
本展では、「定有堂書店」のベストセラーからTitleがセレクトした本を、奈良敏行さんのことばとともに並べます。在りし日の店の姿を伝える写真や絵、実際に定有堂に架けられていた額など、かつての書店の息吹を伝えるものも展示。定有堂書店でつくられていたミニコミ『音信不通』も、お手に取ってご覧いただけます。
◯2025年4月29日(火) 19時スタート Title1階特設スペース
本を売る、本を読む
〈「定有堂書店」という物語〉開催記念トークイベント
展示〈「定有堂書店」という物語〉開催中の4月29日夜、『本屋のパンセ』『町の本屋という物語』(奈良敏行著、作品社刊)を編集した三砂慶明さんをお招きしたトークイベントを行います。
三砂さんは奈良さんに伴走し、定有堂書店43年の歴史を二冊の本に編みましたが、そこに記された奈良さんの言葉は、いま本屋を営む人たちが読んでも含蓄に富む、汲み尽くせないものです。
イベント当日は奈良さんの言葉を手掛かりに、いま本屋を営むこと、本を読むことについて、三砂さんとTitle店主の辻山が語り合います。ぜひご参加下さいませ。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『生きるための読書』津野海太郎(新潮社)ーーー現役編集者としての嗅覚[評]辻山良雄
(新潮社Web)
◯【お知らせ】
メメント・モリ(死を想え) /〈わたし〉になるための読書(4)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第4回。老いや死生観が根底のテーマにある書籍を3冊紹介しています。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。