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本屋の時間

2017.12.15 更新 ツイート

第28回

2017年 こんな本と出合いました。 辻山良雄

iStock/DragonImages

 本が売れないと言われる時代でも、手に取りたくなる本は必ず存在します。この一年も様々な本が出版され本屋の店頭を賑わせましたが、その中から印象に残った本を何冊かご紹介します。もちろん独断で。

 

 ある日、岩波書店の渡部朝香さんが、民俗学者の赤坂憲雄さんを連れて来店されました。民俗学は好きな分野で、著作も昔から好きだった赤坂さんの急な来店に嬉しくも緊張したのですが、これから発売になるというその分厚い本を見てびっくり。鴻池朋子さんによる装画は、意識と無意識双方に訴えかけるようで、インパクトのある題字も印象的です。「売れる」と直感しましたが、硬派な本で重版も重ねているのは、その本が人間の根幹に関わることを扱っているからでしょう。

 愛しているから、食べたい。
「食べる」とはそれを取り込むこと。互いに分かれてしまったものたちが、食べることで一つになる。異類婚姻譚、子どもを食べる怪獣、神話、殺害、生殖……。物語を読み、いのちの根源に煮えたぎる、野生を発見する。縦横無尽な民俗学。

『性食考』赤坂憲雄 岩波書店

 

 BuzzFeed Japanの記者、石戸諭さんの単著は、東北に暮らす〈個人〉に焦点を当て取材を重ねた記録。石戸さんにはスマートな人というイメージがあったので、少し意外だったということをメールでお伝えしたところ、「威勢のいい感じの本は世の中に溢れていますので、大切なことを大切だと大まじめに書く本にしました」いうご返事を頂きました。自分の浅薄さを大いに恥じるとともに、社会のなかで見落とされがちな声を拾い伝えていくという記者の仕事の本質を、石戸さんの言葉に見た気がしました。

 俯瞰して分析すればそこで話は終わる。しかし数ではない、個人の人生はその後も続いていく。顔が見える「個」の傍に立ち、そこにある死、悼みを取材した。いまここに立つと、何も終わってはいないし、そこから始まる物語があることが何より大切だ。
『リスクと生きる、死者と生きる』石戸諭 亜紀書房

 

 それまでは、店にお客さんとして来ていた音楽家の外間隆史さんから、「本を作ろうと思っているのだが……」と相談を受けたのは一年以上前の話。その後外間さんは未明編集室を立ち上げ『未明01』を刊行、紆余曲折ののち、外間さんが敬愛する詩人・原民喜の童話集を先日刊行しました。Titleで刊行記念イベントをやるのは決まっていたのですが、本が届くのは当日だということ。内心冷や冷やとしていたときに、ひょっこりと現れた外間さんが鞄のなかから取り出したのは、函入りの瀟洒な一冊の本。「いい本が出来ましたね」と、どちらともなく破顔しました。

 原民喜が遺した童話を集めた童話集と、民喜を敬愛する書き手たちによる別巻が合わさった、2冊函入りの本。手にしただけで、その愛情が伝わる装幀はもちろん、透明なガラス瓶のような詩情は、読むものの感情を宙づりにする。
『原民喜童話集 / 【別巻「毬」】』原民喜 イニュニック

 

 今年の「本屋の時間」はこの回で最後になります。来年もこの場所でお会いしましょう。

(今回のおすすめ本はお休みします)

◯反響多々!! 連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。



◯2022年1月13日(木)~ 2022年2月3日(木)Title2階ギャラリー

 浅生ハルミン『江戸・ザ・マニア』刊行記念 趣味はこうして受け継がれる-「ずっとの趣味」の達人たち

「盆栽」「金魚」「古地図」などなど、江戸っ子たちがハマって、エスカレートした趣味の世界。現代でもそれらを楽しむ“マニア”な方々にその魅力を聞いたイラストルポ『江戸ザマニア』。取材の中で浅生ハルミンさんが感じた、趣味の達人たちの「好き」の熱量を、本には掲載できなかった写真や資料と一緒にご紹介します。

◯2022年2月5日(土)~ 2022年2月22日(火)Title2階ギャラリー

ほっきょくでうしをうつ
阿部海太原画展『ほっきょくでうしをうつ』刊行記念

「はらがへった……どこかに えものになる どうぶつは いないのか」極限の地で出会ったのは、ジャコウウシの群れだった。探検家・角幡唯介の実体験を、画家・阿部海太が大胆に絵本化した1作。本展では油彩で描かれた絵本原画全点の展示に加え、描きおろし作品数点の展示販売も予定しています。


◯【書評】
『障害をしゃべろう! 上・下』里見喜久夫編(青土社)
たのもしい「生きよう」とする力  評/辻山良雄


連載「私の好きな中公文庫」
もう20年以上ずっと頭のどこかにある本 辻山良雄

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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