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文豪の女遍歴

2017.12.06 更新 ツイート

田山花袋ーー弟子への慕情と生涯の愛人と小谷野敦

小谷野敦著『文豪の女遍歴』(幻冬舎新書)――夏目漱石、森鷗外、谷崎潤一郎ほか、スター作家62名のさまよえる下半身の記録。姦通罪や世間の猛バッシングに煩悶しつつ、痴愚や欲望丸出しで恋愛し、それを作品にまで昇華させた日本文学の真髄がここに。
 

 

 

田山花袋 (一八七一 〜 一九三〇) Katai Tayama

 花袋は、本名・録弥、群馬県の出身である。世間には、五十歳近くなった、太った写真が流布しているが、若い頃のは、美形ではないが、痩せていてそれなりに貫録がある。

 花袋は長く博文館に編集者として勤め、のち自然主義の牙城となる『文章世界』の編集長をした。親友の太田玉茗(ぎょくめい)の妹と自然に結婚したが、何といっても、明治四十年(一九〇七)に発表した「蒲団」で知られる。

「蒲団」で、主人公の作家・竹中時雄(古城)のもとへ、弟子になりたいと言ってくる横山芳子のモデルは、広島県上下町(じょうげちちょう、現府中市)出身の岡田美知代である。はじめ竹中は断るが、懇望されて弟子入りを許すと、存外かわいらしい少女であった──美知代は、それほどの美人ではないが、若ければそこそこかわいい、という顔だちである。竹中は次第に芳子にかすかな慕情を覚え、芳子から慕われていると思っていたのが、いつしか芳子に田中という恋人がいるのが分かり、芳子の父を呼んで相談する。芳子は、田中との間に汚れた関係はない、つまりセックスはしていない、と言うのだが、その後、「私は堕落女学生です」と、関係があったことを告白する手紙をよこし、父に連れられて郷里へ帰る。竹中は、そんなことなら貞操を重んじる必要もなかった、自分もやってしまえば良かった、と思い、帰省した芳子の蒲団に顔をうずめ、女の匂いを嗅いで泣く、というのが「蒲団」である。

 これは、発表の三年ほど前に実際に起きたことである。だが、花袋が書かなかったことがある。美知代が来てからほどなく、花袋は日露戦争(一九〇四年勃発)に従軍記者として出征する。すると美知代は、花袋宛にさんざん手紙を書く。それが、ほとんど恋文のようなものすらあるのである。「中年」などと言っているが、花袋はまだ三十四、五で、若い女からこんな手紙をもらったら、そりゃあその気になるだろう。

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夏目漱石、森鴎外、谷崎潤一郎他、スター作家62名のさまよえる下半身の記録。姦通罪や世間の猛バッシングに煩悶しつつ、痴愚や欲望丸出しで恋愛し、作品にまで昇華させた日本文学の真髄がここに。

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小谷野敦

一九六二年茨城県生まれ、埼玉県育ち。東京大学文学部英文科卒業、同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士(比較文学)。大阪大学言語文化部助教授、国際日本文化研究センター客員助教授などを経て、文筆業。『もてない男』(ちくま新書)、『聖母のいない国』(青土社、河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、『谷崎潤一郎伝』『川端康成伝』(ともに中央公論新社)、『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)など著書多数。小説に『母子寮前』(文藝春秋、芥川賞候補)、『悲望』(小社)、『童貞放浪記』(小社、二〇〇九年映画化)、『中島敦殺人事件』(論創社)がある。

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