1. Home
  2. 社会・教養
  3. 文豪の女遍歴
  4. 永井荷風――妻を恐れる男たちの憧れ、だが

文豪の女遍歴

2017.11.18 更新 ツイート

永井荷風――妻を恐れる男たちの憧れ、だが小谷野敦

小谷野敦著『文豪の女遍歴』(幻冬舎新書)――夏目漱石、森鷗外、谷崎潤一郎ほか、スター作家62名のさまよえる下半身の記録。姦通罪や世間の猛バッシングに煩悶しつつ、痴愚や欲望丸出しで恋愛し、それを作品にまで昇華させた日本文学の真髄がここに。

永井荷風(一八七九 〜 一九五九) Kafu Nagai

 荷風、永井壮吉といえば、狭斜(きょうしゃ)の巷に遊び、多くの藝者・娼婦と関係をもち、最後は独身のまま孤独に死んだ文学者として、妻を恐れる男たちから憧憬の念をもって見られている。

 荷風の父・永井禾原(かげん、久一郎)は、漢詩人であり実業家であって、長男の壮吉(荷風)は、生涯遊んで暮らせるくらいの遺産を受け継いだから、生活のために小説を書く必要がなかった。西洋ではこういう「年金生活者」をランティエというが、角川春樹事務所から『ランティエ』という雑誌が出ていた(今はPR誌)のも、これに憧れる男たちがいたからだろう。

 大学へは進まず、落語家になろうとしたり、歌舞伎座へ入って狂言(歌舞伎台本)作者になろうとしたりして、かたわら吉原へ通うという遊蕩児で、新聞記者になって小説を書いた。

 二十四歳の時、父は、銀行家にするつもりで、荷風をアメリカへ留学させる。ミシガン州のカラマズー大学に学んだり、公使館に勤めたりと放浪生活を送り、イデスというアメリカ人の愛人を作ったりして、当時文化の中心とされたフランスへ渡ろうと考え、二年ごしで父に頼んでフランスへ渡り銀行に勤務するが、ついにその生活に耐えられず、五年の欧米滞在ののち、三十歳近くなって帰国。『あめりか物語』を出して文名が上がった。

 続いて『ふらんす物語』も刊行しようとしたが、これは性的表現のため発禁になる。荷風はその年、新橋板新道の藝者・富松(吉野コウ)となじみを深める。翌明治四十三年(一九一〇)、慶應義塾大学が文学部を刷新するため、三十一歳の荷風は教授に招かれ、『三田文学』の編集に当たる。慶應の人から「早稲田に負けないようがんばってください」と言われ、こいつは文藝を野球のように思っている、と軽蔑する。この年、谷崎潤一郎がデビューし、荷風はその「刺青」を激賞したので、谷崎は荷風を師と仰いだ。その秋、荷風は新橋の藝妓 巴家八重次(ともえややえじ、金子ヤイ)となじみになり、富松は金持ちに落籍された。

 明治四十五年(大正元年=一九一二)九月には斎藤ヨネと結婚するが、これは材木商の娘の素人女で、父の言うままに結婚したのだったから、八重次はあいかわらず妾としていた。だがその翌年一月、父が急死したため、すぐにヨネと離婚し、大正三年(一九一四)には金子ヤイとの結婚披露をおこなった。だが弟の威三郎は荷風に不満を抱き、そのため親類から遠ざかる結果になる。

 しかしそのヤイとも翌年離婚、ヤイはのち、藤間流の舞踊家・藤間静枝として名をあげ、大正末には年下の慶大生・勝本清一郎の愛人となり、勝本の台本で舞踊の会などを開いた。

ここから先は会員限定のコンテンツです

無料!
今すぐ会員登録して続きを読む
会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン

関連キーワード

関連書籍

{ この記事をシェアする }

文豪の女遍歴

夏目漱石、森鴎外、谷崎潤一郎他、スター作家62名のさまよえる下半身の記録。姦通罪や世間の猛バッシングに煩悶しつつ、痴愚や欲望丸出しで恋愛し、作品にまで昇華させた日本文学の真髄がここに。

バックナンバー

小谷野敦

一九六二年茨城県生まれ、埼玉県育ち。東京大学文学部英文科卒業、同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士(比較文学)。大阪大学言語文化部助教授、国際日本文化研究センター客員助教授などを経て、文筆業。『もてない男』(ちくま新書)、『聖母のいない国』(青土社、河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、『谷崎潤一郎伝』『川端康成伝』(ともに中央公論新社)、『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)など著書多数。小説に『母子寮前』(文藝春秋、芥川賞候補)、『悲望』(小社)、『童貞放浪記』(小社、二〇〇九年映画化)、『中島敦殺人事件』(論創社)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP