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東芝の悲劇

2017.10.26 公開 ポスト

東芝崩壊の戦犯たち――佐々木則夫・無謀の人大鹿靖明

写真提供:東京電力

 10月24日、東芝の臨時株主総会が開かれ、半導体事業の売却が承認されました。来年3月末までに売却益が入れば、債務超過を脱して上場廃止は回避。しかしそのためには、各国の独占禁止法の審査と、売却反対を申し立てているウエスタンデジタル社との和解という、大きな壁が立ちはだかります。
 東芝凋落の軌跡を追った大鹿靖明さんの『東芝の悲劇』。転落に陥った要因はいくつもありますが、最大の要因のひとつは、言うまでもなく3・11の原発事故でした。このときの社長・佐々木則夫氏が、東芝ではきわめて異例の原子力部門の出身であったことが、東芝の命運をさらに大きく左右することになります。

 * * *

 2011年3月11日午後2時46分、後に「東日本大震災」と呼ばれる世界最大級の地震が東日本を襲った。大津波によって東京電力の福島第一原発は全電源を喪失し、1号機は12日午後3時36分、原子炉建屋が破裂するように砕け、噴煙があたり一面を覆った。水素爆発だった。衝撃的な原発爆発のシーンはテレビ映像を通じて全世界に報じられた。

 首相官邸にいた寺田学首相補佐官が驚いて「総理、原発が爆発しました」と告げると、菅直人首相はテレビ画面を凝視したまま絶句した。官邸に詰めていた原子力安全委員会の班目春樹委員長は「絶対に爆発しません」と言ってきただけに、官邸における信用を落とすことになった。

 参集した原子力安全・保安院や東電の専門家たちの説明はそれぞれまちまちで、どれもこれも要領を得なかった。頼りなさを感じた菅は、東工大の学生時代の旧友である北陸先端科学技術大学院大の日比野靖副学長を思い出し、自身の相談相手として呼び出すことにした。日比野が官邸にやってきたのは12日午後9時ごろのことだった。

 保安院や各省から送り込まれた官僚は文系の事務官が少なくなく、原発の技術的なことには疎かった。それにいらだつ菅に対して日比野は、「福島第一原発は米ゼネラル・エレクトリック(GE)がおおもとで、日立と東芝が下請けになって造ってきました。現場の技術的なことならば、日立や東芝の人が明るいでしょう」と進言した。すると、菅は「すぐに連絡しよう。社長を呼べ」と、12日の夜には両社に連絡している。

 東芝の佐々木則夫社長は翌13日午前11時すぎ、官邸5階の菅の執務室にやってきた。菅がいきなり、「このあと2号機や3号機はどうなりますか?」と尋ねると、佐々木は間髪入れず「続けて水素爆発します」と言った。その即答ぶりに周りは水を打ったように静まり返った。

 菅が「社長のご専門は?」と尋ねると、「原子力です。ずっと原子力をやってきました」と佐々木は言う。「なんとか水素爆発を止める方法はないでしょうか。建屋の天井に穴を空けて水素を逃がすことはできませんか」。すると、佐々木は「いえいえ、そんなことをしたら火花が出て危ないです。一気に爆発する可能性があるので難しいです」と言い、代わりに「ウォータージェットで壁に穴を空けましょう」と提案した。高圧で水流を噴射して掘削する重機があるという。

 佐々木の進言を首相は頼もしく思ったようだった。同席していた日比野は「それまでの東電や保安院の人とは違って、非常に的確な受け答えをし、具体的な解決方法まで提案された。とても信頼できる専門家が現れた」と思った。

 佐々木はこのとき、「実は私どもの手配した救援隊が福島の現地に向かっているのですが、避難命令が出ていてたどりつけないのです」と打ち明けた。事故現場で必要になりそうな物資や機材を5台のトラックに載せて現地に向かわせたが、福島を目前に止められている、急いで送り出したため、車両前面にとりつける「緊急」と書いた垂れ幕をつけ忘れた、という。その話を聞いて菅は驚いた。「なんで緊急車両が緊急時なのに福島に入れないんだ」。すかさず危機管理担当の官僚を呼びつけ、善処するように指示した(*1)。

 このあと、水素爆発を防ごうと、ウォータージェットの準備に取りかかったが、機器が届くのが遅かった。14日午前11時1分、3号機の原子炉建屋は一瞬、赤い炎を放つと瞬く間に巨大な黒い噴煙に包まれた。水素爆発だった。佐々木が予言した通りだった。

 東電原発爆発事故は、東電はもとより、佐々木と東芝にとっても明らかに大きな転換点となった。原発事故が起きるまで東芝は原発に最も入れ込んだメーカーと目されてきた。誰もが東芝の痛手は大きくなると予想した。高値づかみをしたウェスチングハウス(WH)の減損を含めて原発ビジネスの大幅な軌道修正は不可避だろう。そう多くのものが受け止めた。

*1 ここまでの官邸におけるやり取りは日比野靖へのインタビューによる。2017年6月28日。

 * * *

 原発事故により、2015年までに全世界で39基の原発を受注するという東芝の計画には暗雲が立ち込め、アメリカでのプロジェクトも頓挫。ドイツのメルケル政権も原発推進から一転して脱原発に舵を切りました。
 しかし、佐々木社長は……・

→次ページに続く

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東芝の悲劇

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大鹿靖明

1965年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。ジャーナリスト。著書に『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』(朝日新聞社)、『ヒルズ黙示録・最終章』(朝日新書)、『墜ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版社)、『ジャーナリズムの現場から』(講談社現代新書)。『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)で第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。築地の新聞社に勤務。2017年、労組委員長に立候補し、落選。

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