

Titleでは店の本棚を動かして(車輪がついています)スペースを作り、本の著者をお招きしてのトークイベントを頻繁に行っています。Titleに限らず、こうしたトークイベントを行う書店は増えてきており、東京ならば毎日幾つかの店でイベントが開かれています。著者が実際に目の前で話すことは、その本の理解につながるとともに、更なる本への好奇心を育てることにも繋がります。
先日行ったイベントのあと、参加のお客さまと話している時にはっとする言葉と出会いました。その時その人は「……反対にわかった気になり、本を読むことをしなくなるイベントもあります」と話されました。確かに身に覚えのあるようなことではありますが、「本を読むことをしなくなるイベント」ってどういうことでしょうか?
イベントを数多く行っていると、その終了後に本が飛ぶように売れるときと、まったく売れないときがあることを経験します。話を聞いたあとにお客さまが本を買うということは、その心に積極的な火がついたということです。話す人がお客さまの心に直接語りかけ、「もっと知りたい」という気持ちにさせたとき、本は売れます。

反対に有名人同士の対談でも、本が売れないときもあります。当人たちは楽しんで話しており、その話も聞いていて面白いのですが、何となく「興行感」が漂っている場合です。そうした時は、テレビを見ている時と同じで、ショーとしては面白いのですが、それが終わったあとに引きずるものがなく、自発的に本を読もうという気になりません(内輪感のするイベントでも、同様のことが起こります)。その話が深く自分のことになっていないとき、人は本を読み、それ以上のものを求めることはしません。
本を買って読むことは、ただSNSやテレビを見ていることよりも、積極性が必要です。読者の積極性を引きずり出すには、話す人や会場の雰囲気に、どこか真摯さがないと伝わらないのかもしれません。
今回のおすすめ本

『それでもそれでもそれでも』著者:齋藤陽道 版元:ナナロク社
Titleの写真を撮ってくれた齋藤陽道。齋藤さんと会うと、その後ろに大きな「自然」を感じるときがあります。齋藤さんの見ているものは、本当はみんなに見えているのだけれど、なぜか見えなくなってしまったもののようにも思えます。
ひたむきな文章が心にしみわたる、写真と文章の本。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年4月25日(金)~ 2025年5月13日(火)Title2階ギャラリー
「定有堂書店」という物語
奈良敏行『本屋のパンセ』『町の本屋という物語』刊行記念
これはかつて実在した書店の姿を、Titleの2階によみがえらせる企画です。
「定有堂書店」は、奈良敏行さんが鳥取ではじめた、43年続いた町の本屋です。店の棚には奈良さんが一冊ずつ選書した本が、短く添えられたことばとともに並び、そこはさながら本の森。わざと「遅れた」雑誌や本が平積みされ、天井からは絵や短冊がぶら下がる独特な景観でした。何十年も前から「ミニコミ」をつくり、のちには「読む会」と呼ばれた読書会も頻繁に行うなど、いま「独立書店」と呼ばれる新たなスタイルの書店の源流ともいえる店でした。
本展では、「定有堂書店」のベストセラーからTitleがセレクトした本を、奈良敏行さんのことばとともに並べます。在りし日の店の姿を伝える写真や絵、実際に定有堂に架けられていた額など、かつての書店の息吹を伝えるものも展示。定有堂書店でつくられていたミニコミ『音信不通』も、お手に取ってご覧いただけます。
◯2025年4月29日(火) 19時スタート Title1階特設スペース
本を売る、本を読む
〈「定有堂書店」という物語〉開催記念トークイベント
展示〈「定有堂書店」という物語〉開催中の4月29日夜、『本屋のパンセ』『町の本屋という物語』(奈良敏行著、作品社刊)を編集した三砂慶明さんをお招きしたトークイベントを行います。
三砂さんは奈良さんに伴走し、定有堂書店43年の歴史を二冊の本に編みましたが、そこに記された奈良さんの言葉は、いま本屋を営む人たちが読んでも含蓄に富む、汲み尽くせないものです。
イベント当日は奈良さんの言葉を手掛かりに、いま本屋を営むこと、本を読むことについて、三砂さんとTitle店主の辻山が語り合います。ぜひご参加下さいませ。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『生きるための読書』津野海太郎(新潮社)ーーー現役編集者としての嗅覚[評]辻山良雄
(新潮社Web)
◯【お知らせ】
メメント・モリ(死を想え) /〈わたし〉になるための読書(4)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第4回。老いや死生観が根底のテーマにある書籍を3冊紹介しています。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。