ここ最近、本や本屋を特集する雑誌の発売が続いています。先日発売になった『POPEYE』も「君の街から、本屋が消えたら大変だ!」という特集でしたが、その号がネット書店のAmazonで売れているということが、SNS上でちょっとした話題になっていました。
タイトルからすれば、もちろん皮肉なことです(この特集号だけは、本屋限定で発売すれば面白かったと思いますが、そうもいかないのでしょう)。しかしネット上には、現実の世界とは違う人のふるまいがあり、そのズレを理解しておかないと、大きな勘違いが起こる時もあります。
Titleでは、その日入荷した本をTwitterで紹介していますが、何かの拍子にそれが大きく拡散されることがあります。ではそうした本が、Titleの店頭やWEBSHOPから数多く売れるのかといえば、残念ながら「少し売れた」という程度です。出版社に聞くと、その本の売り上げは伸びたらしいので、役に立ってはいそうなのですが。紹介文を「面白そうだからポチった」と、引用されることもしばしばあります。
SNSで「いいね」を押すのは気軽に出来ますが、その人がそこから実際に店まで足を運び、本を買うということまでは、大きな飛躍があります。本屋の立場からすれば、売上に関わる〈リアル〉はウェブ空間にはなく、その店の店頭(他にはその店が運営するWEBSHOP)で起こることにあります。自分が発信した情報を、多くの人に知ってもらえることは嬉しいのですが、それと本屋の経営とは別に考えておく必要があります。
個人的には、Amazonを利用することはありません。それは、そのサービスが必要な状況にあるわけではないということと、自分のお金は、その活動を支援したいと思うような場所で使いたいと思っているからです。そしてこのことは、自分で店をやるようになって、より強く考えるようになりました。
ある店がなくなり、それを「本当に」惜しむことができるのは、実際その店にお金を使った人だと思います。
今回のおすすめ本
これも最近Titleで売れている本。高円寺で「円盤」というレコードショップを経営している田口史人さんが、偶然拾った一冊の日記。1973年に書かれたというその内容は、無名である文学青年の心情が細やかに綴られており、時代を超えてそれを読むことの不思議を感じる。
ページをめくる手が止まらなくなる一冊。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年1月11日(土)~ 2025年1月28日(火)Title2階ギャラリー
本と本のあいだに、ページのすき間に、そっとひそんで暮らしている小さな子どもたち。よーく目をこらしてみると、きっとあなたのそばにもいるはずです。スタジオジブリの小冊子『熱風』に連載したイラスト「Teeny Tiny」の原画とともに、端材に絵を描いたウッドブロック作品の新作を展示販売します。
◯2025年1月31日(金)ー 2025年2月17日(月)Title2階ギャラリー
三國万里子『三國寮の人形たち』刊行記念
西荻窪と、本のある暮らし
ニットデザイナーの三國万里子さんが、人形を慈しみながら編んだちいさな服と、ことば。
西荻窪善福寺の住宅街にある「三國寮」を舞台に、手作りの洋服とヴィンテージ家具に囲まれて暮らす人形たちの写真と物語、エッセイ4本を収録した『三國寮の人形たち』。このたび、書籍の刊行を記念して、企画展「三國寮の人形たち 西荻窪と、本のある暮らし」を開催いたします。
善福寺公園で撮影した書籍未収録の写真や展示用の撮りおろし写真、書籍にも掲載しているイラストレーター・フランスガムさんによる「三國寮」周辺地図の原画を特別に展示。他にも気になるフェアや雑貨の販売がございます。詳細はリンクから。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
[NEW!!]
メメント・モリ(死を想え) /〈わたし〉になるための読書(4)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第4回が更新されました。今回は、老いや死生観が根底のテーマにある書籍を3冊紹介しています。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。