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外国人の観光客だったら日本は受け入れる

 ホテルは、まずサイトで内容を比較検討するのが楽しいんですよね。滞在日数が多くないとserendipity(偶然の出会い)は生まれない。現地で思いつきでスケジュールを立てるようにしないと、休みにならないと思うんですよ。

瀬口 日本人は欲望や不満の度合いが相対的に薄いんじゃないでしょうか? パッケージ旅行で安心を選んでいるわけですから。僕も縦軸ではなくて横軸の「弱いつながり」も必要だと思います。

 旅行に限らず、数値やスケジュールを詰めていく傾向は深刻な問題だと思います。友人たちが大学で教えていますが、年々、シラバスの記述について文部科学省からの指導が厳しくなっているそうです。教育というのは本当は、知識の伝達以前に「経験」であって、「何となくこの先生についていったら人生変えられた」みたいなことの連続でしかないのですが、これはシラバスには絶対に書けない。パッケージ旅行の問題と同じですね。

瀬口 日本人のスケジュール好きはどうしたら変わるでしょうか?

 『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』という本を作り、ぼくの会社でプログラムを組み立てて、HISさんのパッケージ旅行を発売しました。先日その同行でチェルノブイリとキエフに1週間行ったんですが、ウクライナ側の都合もあってどんどんスケジュールが変わるんです。最初はそれに不満を漏らすお客さんもいるけど、2~3日経つと慣れて、こういうものなんだと変わっていく。spontaneous(なりゆき)に身を任せたほうがおもしろい、という経験をどれだけ与えられるかが鍵だと思います。

瀬口 クラブメッドは社員が半分以上は外国人で、初めての日本人のお客様は時間通りにすべてが進まないことに驚かれる。でも、スタッフは一生懸命に接してくれるので、あるとき、こういうのもありかなと受け入れてくれる。そういう瞬間がチャンスだと思います。

 日本は移民や労働者を受け入れることに対して拒否感が強いけど、観光客だったら受け入れざるを得ない。日本の風土を変えることに外国人観光客の果たす役割は大きいと思います。

瀬口 ムリヤリこじあけてもらうしかないですね。

 このあいだ北海道のニセコに行きました。ニセコはご存知の通り、大量の外国人観光客によって街やリゾートの性格が変わってしまっている。日本のリゾートの未来を示していると思いました。

瀬口 アジアからの観光客が増えていて、北海道の自治体の方に話を聞くと、バス不足やインフラの問題もありますが、いちばんの頭痛は人材だそうです。言葉から対応のレベルを満たしたホスピタリティの訓練を受けている人間がいない。

 日本は中途半端に自国の市場が強いので、出版や放送メディアに外国のコンテンツが入りづらい。ネットも同じですね。日本語でいろんな情報が手に入るんだけど、地理的に見ると日本語を読んでいるのはこの小さな日本列島にしかいない。けれど、市場が大きいのは確かだから、この状態を一気に変えるかは難しいですね。それでも、局所的には、外国人観光客がようしゃなく押し寄せることで日本語だけのルールでは完結できなくなる、そこに希望を見いだすぐらいしかないと思います。

瀬口 プチ黒船ですよね(笑)。

 日本人のメンタリティは、沖縄や北海道という「辺境」から変わっていくのかもしれませんね。東京は、グローバルシティといっても、あくまでも日本人のために作られたグローバルシティですし。


行き先はその場で決めればいい

瀬口 僕は年間120~130日くらい出張で、たいがい海外にいるんですけど、意識的に出張を延ばして1、2日でもいいので休暇にします。もちろん自費です。ちょっと罪悪感を抱く部分もあったんですけど、『弱いつながり』で正統化されました(笑)。その休暇では、同じところに行かないようにしています。パリやロンドンから急にプラハに行くと急に決める。ちょっと高いけど、まったく想像のできない世界や一度も経験しない場所とかにわざと行くようにします。あと歩くことをしますね。そういうやり方でバックパッカー時代の自分を取り戻すようなところがあります。

 その場で思いついてやるというのはすごく大事だと思います。日本人はそもそも休暇をとらない人が多いうえに、休暇をとるときは一年前から決めるという人が多い。それが僕にはどうしてもなじめない。

瀬口 パッケージ旅行の価格は1年近く前から決めないといけないという仕組みになっているので、仕組みに踊らされてもいますね。私たちは加害者でもあるわけです。

 休暇の行き先もその中のスケジュールも決まっているというのは、ちょっと異常事態です。それ、休暇じゃないです(笑)。そもそも休暇に対して精神的なコストをかけ過ぎだと思います。休みだから多少のトラブルがあってもしょうがないやって思っておけばいいのに、それが絶対に許せない。

瀬口 心配性の国民性ですよね。

 ビジネスでも同じですよね。消費者としてはクレーマー、生産者としては心配性。少しのミスでも顧客がクレームをつけてくるから、みなピリピリせざるをえない。その状況をどんなふうに変えたらいいのかはさっぱりわからないけど、とにかく休暇について計画を立てないほうがいいと思います。これじゃ、旅行業者を営業妨害しているみたいですが(笑)。

瀬口 クラブメッドは商売でもあるけど、スタッフは旅行者や生活者でもあるので、どちらの気持ちもわかります。自分が旅行をするときも、「旅先ではいろいろあるよね」という感覚を忘れたくないです。
(後編に続く)

 

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『弱いつながり』紀伊國屋じんぶん大賞1位記念対談「観光を考える」

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東浩紀

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

瀬口盛正

株式会社クラブメッド代表取締役社長。1965年生まれ。米国ニューヨーク大学歴史学部卒。スイスIMD経営修士号修了。15歳の時にバックパッカーとしてヨーロッパ一人旅に出る。米国、スイス、メキシコで20年近い海外生活の後、現在は東京をベースに年間120日出張で各国の現場に赴く。2000年に㈱博報堂を退社。欧州に渡りMBAを修了した後、オランダ系多国籍企業に就職し日本やメキシコの社長を務める。2011年より現職。http://moriseguchi.com/

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