この数週間、日本全国から忌み嫌われていた男……瀬尾充(松山ケンイチ)。
彼は、現在放送中のドラマ「Tシャツが乾くまで」(TBS)の中で不運なバス事故に見舞われた被害者の1人かと思われたが事故があったバスには乗っていなかった人物であり、無事だったのにも関わらず妻:咲子(蒼井優)の元に帰らない……。どころか咲子への連絡すらまともにしなかった人物でもあり、夫のいる女性:あずさ(夏帆)と秘密裏に会っていた人物でもあるのだ。
視聴者達は、上記の文の太字になった部分に対しての説明が少なすぎる……。
いや、説明したとしても充の全ての行動は許されるものではないのでは? と思わずにはいられなかった。
しかし、あまりにも理解し難い充の行動の裏には、並々ならぬ事情があるのではないか? と考えてしまうのが日本人の優しいところ。
充が咲子の元へ戻らない理由やあずさとの関係性について、世の中には様々な考察が流れた。
「充は余命宣告をされる程の病気を抱えているから、咲子を悲しませないために自ら姿を消したのではないか?」
「充とあずさ、実は兄妹なのではないか? だから2人で育ての親に会いに行った?」
など……。
とにかく充は咲子に悲しい思いをさせないためにやっていることなんだ! という方向の真相を健気に探そうとしていた。(今思えば結局咲子が悲しんでいるのだから、そんなはずはなかった)
しかし先日放送された第7話にて、そのどれもが覆った。

そう、充には“失踪癖”があったのだ。
その癖が、親に会いに行く長野行きのバスのサービスエリアで突然出てきてしまったというのだ。
さらに充とあずさの関係は、毎月第3金曜日にコインランドリーでお話をする。
“人生には関係ないから何でも話すことができる嫌われてもいい相手”でしかなかったのだ。
……これは、何と言ったら良いのか。
まずは充の失踪癖から見ていこう。
“失踪癖”こそが救いだった充の悲しい生い立ち
充は両親から望まれない子供として生まれた。
両親は充が出来たから仕方なく結婚をし、充には愛情を注ぐことなく育てた。
何不自由なく暮らせているものの、両親からの愛情は一切感じなかったという充。
さらには父親が転勤族だったこともあり、充には特定の地元や幼馴染といった“帰る場所”がなかったのだ。
心身ともに帰る場所がないといえる充。
しかし充が8歳の頃、母親が機嫌のいい時に連れて行ってくれた喫茶店のマスターの一言により充は救われたと同時に、彼の失踪癖は開花した。
「どこか一つの場所やらどこか一人にこだわる必要はない。これからはどこへだっていける。いろんな人に出会える。」
それからというもの、充は2~3年おきになるべく自分のことを知っている人に会わない場所を目指す“失踪”を繰り返すようになった。
どうやら“誰にも知られず遠くへ行くのが快感”なんだという。
その癖が出てしまったことが今回失踪した原因だった。
そして「他人に理解されない」という自負があったこの癖を妻である咲子に話すことで「嫌われてしまったらどうしよう」という思いと、結婚前に決めた“話したくないことは話さないでいい”というルールにより、充は咲子に“失踪癖”を話せないでいたというわけだ。
この気持ちを理解できる感覚は持ち合わせていないが、充が“好きで失踪をしているわけではない”ことは明白だ。
幼少期のトラウマにも近い“愛されない”という感情を楽にした“失踪”という快感が、今にも胸に焼きついて消えないのだろう。
失踪中に初めて、もう一度会いたいと思えた人である咲子との暮らしの中でも、逃げだしたいと思ってしまう感覚……想像するだけでもつらい。
充は専門機関への相談を急いだ方がいいのではないかとさえ思う。(すでに心療内科等に通っているのかもしれないが……)
一部では「失踪癖を抱えているのなら、結婚しない方がよかったのでは?」という声もある。
確かに現状、咲子をはじめ他人の家族をも巻き込む大事になってしまっているためにそう思うのも無理はないだろう。
精神疾患に近い症状を結婚の際に相手に伝えないのはルール違反のような気もする。
しかし、(結婚をしていない私が言うのもなんだが)皆は結婚相手に“全て”を言えるだろうか? 言っているだろうか?
誰もが大なり小なりパートナーに隠し事はあるだろうし、それを知られたら嫌われるかもしれない……という恐怖は何も失踪癖に限ったことではないはずだ。
咲子は充が抱える失踪癖の中で出会えた唯一の光。
それを失う怖さと、失踪癖がまた現れる怖さの両方と共存して過ごさなければいけなかった充の心労は理解してあげたい。
だからと言ってこのような事態になってしまっては、話はまた次のフェーズへと移っていくだろう。
咲子も自分の人生があるため、この事実を知った上で今後をどうするかを選択する権利はある。
失踪癖を理解することと、それを踏まえて一緒にいようとすることは決してイコールではない。
どうやら次は咲子がいなくなってしまうようだが(なんで? )、咲子が選ぶ行末にも注目だ。
あずさが犯した“2回”のミス
続いては充とあずさの“名前のない関係”を見ていこう。
彼らは第3金曜日にコインランドリーでお互いが夫婦では話せない話をする間柄であった。
“人生には関係ないから何でも話すことができる嫌われてもいい相手”
頭ではわかっていてもそんな毎月会っていたら嫌われるのが怖くなってしまわないのか? とも思ってしまうが、彼らには本当にそれがなかったのだろう。
部屋で1人、誰にも言えないことをぬいぐるみに話しかけることとどこか近しい感覚だったのかもしれない。
しかも相手が考えて喋れる“人間”なものでぬいぐるみではなしえない返答が来る……確かに気分はよさそうだ。
あずさの夫:樹生(中島歩)が言うように、「恋愛関係とは別にある信頼関係ってあまりにも強くないですか?」と2人を側から見ればそう思う。
でも本当に2人はそれほど強固な信頼関係で結ばれていたわけではないという事実。
この真相は当人同士でしかわからないものであるため、それこそ墓場まで持っていく事案だったことは間違いない。
それが出来たはずだ。
……あまり言いたくはないが、あずさがコインランドリーの外で充と会おうとしてしまったことで全てが狂ったといえよう。

それさえなければこのような事態にはならなかった。
決してたらればの話をしたい訳ではなく、ここから見えるのはあずさの温度感が充とは少し違っていたということ。
恋愛感情こそないにしても、充が働いている喫茶店に出向いたり、親に会いに行く充に同行するというあずさの行為は、嫌われてもいい相手にする行動からは逸脱しているように思える。
充からはラインを越えようとしていなかったため、あずさの中では少しずつコインランドリーだけの充から、気の知れた友人の充に変わりつつあったのではないか。
(かと言って、あずさの長野行きを了承した充にも心境の変化はあったかも……)
しかしあのまま第3金曜日の関係を続けていたとしても、どこかで2人の関係性は変わっていたかもしれない。
充が心動かされ、コインランドリー外でのあずさの生活に充が足を踏み入れた可能性だってある。
遅かれ早かれコインランドリーの外で会う2人の時間は訪れていただろう。
そりゃ何年もの間に毎月会っていたら……。いつしか人生に関係ある人になってしまうはず。
それが2人の人生に、夫婦関係を維持していくために、どうしても必要だったもので、誰にどう詰められても後ろめたい関係性ではなかったのなら、これはもう“仕方ない”としか言えないのではないか。
結果こそこのようになってしまったが、充とあずさの関係がなければお互いの家庭のまた違うところに皺寄せがあったかもしれないし。
充とあずさ……それぞれがコインランドリーで出会った相手が、お互いの性愛の対象ではない性別だとしたら、もっと幸せな未来になっていたのかもと思うと……なんとも歯がゆい。
結論「なんか嫌だ」
コインランドリーで知りあっただけの既婚者の男と女が仲睦まじい姿を見て、それぞれのパートナーが複雑な感情を抱くことは何らおかしくはない。
それは決めつけでも信じていないという話でもなく、充が失踪癖を周りに理解されないと思っているのと同じく、「コインランドリーで出会った既婚男女が仲睦まじく過ごすこと」もまた、世間には理解され難いものの一つでしかないと私は思う。
あと人は、真相がどうであれ「何か嫌だ」という感情もあるだろう。
もし私の(実際未婚ですが)結婚相手が同じことをしていたら真相はどうであれ「何か嫌だ」と思ってしまう。
自分がその存在に救われていたとしても、その存在と関わることを自分のパートナーが知ったら抱く感情を想像できなかったのだろうか。
だからやっぱり私は、充とあずさを「何か嫌だ」と思ってしまうところからはまだ脱せられそうにはない。
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
TBS『Tシャツが乾くまで』( 毎週金曜夜10時~)
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、齋藤飛鳥、庄司浩平、飛永翼(ラバーガール)、久保田薫、夏帆、臼田あさ美、リリー・フランキー、松山ケンイチ
脚本:生方美久
音楽:haruka nakamura
主題歌:「見知らぬ糸」スピッツ(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
編成:佐久間晃嗣、荒木沙那
制作:ケイファクトリー、TBS
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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