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もう一度だけ会えたなら、ぼくとわたしは──

2026.07.02 公開 ポスト

「10年前の奇跡を、どう信じてもらうか」母を亡くした少女と夢を叶えた男の葛藤。入社3ヶ月の新米編集者が訊く創作の裏話越尾圭

もう一度だけ会えたなら、ぼくとわたしは─』(通称・ぼくわた)の発売を記念して、本作の成り立ちや前作から引き継がれるテーマ、そして創作の裏側などをインタビュー。この4月に幻冬舎編集者となり、上司のお手伝いという形で本作に関わらせていただいた私、新米編集者のKが、著者の越尾圭さんにお話を伺いました。第2回となる今回は、執筆中に書いていて楽しかったシーンや、お気に入りのキャラクターなど、創作の裏話をお聞きします。

*   *   *

越尾さんの意外なお気に入りキャラは“あの人”

新米K 本作の執筆中、書いていて楽しかった場面や、お気に入りのキャラクターを教えてください。

越尾 全体的にとても楽しく書けたのですが、やっぱり明里の高校生活のシーンは書いていて特に楽しかったですね。彼女に新しい友達ができたり、陸上部で大会に出場して力一杯走ったりするシーンなんかがお気に入りですね。

新米K まさに青春といった、とても素敵なシーンですよね。

越尾 あとは、作中で航平が小説家として「どんな作品を書いてきたか」といった、バックボーンを考えるのも楽しかったです。それと、私は各章の章タイトルを考えるのが結構好きなのですが、今回はプロットの段階で全て考えていて、そのまま原稿に落とし込みましたね。

新米K プロットの段階で章ごとのタイトルが決まっていたからこそ、物語全体の軸が全くぶれず、世界観に引き込まれる説得力があったんだなと納得しました。登場人物の中だと、誰が一番書きやすかったですか? やはり、ご自身と同じ「小説家」という職業である十和田航平でしょうか。

越尾 おっしゃる通り仕事上の共通点が多いので、自分と重ね合わせやすいという意味では、書きやすかったですね。

新米K 前作から登場している石黒さんも、良いキャラクターですよね。

越尾 石黒さんも、書いていて本当に面白いキャラクターです。読者の方からも「石黒さんが好きです」と言っていただくことが多くて。

新米K 第一印象は仕事に厳しくて少し怖い上司って感じですけど、基本的には良い人ですよね。

越尾 そうなんです。根は真っ直ぐで優しい人なんですよね。実際、一緒に仕事をしたいかと言われると、そうでもないですけど(笑)。

ボツ案は、潜入して証拠探し?「10年前の奇跡」の証明に試行錯誤

新米K 執筆する上で「ここは難しかったな」と感じたシーンはどこですか?

越尾 明里に10年前に起きた「入れ替わりの奇跡」を真実として信じてもらうプロセスですね。そこは一番頭を悩ませました。詳しくはネタバレになってしまうので言えないのですが、当初は、明里が航平の部屋に忍び込んで、押し入れを探って証拠を見つける……みたいな展開も考えてみたのですが、それはちょっと違うなと(笑)。

新米K 確かに、少しサスペンス寄りになってしまいますね(笑)。

越尾 そうなんです。ただ、10年という歳月が紡いできた登場人物たちの想いをうまく物語に落とし込み、最終的に現在の展開へと落ち着かせることができました。

新米K ネタバレになってしまうので詳しく言えないのがすごく悔しいですが、あの展開は読んでいて本当に惹き込まれました。航平の確かな成長を頼もしく感じる一方で、伝えられたことが真実かどうなのか葛藤する明里の姿にも、すごく心にくるものがありました。

越尾 10年経っていますからね。前作の冒頭で26歳だった航平も、今作では37歳になっています。30代後半ならではの落ち着きや、大人だからこそ抱える葛藤のようなものが、あのシーンの彼の行動にはしっかりと出ていると思います。そういったものが航平の行動に表れたからこそ、高校生の明里の等身大の葛藤と響き合って、あの印象的なシーンが生まれたんだと思います。

リアルでほろ苦いサイン会の「裏側」

新米K 私個人としては、物語の始まり、「サイン会」のシーンもすごく印象に残っています。なかなか人が来ないサイン会の様子がリアルかつユーモラスに描かれていて面白かったのですが、あれは何か想定されていたイメージがあったのですか?

越尾 あれですね(笑)。「これって実体験なんじゃないか?」って読者の方に思われちゃうかもしれないんですけど。

新米K 実際、作中の設定としてはどれくらいの規模感をイメージしていたのでしょう。

越尾 私の想定としては、サイン会の時間はだいたい1時間から1時間半くらいで、実際に足を運んでくれた一般の読者の方は7、8人というイメージです。航平としては、20人とか30人くらい来てくれたらものすごくありがたいな……と期待していた、という感じですね。

新米K リアルなほろ苦さがありますね。でも、その7、8人の中に身内である航平の彼女の西崎日菜乃に元上司の石黒さんが混ざっているという展開も含めて、クスッと笑えてどこか愛おしいシーンでした。

美味しいパンは欠かせない。越尾さんの執筆中のモチベーション

新米K 最後に少しだけ、越尾さんの執筆ルーティンなどプライベートな部分も伺いできればと思います。執筆中のモチベーションを保つために、これを食べたり飲んだりすると捗る、というものはありますか?

越尾 私はとにかくパンが大好きなので、美味しいパンを常備しています。2日に一度のペースで、近所にあるお気に入りのパン屋さんを何軒か巡って、買ってきたパンを食べながら執筆に励んでいます。

新米K スーパーのパンとかではなく、こだわりのパン屋さんのパンなんですね。

越尾 そうです、歩いていける範囲に良いパン屋さんがあるんです。あとは、作業中に音楽をかけると集中できますね。実際は全然耳に入っていないことも多いのですが、空間に音が流れていることが大事ですね。

新米K ちなみに、どんなジャンルの音楽を聴かれるのですか?

越尾 ジャンルはバラバラですね。昔は洋楽をたくさん聴いていたのですが、最近は日本のインディーズ系のバンドをよく聴いています。ただ、インディーズ系って「あ、このバンドすごくいいな!」と思って熱心に聴き始めると、すぐに解散しちゃったり、そもそも解散していたりすることがちょくちょくあって。「ああ、やっぱり音楽の世界も厳しいんだな」と思いますね。

新米K 確かに厳しい世界ですね。でも、それだけパンがお好きなら、いつか越尾さんの「パン屋さん」を舞台にした小説なんかも読んでみたいです。

越尾 パン屋さんの話、ぜひ考えてみたいですね! パンの種類の数だけ短編のストーリーが書けそうな気がします。

新米K それはぜひ形にしていただきたいです。『ぼくわた』でも登場人物たちのやり取りに何度も心を動かされたので、あの温かい空気感のまま、美味しいパンを組み合わせることで、どんな魅力的な掛け合いが生まれるのか、想像が膨らみます。最後になりますが、今回は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

*   *   *

次回は、前作『ぼくが生きるということは、きみが死ぬということ』と『ぼくわた』のロケハンや、物語を通して越尾さんが伝えたい「想い」についてインタビューをさせていただきます!

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もう一度だけ会えたなら、ぼくとわたしは──

2025年3月に発売され、その切ない設定と胸を打つ結末が多くの読者の心に深く残った『ぼくが生きるということは、きみが死ぬということ』の著者・越尾圭さんの最新作『もう一度だけ会えたなら、ぼくとわたしは──』。本特集では、発売を記念して本作にまつわる様々な情報をお届けします。

 

 

 

【あらすじ】

 

売れない小説家の航平(とわ)と、十年前に母・美羽を亡くしたとわファンの明里は、満開の桜の下で出会う。航平と美羽が最期の一年を入れ替わっていたという真実を知らされた明里の心には、ある“想い”が生まれる。“もう一度ママに会いたい”──二人は七夕に美羽を呼び出そうとする。大切な人との切ない再会の夜、何を伝えるのか──。

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越尾圭

一九七三年、愛知県生まれ。早稲田大学卒。第十七回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉を受賞し、『クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない』(宝島社文庫)でデビュー。著書に『協力者ルーシー』『なりすまし』(ともにハルキ文庫)、『誰がためにその手は』(ハーパーBOOKS+)など。

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