『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』の原案となっている『チックタック~約束の時計台~』を全文公開します!
* * *
「だいじょうぶ。時計の針はかならず重なるから」

町のはずれにあるホタルの森のなかに、
こわれていないのに11時59分で針が止まっている
ふしぎな時計台がありました。
そこに住むヘンクツジジイのチックタックは、それでもまいにち、
歯ぐるまの手入れをしています。
「この時計は、こわれてなんかおらん」
「こわれてないのに動かないなんて、おかしいじゃないですか」
修理にきた役場の男は、歯ぐるまにさわらせてもらえません。
あの日から止まったまんま。きょうも12時の鐘は鳴りません。

チックタック~約束の時計台~

時計の針がひるの12時をさし、鐘の音がひびきました。
「よるの12時にきく鐘は、もっと感動するぜ」
住みこみではたらくチックタックは、
この時計台のことならなんでもしっています。

「ねえ、チックタック、きのう、
孤児院にあたらしいなかまがやってきたよ。
まえにいた町が、火の鳥におそわれたんだって」
『火の鳥』というのは、火の雨をふらすおそろしい雲で、
ここさいきん、いろんなばしょで発生しているようです。

彼女の名前はニーナ。すっかり町の人気もの。
「ニーナちゃん。このスイカをもってきな」
「ありがとう、おじさん。あまったら、
カブトムシにもわけてあげる」
ニーナは、孤児院ではカブトムシの飼育係をまかされています。

つぎの日。ニーナが時計台にあそびにきました。
「時計台のなかに入ったの、はじめて」
「おい! はしりまわるな! 時計は精密機械だぞ」
チックタックが注意をしても、
ニーナはまるできこうとしません。
いわんこっちゃない。
ニーナは、ぬけた床に足をとられて、スッテンコロリン。
そのひょうしに、歯ぐるまをこわしてしまいました。

「ごめんなさい!」
「だからいっただろ」
チックタックはニーナをひっぱって、
町の部品屋にはしります。

「この歯ぐるまと、このネジをください」
チックタックが買いものをするとなりで、
ニーナが小さくなっています。

「どう? なおりそう?」
「だいじょうぶ。ずっと、コイツとつきあってきたんだ」
油まみれのチックタック。時計の修理はお手のもの。
ゴロゴロゴロゴロ歯ぐるまが、たちまち動きだしました。

「ねえ、ニーナ、しってる?
ながい針はだいたい1時間にいちどは、
みじかい針に追いつくんだけど、
11時台だけは追いつかないんだよ」
チックタックが話すと、時計にも人のこころがあるかのようです。
「ふたつの針がつぎにかさなるのは、12時。
そこで、やっと会えるんだ」
「なんだか、恋人どうしみたいね」

「ごめんチックタック。待った!?」
「ニーナはいつも待ちあわせ時間ギリギリにくるなぁ」
「アウト?」
チックタックはくびを横にふり、笑顔でいいました。
「ギリギリセーフ!」

ふたりは、この時計台で、まいにちいろんな話をしました。
銀色のながれ星も、夜空をかける配達屋さんも、
サンタクロースも、
この時計台のまどからみました。
小鳥のさえずりも、空からふるオルゴールの音も、
この時計台のなかでききました。

ある日、ニーナがいいました。
「あのね、チックタック。わたし、
あなたにいえなかったことがあるの」
「だいじょうぶ。ぜんぶ、うけとめるよ」
チックタックは耳をピョンッと立てました。
「ごめん。ありがとう」
ニーナはそういうと、ワンピースのそでをまくります。

「なんだい、それは?」
「ヤクの木よ」
呪われた島『太鼓島(たいこじま)』にしか生えていないヤクの木が、
ニーナのうでに生えています。
「ほうっておくとドンドン大きくなるの」

「わたしのおかあさんも、おなじ呪いにかかっていたの」
「おかあさんは?」
「からだから生えてきた木にのまれて、木になった」

「キミもおかあさんみたいに
木になってしまうんじゃないかと、心配なんだね?」
チックタックが話しはじめました。
「植木職人のトムじいさんに相談すれば、
木の生長(せいちょう)を遅らせることができる。
ニーナ、だいじょうぶだよ」

すっかり日が暮れたので、チックタックはニーナを孤児院まで
おくることにしました。
「ねえ、ニーナ。よるの12時の鐘を、
時計台できいたことはないだろ?」
「あたりまえじゃない。孤児院には門限があるんだから」
「よるはね、鐘の音で目をさましたホタルたちが、
いっせいにかがやきだすんだ。
まるで星空のなかにいるようなんだよ」
「きいてみたい。よる12時の鐘を、時と計台のなかで、
ふたりできいてみたい」

「来月、院長先生がるすにするから、
そのよるなら孤児院をぬけだせる!」
「きまりだね。よるの12時の鐘をふたりできこう! 約束だよ!」
「うん。約束」
しかし、その約束がはたされることはありませんでした。

三日後、悲劇はとつぜんやってきました。
町に警報がひびきわたり、まもなく、大きな大きな黒い雲が
空をおおいました。火の鳥です。
火の鳥は火の雨をふらせ、
町はいっしゅんにして炎につつまれました。
孤児院からともだちがかけこんできました。
「ぶじだったか? 町のみんなは!?」
「みんなは地下に逃げこんだ。でも……」

「ニーナがみつからないんだよ!」

チックタックは時計台をとびだし、町に向かいました。
あたまのなかに、あの日の会話がよみがえります。
「きいてみたい。よる12時の鐘を、時計台のなかで、
ふたりできいてみたい」
「きまりだね。よるの12時の鐘をふたりできこう! 約束だよ!」
「うん。約束」

「ニーナ! ニーナ!」
チックタックの声は、炎の音に、かきけされてしまいます。
町の人たちも、火をかわし、がれきをかきわけ、
けんめいにニーナをさがします。
ニーナは町じゅうの人から愛されていました。
そしてだれよりも、チックタックから。

ふたたび、火の鳥が町をおそいました。
火の雨はすべてを焼きはらいます。
「チックタック、もうむりだ! 地下に逃げろ!」
両うでをつかまれ、
チックタックが地下に引きずられていきます。
「はなせ。まだ、あの火のなかにニーナがいるんだ!!」

火の雨がやみ、そとに出てみると、
町の景色は変わりはてていました。
それから三日三晩、ニーナをさがしましたが、
ついにみつかりませんでした。
チックタックは時計台にとじこもり、
だれの声にも耳をかさず、
ニーナの葬儀にも参列しませんでした。
「ニーナは死んでいない」

時計台からは、チックタックの泣きごえが、
なんにちもなんにちもきこえてきました。
すうじつ後、
黒こげになった町のひろばに
ヤクの木が生えているのがみつかりました。
それでも、チックタックはニーナの死を受けいれず、
ただただ時計台のなかで泣きつづけたのです。

ゴロゴロゴロゴロ。
容赦(ようしゃ)なく時間をきざむ歯ぐるまの音が、時計台にひびきます。
そして時計の針が、チックタックとニーナが約束した
“1ヶ月後のよるの12時”をさそうとした、そのときでした。

時計台のすべての歯ぐるまが止まったのです。
チックタックはあわてて確認しましたが、故障はどこにも
みあたりません。
時計台は故障したわけではありませんでした。
だれかが止めたわけでもありませんでした。
時計台がじぶんの意思で針を止めたのです。
“約束の時間”をさすことを拒否したのです。

それからなん年も。
時計台の針は12時をさすことをこばみ、
11時59分で止まったまんま。
だれが修理にきても、時計の針は動きません。
時計台がじぶんの意思で針を止め、
待ちあわせの時間をきざまないことで、
12時の鐘を鳴らさないことで、
チックタックののぞみをつないでいるのです。

「……なるほど。止まったのではなくて、
約束の12時を待っているんですね。
ありがとうございます。話がきけてよかったです」
「そういうことじゃ、修理工。
おまえの出る幕じゃないわい。とっとと役場にかえれ」
「役場にはかえりません。わたしは役場のものではないので」

「ウソをついてすみません。わたしは役場のものでも、
時計の修理にきたものでもありません」
「だれじゃ?」
「医者です。ニーナさんの主治医(しゅじい)をしていました。ニーナさんは、
火の雨がふったあのよるに、死んでなんかいません」
「じょうだんはよせ」
「あのあとも、ニーナさんは、あの呪いと、
けんめいにたたかいつづけたそうです」

チックタックが、医師につめよります。
「ニーナは、あのあとも生きていたのか? だったらなぜ、
これまで会いにきてくれなかったんじゃ!!」
「身を引いたんです。ニーナさんも、
あなたに会いたがっていました。
でも、会うわけにはいかなかったのです」
「なんで……」
「ニーナさんが孤児院で世話をしていたカブトムシのからだから、
ヤクの木が生えてきたからです」

「ということは、焼けあとからみつかった、
あのヤクの木は……」
「ニーナさんが世話をしていたカブトムシのものでしょう。
彼女を苦しめた呪いの病は遺伝ではなく、
伝染病だったのです」

「ニーナさんは呪いの病をあなたにうつすわけにはいかなかった。
しかし、ふたりでいると、いつか、
うつしてしまうことになります。
火の雨がふったよる、ニーナさんはみなさんのまえから姿を消し、
呪いの病をひとりで背負う人生をえらんだのです。
わたしが医者の役目を終えるその日まで、彼女は病魔と
たたかいつづけました。
そのあいだもずっと、あなたのことをおもいつづけていました」

「会いたかった」
「そのことばは、ご本人にいってあげてください」
「だって、ニーナはもう……」
「亡くなった、とはひとこともいってませんよ」
「さっき、医者の役目は終えた、と」
「ワクチンが開発されて、
もうわたしの出番がなくなったということです。
まだからだの木は残っていますが、根は絶やしたので、
じきになくなるでしょう。呪いの病は、もう完治(かんち)しています」
そのとき、時計台の階段がきしむ音がきこえました。

「待ってくれていたんですね」
ふりかえると、
からだから木を生やした老婆が立たっていました。

「ごめんなさい。チックタック、
まさか待ってくれているなんておもわなかった。
わたしが死んだことにすれば、あなたが楽になるとおもった。
わたしが死んだことにすれば、あなたのこころは、
つぎの人に向くとおもった」
「バカなことをいうな! そんなわけないじゃないか!
キミの死を受けいれられるわけないじゃないか!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! わたしは……
わたしはなん年も、あなたをふりまわしてしまった……」
ニーナは泣きくずれました。

「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ。ニーナ」
「ごめんなさい」
「だいじょうぶ。……約束の12時は、まだきていない」
チックタックが時計台のてんじょうをみあげます。
「コイツが……いっしょに待っていてくれたんだ」
そのときでした。

ゴロゴロゴロゴロ。
時計台の歯ぐるまがいっせいにまわりだしました。
修理がすんだわけではありません。
だれかがまわしているわけでもありません。
時計台がじぶんの意思で動きだしたのです。
「鳴りますね、12時の鐘が。では、わたしはここで」
そういうと、医師は時計台から出でていきました。

「ふたりできくと、約束しただろ?」
「ごめんね、チックタック。待った?」
「ニーナはいつも待ちあわせ時間ギリギリにくるなあ」
「アウト?」
チックタックはくびを横にふり、笑顔でこたえました。
「ギリギリセーフ」

そのよる、
時計台は約束の12時をむかえました。
THE END
戸田恵子さんによる読み聞かせ動画はこちらから
絵・文・監督/Illustrator, Writer, Director
西野亮廣 Akihiro Nishino
制作統括/Production Manager(MUGENUP)
アートディレクション/Art Director(MUGENUP)
合成/Compositor(MUGENUP)
アントワーヌ ペラン Antoine Perrin
絵コンテ/Storyboard Artist
ミズノ シンヤ Shinya Mizuno
キャラクターデザイン/Character Designers
にしのあきひろ Akihiro Nishino
ティボー ルクレール Thibault Leclercq
ピエール クロコ Pierre Croco
背景デザイン/Background Designers
クラウス ピヨン Klaus Pillon
ヨナス デ ロ Jonas De Ro
ミズノ シンヤ Shinya Mizuno
3Dモデリング/3D Modeler
林 竜太 Ryuta Hayashi
キャラクター制作/Character Artists
ピエール クロコ Pierre Croco
にしのあきひろ Akihiro Nishino
背景制作/Background Artists
トム ガーデン Tom Garden
ピオトル ドゥラ Piotr Dura
クラウス ピヨン Klaus Pillon
翻訳/Translator
メレディス マッキニー Meredith McKinney
西野亮廣の本

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