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私は演劇に沼っている

2026.03.26 公開 ポスト

悪気ない歯並びディスから始まった禁煙問題私オム(脚本・演出家)

大変なことになってしまった。大問題が私の身にふりかかっている。

まさに今日起こった事件で、この原稿を書いている今も現在進行形で大問題発生中である。

解決する手立てはなく、私は完全に詰んでいる。

ことの発端は、妻が言った「歯、矯正したら?」という全く悪気のない私の歯並びディスである。夫の歯並びが綺麗になる明るい未来だけをみている目をしていた。

そのポジティブなディスりを受け、私は今年になってから歯医者へ通い歯列矯正をする運びとなった。

とても親切丁寧な説明を受け、歯型を取り、そして今日がいよいよ矯正器具を取り付ける日であった。

矯正器具といっても「踊る大捜査線THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!」に出てくる小泉今日子さん演じる日向真奈美のような銀色のギラッとした器具ではなく、マウスピース型で透明な器具である。

手際よく取り付けていただきスムーズに装着を終えた。

問題は装着を終え、先生から取り扱い説明を受けているときに発生した。

基本的にずっと装着していなければならず、飲食と歯磨きのときだけ外すものだと説明を受けた。コーヒーなどの色がある飲み物を飲む際も、マウスピースに色がついてしまうことがあるので飲む際はマウスピースを外さなければならないという。そして飲み終えると口を濯いでまたすぐに装着をしなければならないらしい。

私はこの説明を受けて、とても面倒だなと思った。いちいち飲む度に外して口を濯いで装着してなんてやってられない。そんなことをしていたら途切れ途切れになってしまい筆が進まない。執筆のお供であるブラックコーヒーはやめないといけないなと思った。

私にふりかかっている問題はコーヒーではない。

問題は、飲食のことについての説明を受けた後にした私の質問の返答であった。

「タバコもコーヒーと同様で都度外してもらうか、これを機にやめていただくかした方がいいですね」と先生はサラッと言った。

そう、私は「タバコは吸ってもいいですか?」と聞いたのだ。

私の大切な大切なタバコ。タバコがないと執筆ができる気がしない。とある芸人さんが言っていた。「タバコは人生の句読点」。とても素敵な表現をされるなと感動したのを覚えている。

その素敵な表現を心に留めて「タバコは執筆の句読点」と思いながら執筆中にタバコで点を打っている。

コーヒーと同様の理由で、タバコを吸う度にいちいちマウスピースを外してなんかいられない。何十回付け外さないといけないと思ってるんだ。

なんてことだ……歯列矯正器具は非喫煙者へと矯正される器具でもあったのだ。

私は先生からの返答の後に耳がキーンとした。

流れるように「これを機にやめろ」と言われたこともすごくショックだった。スムーズなのは装着の手際だけにしてくれ。

「矯正やめます」とはもう言えない状況で、私は透明のマウスピースをつけて、虫歯の治療費より何倍も高いお金を払い歯医者を出た。まだ耳がキーンとしていた。

(2年間持ち歩かねばならないマウスピースの入れ物。
花のような柄が憎い)

2年間だ。マウスピースを装着していなければいけない期間は。

2年間タバコを吸う度にマウスピースを付け外しをちゃんとする自分が想像できない。

絶対に私は装着したまま吸う。禁煙をする気は些かない。

綺麗は努力の結晶だというが、タバコをやめることは努力ではなく、代償である。

執筆中、役の葛藤に悩むときに役と同じように悩みながらタバコを吸う。悩みのときの心の支えを失うわけにはいかない。

最善の解決策を、この原稿を書きながら悩んでいる。

そして私はタバコを咥える。矯正器具を装着したまま……。

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私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

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私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

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