現在、今年最後に上演する舞台作品の稽古中である。
初めて一緒に創作する役者が2名で、他7名はこれまでに何度も共に作品を創った役者達である。初めての役者とお芝居をするのはとても刺激的で楽しい。役者によって違う役の作り方をまざまざと感じることができる。それは演出家という立場からしても勉強になる。
何度も共に作品を創った役者からも多くの学びと刺激を受ける。前回に見られなかった表情や立ち振る舞いを目撃して、更にその役者の奥深さを知り、負けてられないと創作の意欲が増す。そして、彼らは私の演出家としてや人として至らない部分をズケズケと指摘してくる。本人達にその感覚はないのだろうが、「ここはお前がサボってはいけない部分だよ」と行動で示してくる。彼らと共に作品を作ると成長をさせてもらえる。
今稽古中の作品の舞台美術さんも10年以上前から共に創作をしている人で、私が初めて演出をした作品を担当してくれた。
先日の打ち合わせの時、私の作風が変わったと感じているようだった。私がいろいろな作品に触れて、さまざまな役者と出会って変化していっているのを楽しみながら見守り、共に新しいステージに向かいたいと言ってくれた。裏方のスタッフチームが絶対的な味方でいてくれることがとても心強く、私はひとりじんわりと感動していた。
音響担当さんも、いつも担当してくれている人で、私が劇団に所属していた頃からの付き合いである。私が役者として立った初舞台の音響を担当していて、現在共に作品を創るスタッフで一番古い付き合いの人である。元バンドマンでとても尖っていて、当時の私はその音響さんが怖かった。が、今となってはその人がいる現場では音響の不安は一切なく、とても安心する。私が何が嫌で何が好みかを理解してくれていて、昔から関わって私という人間を知ってくれている人というのは何にも代え難い財産だ。
現在創っている作品には参加していないが、前回の舞台監督さんも照明さんも10年近く前から関わりがある人たちであった。打ち上げで照明さんと数年ぶりに酒を飲んだ。その照明さんは僕よりも20歳近く年が上で、親戚のおじさんと話をしている感覚になった。演劇の大先輩なので、知り合った頃の私を生意気なガキだと思っていただろう。前回の稽古場で一緒にタバコを吸っている時に「変わりましたね」と人としての変化を感じたと言ってくれた。私はその言葉がとても嬉しく、これからも変わっていくこと、変わり続けることの大切さを教えてもらった。
変わることができるのは近くで行動で示してくれる仲間のお陰で、変わったことを感じて教えてくれるのは昔を知りながら今の私を見てくれている人たち。
私は、過去を知っていて今を共に生きてくれる人達と未来を見ている。
とても人に恵まれた演劇人生だと心から思う。
ああ、そういえば演出助手をしてくれている人も長い付き合いになった。
彼はいつも、私の脚本を初めに読んだときは「よくわからない」らしい。昔から今も変わらず、ずっとわからないらしい。そして毎回、稽古が始まって役者が喋りだしてからようやく理解をするらしい。
とんだオトボケ野郎である。
しかし、私は別にそれでいいと思っている。彼の素朴な観点で私を見ていてほしいと思う。
酔いつぶれた私とタクシーに同乗してくれて家まで送ってくれる優しい人だ。彼は彼のままでいてほしい。
酔いつぶれた私を家から遠く離れた場所で降ろして「ここどこですか?」と聞いてくる彼が好きだ。タクシーは走り去っており、ゲロゲロな状態で歩かされても私は彼が好きだ。
きっと彼の私を見る目は変わらない。おそらく私がどんな人間に変わっていこうが隣にいてくれそうである。
ただただずっと静かに隣にいてくれる。
彼がいるからこそ、良いように変化をしていかなければならないと思う。
私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。
21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!
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