久しぶりの地方ロケ。大変だねぇとよく言われるけれど、旅好きでもある私にとって、地方ロケはワクワクが詰まっている。
今回は3週間の石川ロケ。日本海側はあまりご縁がなく、高3の夏休みに1ヶ月能登で撮影した映画と、2020年のコロナ前に富山で撮影した映画ぶり。あと、舞台で金沢公演に行ったとき、普通のチェーン居酒屋さんで出てきたお刺身の美味しさに感動したなぁ。3つとも良い思い出。という訳で、きっと日本海側である北陸地方は自分に合うんだとワクワクしていた。
今回は最寄り駅までバスで約30分。そこから金沢までは電車で更に30分のホテルに宿泊。近くには、お惣菜も売っているドラッグストアとラーメン屋さん、定食屋さんとファミマ。歩いて15分の別のホテルに、成分の鉄レベルがすごい、もはやタオルについたらとれない錆だけど、お肌つるっつるになる不思議な温泉もあり。
ドンキまではホテルの自転車を借りて30分。フロントのお姉さんには「ドンキまで行くんですか!アクティブですね!」と驚かれた。普段私は東京で1時間くらい走っているので余裕だと思っていたけれど、こちらは車社会のため、自転車で30分は遠いようだ。
そんなこんなで、毎日フロントのお姉さん達が優しく対応してくれて、本当にみんないい人達だった。
周りには高い建物がなく、山と夕陽がものすごく綺麗に見える部屋。大きな窓で、最高の見晴らし。しかし、一点、困ったことがあった。大きな窓には、取っ手を両方平行にして窓を開けるよう注意書きがしてあった。その通りにするも、窓が固くて開けられなかった。3日間チャレンジするも、開けられず、だんだん息苦しい気持ちになってきてしまった。
撮影に行く朝、いつもの優しいお姉さんがフロントに居たので、窓の開け方を聞いてみた。「取っ手を平行にして、右を押しながら左はひいて、ガッてやったら開きます!」「わかりました!やってみます!」「もし開かなかったら、開けに行くので言ってください!」優しい。やっぱり優しい。
撮影から戻り、聞いたようにやってみるが、やはり開かない。私のやり方が悪いのだろう。コツがあるのかなぁ。夜はホテルの方が少ないだろうし、部屋まで来てもらうの悪いしなぁ。だが、気になり始めると永遠に気になってしまう。換気したい。換気したい。換気したい。でも、お姉さんに会えるのも毎日ではなく、自分が撮影に行くのも帰るのも毎日バラバラ。タイミングをみはからっていると、数日経ってしまった。
同じホテルに泊まる共演者やスタッフさんに聞くと、開けようと考えたことがないと4人に言われる。みんなあんまり換気しないんだなぁ。
数日後、やっと昼間にタイミングが合い、フロントのお姉さんに頼んでみた。一緒に部屋に行きお姉さんが窓に手をかける。「…っった。かたいですねぇ」とお姉さん。2人で格闘する。お姉さんが右側を押し、私が左側をひく。「せぇのーで!っっっっつ‼︎」2人で必死に力を込めるが窓はびくともしない。
「下にいる男性スタッフより私の方が力があると思うんですけど」とお姉さん。
10分ほど戦ったけれど、勝つことはできず。「すみません、一応、男性スタッフと変わってもいいですか?」とのことで、選手交代。
お兄さんが来てくれて、再度チャレンジ。またまた2人で、「せえのーで‼︎」を繰り返す。ホテルのお姉さんとお兄さんと謎の連帯感。汗だくになりながら、2人で力を込める。なんなんだ、この謎の連帯感は!!  
が、何度力を合わせても窓は開かず、お兄さんとも別れが来てしまった。
その後部屋に電話がきて「もうひとつだけ試したいことがあるので、伺ってもいいですか?」とお姉さん。
ゴム手袋をして、錆用のスプレーや工具を持って来てくれた。三度目の正直なるか。スプレーを満遍なく窓脇にまき、2人で力をあわせる。もはや息があってきている。諦めない。何度も何度も果敢に力を込めてチャレンジする。
っと‼︎結果は‼︎
あーかーなーいー!こんなに開かないことある?
「明日、力持ちの男性がシフトに入っているので、お出かけ後になってしまいますがお部屋入らせてもらってチャレンジしてもいいですか?」とのこと。それでも無理だったらお部屋をかえましょうと言ってくれた。
翌日私は朝から撮影に行き、なぜかドキドキしていた。
力持ちの人、力持ちのスタッフさん。どんな風に開けるのだろう。開けることが出来るのだろうか。。。
その日、ホテルに戻れたのは夜だった。
フロントに鍵を取りに行くと、おじさまスタッフさんが「窓開きましたので、お騒がせしました。」と笑顔で言ってくれた。「えーー!開きましたか!ありがとうございます!」「あそこまで開かないのは我々も初めてで。すみませんでした〜」
部屋に戻ると窓は閉まっていて、何事もなかったかのように佇んでいた。
カーテンをあけ、両側の取手を内側に平行にし、右を押し、左を引く。力をこめる。
スパーンっと軽々勢いよく窓が開いた。感動の瞬間だった。この窓は開くんだ。どんなことをしたらこんなにスムーズに開くんだ。全く力を込めなくても開くではないか。力持ちのスタッフさんは、どんな風に解決してくれたのか気になる。
お姉さんとお兄さんと謎の連帯感を持って格闘した謎の時間は、現場の話題のタネとなり、私の思い出となった。お姉さんとお兄さんと共に汗をかいた時間。忘れない時間。
あぁ。ホテルのみなさん、本当にみーんないい人達で感動でした。おいしいごはんや景色はもちろん、こういう人との思い出が、心の思い出になっていくのだ。
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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。
					
					



					
					
					





