1. Home
  2. 社会・教養
  3. 礼はいらないよ
  4. 「多様な人を混ぜていく」世界のDJたちを...

礼はいらないよ

2025.10.23 公開 ポスト

「多様な人を混ぜていく」世界のDJたちを支える日本の機材メーカーの存在ダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

実はDJ大国日本

2025年10月11日、渋谷のSpotify O-EASTにてDMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPが開催された。これは世界最大級のDJの大会である。今年40周年を迎えたタイミングで世界大会が初の日本開催となった。そして、僕はその世界大会の司会進行を担当することになった。

1985年、ディスコ・ミックス・クラブ(DMC)が主催する形で大会はスタートしている。ディスコ・ミックス・クラブは1983年に英国でトニー・プリンスが設立したレーベルであり、DJ用のリミックス音源などを専門的に扱い、ミックスマグという週刊誌も発行、アンダーグラウンドのDJカルチャーに寄与してきた。DMCは元々は仲間内でDJスキルを競うために始まったのだが、規模が大きくなり、世界中のDJが参戦するようになったものだ。なおディスコ・ミックス・クラブは会社としては2023年に解散している。

 

DMCは長い歴史の中で数多くのチャンピオンを生み出している。アメリカのQ-BERT、CRAZE、フランスのDJ FLY、DJ SKILLZ、ニュージーランドのDJ K-SWIZZといった王者は世界的名声を勝ち得ている。そんな中、日本人の王者も多い。2003 年に世界王者になったDJ KENTAROは大会最高得点を取ってアジア人初の優勝。2012年にはDJ IZOH、2016年はDJ YUTO、2017年には最年少12歳で優勝したDJ RENAが名を連ねている。

これらはクラシックと呼ばれるソロ部門の王者で、1対1で戦ってトーナメントを勝ち上がるバトル部門では2004年のDJ赤壁、2017年DJ諭吉、2019年DJ松永と王者が並ぶ。かつて存在したチーム部門では日本のKIREEKが2007年から2011年の間5連覇を果たしている。日本は実はDJ大国なのだ。

日本のDJが強い理由には個々の弛まぬ努力があるわけだが、大会のメインスポンサーがテクニクスであることも重要だと思う。パナソニック社のブランドであるテクニクスは世界中のDJが愛機として使用しているターンテーブル、SL1200シリーズを作っている。これは世界中の多くのDJが音楽を発信する土台を日本企業が提供しているということだ。世界のあちこちでDJが人を踊らせたり、盛り上げたりしている現場を日本企業が支えているとイメージすれば良いだろう。その意味では、肝心の日本では長いことDJが活躍する深夜のクラブが風営法によって規制されていたのは皮肉な状態だったと思う(2015年の法改正でダンス営業は規制緩和された)。

DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPの司会陣。ダースレイダー、DJ BABU(アメリカ)、T-JR(カナダ)。/Photo by Jeff Straw (DMC Official Photographer)

今年のワールドで僕が担当したのはクラシックス、バトル、そしてスクラッチの3部門。僕以外にアメリカのDJ BABU、CRAZE、そしてカナダのT・JRも司会だ。参加したDJたちは本当に幅広い。クラシックでは日本のDJ FUMMYが見事優勝。ニュージーランド、アメリカ、イタリア、ブラジル、UK、オーストラリア、タイ、中国からの挑戦者がそれぞれ6分間のパフォーマンスを披露した。

DJ FUMMY(日本)。2025年DMC WORLD DJ CHANPIONSHIP CLASSIC部門優勝/Photo by Jeff Straw (DMC Official Photographer)

スクラッチ部門ではフランスのAOCIZが優勝、日本、ロシア、ドイツ、チェコ&スロバキア、中東(今回は唯一の女性DJ)、タイのDJたちが技を競う。バトル部門ではブラジルのRaylanが優勝、ニュージーランド、タイ、日本のDJがトーナメントでぶつかり合った。観客も多様でさまざまな地域から集まった人たちが盛り上がっている。

DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP SCRATCH部門ファイナリスト。左からDJ SLUM(タイ)、DJ KEITA(日本)、DJ MICHELLE(中東)、NELSON X(ドイツ)。/Photo by Jeff Straw (DMC Official Photographer)

競技であると同時に音楽でもあり、ゲストのライブパフォーマンスも含めてずっと音楽が鳴り続けている。会場にいる人たちは皆で同じリズムを聴きながら、それぞれに踊ったり歓声を上げたりしている。エントリーしているDJたちも自身のパフォーマンスでは集中していても終わったら笑顔で他のDJたちのプレーを楽しんでいる。

DMC WORLD CHAMPIONSHIP。集まった観衆。/Photo by Jeff Straw (DMC Official Photographer)

あれ?これってまさに”ONE NATION UNDER A GROOVE”じゃないか!これは70年代を代表するファンクバンド、ファンカデリックの曲。グルーヴの元で一つの国家になろうというメッセージだ。出身地がさまざまな人たちが同じノリで楽しんでいる。今、日本社会では急速に排外主義的言説が目につくようになっている。だがこのDMCの現場ではどうだろう?確かにそれぞれの地域を代表している気概はあるだろうが、それと同時に同じノリで楽しんでもいる。そして、繰り返すがそんな場を支えているのは日本の機材メーカーだったりするわけだ。

DJにフィックス出来ない問題はない。DJはミックスで全てを解決する。これはDJの有名な格言だ。ミックスというのは曲を繋いでいくことを指すのだが、文字通り多様な人、在り方を混ぜていく存在でもある。ここには冗談ではなく希望があるのではないか?僕はそう信じてDJたちによびかける。ブリング・ザット・ビート!

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

{ この記事をシェアする }

礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

バックナンバー

ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP