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私は演劇に沼っている

2025.06.26 公開 ポスト

自分の居場所を肯定できた時、人は幸せを感じる私オム(脚本・演出家)

先日、プロデュースにも関わりながら脚本と演出をした舞台が終演した。

ありがたいことに連日満席で、多くの方にご観劇していただけた。

私の作品だけを求められていたわけではないが、まだ演劇を続けていいよと背中を押してもらったような感覚になった。

青春や夢をテーマに描いたその作品は、私の青春や夢の一部が取り込まれている。

現在脚本家として活動することが青春時代からの夢の職業ではなかったが、自分で何かを生み出し、己の感性で戦うことが夢だった私は、ある意味夢が叶っているのかもしれない。

現に私はこの仕事が心地良く、これ以外の仕事をしている自分を想像すると居心地が悪そうである。

夢が居心地の良い場所だなんて、なんと私は幸せな人間なのだろうか。と恥ずかしげもなく、様々な人に見られるところで思いきって言ってみる。この数行を何度も消しては書いてを繰り返した。しかし、書いてみようと思った。それは、自分の居場所を肯定できた時、人は幸せを感じるのだと、先日終えた舞台の主人公から学んだからだ。

見栄でもハッタリでもない心からの自己肯定は、自分を満たし、周りにいる人達をも幸せにする。いかさまの自己肯定は、虚しくなるだけだ。これも主人公から学んだ。

その舞台の主人公は、病気の弟や妻や子供、借金などを言い訳にして夢を追わなかった。

しかし主人公はそれを言い訳と分かっている半面、夢を追わないという選択は家族のためでもあったのだった。

ざっくりと書いた主人公の葛藤だが、言い訳も家族のためもどちらも本当で、心から思っていることである。

私は思う。主人公に足りなかったのは、自分を心から肯定してあげることだったのではないかと。

物語は、主人公が今いる場所を受け入れたところで終わる。セリフなどで描かなかったが、それはすなわち自分の場所を肯定したということである。自分を肯定した主人公はきっと心が軽くなっただろうし、主人公の周りにいる人達もいかさまな自己肯定を見て見ないふりをしないで済み、晴れやかな心の主人公と過ごす未来が訪れているだろう。物語では病気だった弟は亡くなってしまうのだが、その弟もどこかで主人公を必ず見守っている。

鬱々とした物語であったが、一筋の希望の光を差し込めたのではないかと思っている。

自分の居場所を心から受け入れて肯定する。

そうすればその場所にいる人々にも、その場所にいることになった過去にも感謝ができる。

「いやいや、まだまだです」「もっと頑張ります」という謙遜や、目の前にある幸せを抱きしめたないということは、時に大切なものを傷つけてしまうと知った。

(終演した「霧」の集合写真)

 

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私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

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私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

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