
「バイオレンスアクション」というジャンルがあります。映画でいえば、クエンティン・タランティーノや北野武がその代表的な作家ですが、マンガにはそのものずばり、『バイオレンスアクション』という題名の作品があり、これは橋本環奈主演で映画化され、見るも無残な駄作となりました。
しかし、マンガの『バイオレンスアクション』は、ゆるふわ系のかわいいデリヘル嬢が凄腕の殺し屋だといういかにも嘘くさい設定から出発しながら、突拍子もない絵空事に適度な距離感を保ちつつ、現代的なリアリティを醸しだすことに成功していました。
このマンガの原作を担当したのは沢田新という無名の人だったのですが、あとになって室井大資の別名だと判明しました。
じつは室井大資は原作だけの作者ではなく、自分で作画もおこないます。それも相当高い画力の持ち主です。
例えば、室井が原作も作画もこなした『秋津』は、マンガ家を主人公とする怪作マンガで、一部のマンガファンを仰天させました。
これまでいわゆる「マンガ家マンガ」はたくさん描かれてきましたが、この『秋津』ほど変テコなマンガもめったにありません。捻じれに捻じれたマンガ家の自意識が空転に空転を重ね、痛ましい苦笑を引きおこす、独創的なギャグマンガなのです。
ところが、室井大資が原作と作画をこなした最初のマンガは、『ブラステッド』という、傭兵集団と暴力団の殲滅戦を描く、純然たるバイオレンスアクションだったのです。
ですから、ここでようやくひと回りして元に戻り、『バイオレンスアクション』の原点が『ブラステッド』にあることを知って、私は大いに納得したのでした。
前置きがずいぶん長くなって恐縮ですが、今回ご紹介する『アマチュアビジランテ』もバイオレンスアクションの鮮烈な傑作です。
これほど強烈なバイオレンスアクションは『ブラステッド』以来ではないかと思い、室井大資のことを思いだしたわけです。
日本のバイオレンスアクションマンガには記憶に値する作品がたくさんあります。例えば、新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』、松永豊和の『バクネヤング』、寺田克也の『ラクダが笑う』、山本英夫の『殺し屋1(イチ)』などは、暴力描写の凄絶さにおいて、日本のマンガ史に残る異端の成果を上げてきました。
一方、『ブラステッド』と『アマチュアビジランテ』は、暴力描写そのもので読者を驚かせようとはしません。むしろ、どんな流血の戦いを描いても、クールな感じがして、一般読者の目を背けさせることはありません。
ともに、暴力自体がテーマではなく、暴力を支える動機に本当の焦点があるからです。
『ブラステッド』では、どんなに隠そうとしても、現代社会はアフガンや西アフリカの戦場と等質の暴力にさらされている、という冷徹な認識が作品を支えていました。
それでは、『アマチュアビジランテ』の暴力を支えるものは何でしょうか?(次回に続く)
マンガ停留所

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