
ポルトガルの首都リスボン。
狭い路地をケーブルカーが行き交う坂の街。
わたしはリスボンで絶対に食べたいものがあった。「UMA」というレストランのシーフードリゾットである。
旅に出る前の下調べ中、何度となく出てきたこの店のリゾット。絶品らしい。昼休憩がない店なので、混み合う夜をさけて午後5時入店。6時には満席になっていた。
壁のアズレージョがレトロでいい感じ。天井の水色の羽根の扇風機にもキュンとくる。いかにも昔ながらの街の小さなレストラン。
席に着くとてきぱきとメニューを持ってきてくれる。なんと、日本語もあった。写真を取り忘れてはっきり覚えてないのだが、「魚介ごはん 一人前、二人前、三人前」くらいシンプルなメニューで、要はシーフードリゾットが売りの店なのだ。周囲を見渡しても、みなテーブルにどんと置かれた大鍋のシーフードリゾットを食べている。
注文して20分近く待っただろうか。海老、イカ、蟹、ムール貝。魚介たっぷりトマト味。舌を火傷するくらいの激アツ鍋。ちょいピリリで、時間と共にスープがごはんにどんどん染み込んでなんともまろやか。
「このリゾット、もう、二度と食べられないんだな……」
食べながら悲しんでいるのである。
リスボンではケーブルカーにも乗り、ジェロニモス修道院やサン・ロケ教会、ベロンの塔などガイドブックに大きく載っている観光スポットに行き、展望台から街の景色も眺めたけれど、「UMA」のシーフードリゾットのインパクトが強すぎて、
リスボン=UMA
という、くいしんぼうな思い出になっている。
夜、スーパーマーケットで大量に買ったのは缶詰。いわし、たこ、海老。あれやこれやとカゴに入れて自分土産に。
帰りの飛行機で思う。
こんなに遠くへ旅をするのは、これが最後かもしれないな。
行ってみたいところは行ったと思う。あとひとつあげるなら、ベルギーのアントワープ。大聖堂のルーベスの絵が見たい。「フランダースの犬」のネロが愛したあの絵。でも、子供の頃にネロと一緒に見られたからいい気もする。
さようなら、ポルトガル。
さようなら、シーフードリゾット。
おわり
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ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。