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森へ帰ろう

2023.11.06 公開 ポスト

慣らし期間を終えて小川糸

これまでも私は、住みたい土地へ身軽に自由に移り住んできましたが、標高1600メートルでの冬の暮らしは、なかなかタフなものとなりました。

実際に冬を過ごしてよくわかったのが、温度計が示す気温はあてにならないということ。

太陽が出るか出ないかで体感がまったく異なり、マイナス10度でも青空であれば過ごしやすく、0度でも陽が出ない日は寒さが辛い一日に。お日様の偉大さを改めて感じました。

山小屋は冬の晴天率が国内トップクラスの土地にあるため、美しい青空が続き、風がない日はとても気持ちよく過ごせました。

心配していた雪道での運転も、スタッドレスタイヤなら問題なくできました。

幼少期に山形県の豪雪地帯で培った感覚が、身体に染みついていて役に立っているのかもしれません。

 

最も厄介だったのが、「八ヶ岳おろし」です。

山の上から雪崩のように冷たい風の固まりがガーッと落ちてくるため、家全体が揺れて怖いくらいです。荒れ狂うように吹き降ろす風が煙突から入り込み、室内が煙たくなったこともありました。

そして、私以上に冬が試練の季節となったのが、愛犬のゆりね。

多くの犬がそうであるように、ゆりねも音恐怖症。雷などの大きな音が大の苦手です。八ヶ岳おろしで窓ががたがたと鳴り響く日は、ぶるぶる震えて寝付けませんでした。

毛布に包まっているゆりね。

さらに、雪の上を歩くのも怖いようで、大好きな散歩も積雪の時期はお預けに。

厳しい自然の胸を借り、生きる力を培おうと始めた山小屋暮らしでしたが、ゆりねのためにも、次の冬からの滞在をどのようにするかが、大きな課題となりました。

 

ただ、冬の山は厳しいことばかりではなく、混じりけのない澄んだ空気と白銀の雪景色を堪能できます。山小屋で過ごしたホワイトクリスマスは、森一面が雪に覆われた神聖な世界に魅了されました。

夜空の素晴らしさも格別で、雪の上で大の字になれば、天然のプラネタリウムに。

一歩外に出ると満天の星です。

他にも、樹々に吹き付けられた霧粒が凍って白い花が咲いているように見える「霧氷」、窓に氷の結晶がつく「窓霜」など、自然は惚れ惚れするような景色を次々と生み出していきます。

 

2022年は、私にとって言わば、山小屋暮らしのトライアル期間。

やりたいこと、今すぐやらなければならないこと、先を見据えながら考えていく課題が次から次へと浮かび上がり、春からはますます忙しくなりそうです。

今いちばんやりたいことは、庭造りです
少しずつ好きな植物を植えています

関連書籍

小川糸『昨日のパスタ』

ベルリンのアパートを引き払い、日本で暮らした一年は料理三昧の日々でした。春はそら豆ご飯を炊いたり、味噌を仕込んだり。梅雨には梅干しや新生姜を漬けて保存食作り。秋は塩とブランデーで栗をコトコト煮込み、年越しの準備は、出汁をたっぷり染み込ませたおでんと日本酒で。当たり前すぎて気がつかなかった大切なことを綴った人気エッセイ。

小川糸『真夜中の栗』

私の毎日はいたって平凡だ。仕事をして、料理を作る。市場で買った旬の苺でサラダを作ったり、暖房が壊れた寒い日には、キムチ鍋を囲んだり。眠れない夜には、茹でただけの栗を食べながら窓辺で夜空を見上げ、年末には林檎ケーキを焼きながら年越しの準備をする。誰かの笑顔のために、自分を慈しむために、台所に立つ日々を綴った日記エッセイ。

小川糸『グリーンピースの秘密』

ベルリンで暮らし始めて一年。冬には友人と温泉で新年会をしたり、家で味噌を仕込んだり。春になったら青空市で見つけた白いアスパラガスに、薄切りハムとオリーブオイルを添えて。短い夏には美味しい味と素敵な出会いを求めて、リトアニアとポーランドへ。秋には家でリンゴケーキを焼いたり、縫い物をしたり。四季折々の暮らしを綴ったエッセイ。

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森へ帰ろう

『食堂かたつむり』『ツバキ文具店』『ライオンのおやつ』などのベストセラー作家・小川糸。小説だけでなく、その暮らしを綴ったエッセイも大人気。コロナが流行する前は、ベルリンに住んでいた彼女が次に選んだのは、八ヶ岳。愛犬ゆりねとの、森の中での静かな暮らしをお伝えします。

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小川糸

作家。デビュー作『食堂かたつむり』が、大ベストセラーとなる。同書は、2011年にイタリアのバンカレッラ賞、2013年にフランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞。その他の著書に、小説『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ライオンのおやつ』、エッセイ『グリーンピースの秘密』『昨日のパスタ』、絵本『ちょうちょ』『まどれーぬちゃんとまほうのおかし』など多数。ホームページ「糸通信」http://www.ogawa-ito.com/

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