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これまでも私は、住みたい土地へ身軽に自由に移り住んできましたが、標高1600メートルでの冬の暮らしは、なかなかタフなものとなりました。
実際に冬を過ごしてよくわかったのが、温度計が示す気温はあてにならないということ。
太陽が出るか出ないかで体感がまったく異なり、マイナス10度でも青空であれば過ごしやすく、0度でも陽が出ない日は寒さが辛い一日に。お日様の偉大さを改めて感じました。
山小屋は冬の晴天率が国内トップクラスの土地にあるため、美しい青空が続き、風がない日はとても気持ちよく過ごせました。
心配していた雪道での運転も、スタッドレスタイヤなら問題なくできました。
幼少期に山形県の豪雪地帯で培った感覚が、身体に染みついていて役に立っているのかもしれません。
最も厄介だったのが、「八ヶ岳おろし」です。
山の上から雪崩のように冷たい風の固まりがガーッと落ちてくるため、家全体が揺れて怖いくらいです。荒れ狂うように吹き降ろす風が煙突から入り込み、室内が煙たくなったこともありました。
そして、私以上に冬が試練の季節となったのが、愛犬のゆりね。
多くの犬がそうであるように、ゆりねも音恐怖症。雷などの大きな音が大の苦手です。八ヶ岳おろしで窓ががたがたと鳴り響く日は、ぶるぶる震えて寝付けませんでした。
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さらに、雪の上を歩くのも怖いようで、大好きな散歩も積雪の時期はお預けに。
厳しい自然の胸を借り、生きる力を培おうと始めた山小屋暮らしでしたが、ゆりねのためにも、次の冬からの滞在をどのようにするかが、大きな課題となりました。
ただ、冬の山は厳しいことばかりではなく、混じりけのない澄んだ空気と白銀の雪景色を堪能できます。山小屋で過ごしたホワイトクリスマスは、森一面が雪に覆われた神聖な世界に魅了されました。
夜空の素晴らしさも格別で、雪の上で大の字になれば、天然のプラネタリウムに。
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他にも、樹々に吹き付けられた霧粒が凍って白い花が咲いているように見える「霧氷」、窓に氷の結晶がつく「窓霜」など、自然は惚れ惚れするような景色を次々と生み出していきます。
2022年は、私にとって言わば、山小屋暮らしのトライアル期間。
やりたいこと、今すぐやらなければならないこと、先を見据えながら考えていく課題が次から次へと浮かび上がり、春からはますます忙しくなりそうです。
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『食堂かたつむり』『ツバキ文具店』『ライオンのおやつ』などのベストセラー作家・小川糸。小説だけでなく、その暮らしを綴ったエッセイも大人気。コロナが流行する前は、ベルリンに住んでいた彼女が次に選んだのは、八ヶ岳。愛犬ゆりねとの、森の中での静かな暮らしをお伝えします。