
「到着駅では雪が降っています。」
まさかのアナウンスに耳を疑った。
そんなわけ、そんな奇跡、かなりの奇跡だ。
撮影のために来た、この駅に降り立つ瞬間。
私の地元であるこの駅で、雪が降るなんて。
まさかまさか。まさかのまさか。
私は夢かと思いつつ、ホームから新幹線の上の空を見上げた。
一瞬、時が止まった。
ほんの一瞬のはずだけど、目に焼き付くような、たっぷりとした時間。
寒いはずなのに、寒さも感じない。
このまましばらく雪を見ていたいと思う。
初雪が降ってくる。
見上げる主人公。
ゆっくりと雪が舞う。
なぁんて。
ドラマのワンシーンみたいと1人で台本を考える。
目に映る世界がスローモーションだった。
というか、人間、びっくりするとスローになるのですね。
私のテンションは急上昇。
1人で移動してきたので、共有出来る人が居ない。
この興奮を誰かに伝えたかった。
1人でワクワク。そのまま向かった衣装合わせで、この興奮をはじめましてのスタッフ陣に話したけれど、みんな東京から来ているチームなので、正確な興奮は伝えきれなかった。

静岡人にとっての雪とは、どんなものか、ご存じでしょうか?
あれは小学校の低学年。
教室の椅子に座り、黒板を真正面に捉え、授業を受けていたとき。
白い物体が空から落ちてきた。1つだけではなく、いくつも。その連続は、見たことがない、光景だった。
誰からともなく発せられた
「雪?え?雪?……雪だー!!!」
っという声は、生徒だけではなく、先生までも浮足立たせた。
教室にいるほぼ全員が立ち上がり、窓の外を見に行く。
授業中なのに、怒られることもない。
クラス中が興奮していた。
気がつけば全員グラウンドに居た。
他のクラスも集まりはじめ、走り回った。
雪はすぐにやんだ。
今思えば、雪というより、風花だったと思う。
先生が授業を中止にして、外で遊ばせてくれたことは今になってもとてもよく覚えている。
外で遊ぶと言っても、積もるほど降る訳でもないので、ただただ走り回って、雪を手で触って、それぐらいしかしていなかったはずだけど。
授業中なのにグラウンドで遊んだことも含めて、すごく特別で、スペシャルで、修学旅行みたいなイベントより、印象に残っている思い出。
私が静岡で雪をみたのは、その小学校の時の1回。
それが更新された。
人生で2回目の、静岡での雪。
撮影が終わり、数日ぶりに東京に戻った夜。
寒い寒いと思いながら歩いていると、雪が降ってきた。
雨より雪の方が、なんとなく嬉しいけれど、あまりの寒さに、
「うわぁ、雪かぁー明日の撮影寒そう〜」
と、思った自分が居た。
そして、すぐに複雑な気持ちになった。
静岡で見た雪にはテンションが上がって嬉しくなったのに、東京での雪にはテンションが下がっている。
数日前、あれだけドラマチックに感じた静岡での雪。
東京になった途端に、不快すら感じる鬱陶しさに変換されてしまった。
ドラマのワンシーンにしようと急いで台本を考える。
雨が雪に変わった。
信号が青に変わり、歩き出す主人公。
停まっている車のライトに照らされ、
雪が印象的にライトアップされる。
雨と混ざったような雪を感じ、
早く時が過ぎ、早く家に辿り着きたいと思う。
……スローモーションなんてやってこない。
傘をさした手がちぎれそうなぐらい冷たくて、寒さしか感じない。
台本失敗。

撮影中のもうひとつの作品は、茨城の湖の近くで撮影している。
クランクインの日。
回想シーンが真夏の設定の為、朝イチ、気温0℃の中、半袖ミニスカートでかなりの寒さ。もはや痛さ。
顔が固まって台詞も言いにくいけれど、カイロやベンチコート、湯たんぽ、ありとあらゆる優しさで、スタッフの皆さんが防寒してくれる。
カットがかかれば、布団に包まれてるレベルの温かさを纏わせてもらえる。
撮影ならどんなに寒くても、結局なんとか耐えられる。
終わりがあるからか、スタッフさんの優しさがあるからか。
明日は朝イチ−4℃予報。
みんなと作っている台本なら、寒さなんて耐えられるだろう。