生き方
「三十七歳で第百回芥川賞受賞。翌年の秋、パニック障害を発病し、医業、作家業ともに中断せざるを得ない事態に陥った」
このような前歴を、著者はまるで前口上のように、エッセイにおいて度々語る。ときに小説においても、登場人物に作家自身の置かれた状況を重ね合わせる。医師であるという重責を担う職業につきながら心の病が持ち出されるためか、その行間からは常にそこはかとない暗さが漂ってくる。とはいえ、気が滅入るものではない。読み終えて、ふっ、と口から漏れたため息とともに、いくぶん身体が軽くなった気がする。そして気づいた時には、後戻りができなくなっていた。その文章の「闇」の虜になってしまったかのように、わたしは南木作品に魅せられている。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
本の山
- バックナンバー
-
- 辛い状況にあっても新しい道を切り拓く家 ...
- 「なぜ写真を撮るのか」をしっかり知るべき...
- 引退競走馬の未来に光が当たるということ ...
- シンプルな行為の中にも人それぞれの思いが...
- 当事者による文学が問う健常者の「無意識の...
- 事実を知ることは人の命を尊ぶこと -『黒...
- いちばんしたいこととはいちばん大切なもの...
- 知らない世界だからこそ自由に想像できる ...
- 守りきれたものは、いずれかたちを変えて自...
- サーカス - 誰しもが自分の居場所を見つ...
- 物語と料理が一体となって、読者の記憶に残...
- 北の大地を舞台にした熱気溢れる壮大なドラ...
- 「初心者目線」を保ち遭難者を発見する -...
- 「ものを書く」行為に突き動かされる理由ー...
- 大切なものを手放すことの難しさ -『よき...
- 各国の歴史的背景を学び、死刑の是非を自ら...
- 現実世界にも通じる奮闘を応援せずにいられ...
- 偽りの巡礼者 稀有な旅人の喜び -『天路...
- 面倒なことも楽しむことができるのが、人間...
- 言語が探検の道具となり、道を切り拓く -...
- もっと見る