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なんで僕に聞くんだろう。

2022.08.06 更新 ツイート

「夢や目標を叶えられなかった人ほど『おまえには無理だ』という」 幡野広志

cakesの人気連載が書籍化されたなんで僕に聞くんだろう。』。さらに2つの新たな人生相談も加えて、このたび文庫化!コンパクトになり、ますます手に取りやすくなりました。

大切な人にも読んでほしい、”一生モノ”の人生相談本。今回の文庫化にあたり、本文一部公開です。

*  *  *

夢や目標を叶えられなかった人ほど「おまえには無理だ」という

Q

幡野さん、はじめまして。突然のご相談失礼いたします。

これまでの質問箱、読ませていただきました。

37歳、独身の女性です。

子供の頃から声優になりたいという夢がありましたが、母子家庭で、普通に結婚して就職するように、と言われてきた。親の期待に応えたい(ちなみに親のことは好きです)ということもあり、大学を卒業し就職してアマチュアのゲームの声優や小さな舞台などを細々とやってきました。

結婚していないということを除けば、普通に暮らしていけるだけのお給料もあり、幸福な暮らしをしていると思います。

ただ、40歳を前にして、声優としてもアマチュアでしかなく、一人暮らしで妻でも母でもない……という現状に気がつき、何者にもなれないのではないかという不安が頭をもたげてきました。

本当にやりたかったことは、声優の仕事でお金を稼ぎ、声優として生きていくこと。

ですが、すでに、プロとしては今更な年齢に入っており、アマチュアではギャラはほとんど出ません(むしろ持ち寄ったりします)。

また、年齢を気にせずともプロ向けの本格的なレッスンに通ったりするにはお金と時間の両方が必要で、今の現状ではお金はありますが、平日に行われることの多いたくさんのレッスンに通うことはできません。

ですが、今仕事をやめてアルバイト生活になって邁進するかと言われると……、社会人生活も10年を超え、お金がない、という状態に耐えられないような気がしています。

このことを人に相談すると、やりたいことをやればいいじゃない、という人と、このまま仕事をしながら趣味でやっていけばいいじゃない、という人とに二分されますが、どちらにも決意を固めることができず、いつかなにかラッキーなこと︵出演した声を聞いてスカウトがかかるとか……)が起きるのではないか、と甘い夢を見ながら生きてきたような気がします。

一度も諦めてもいいと思えるくらいなりふりかまわず︵たとえば、仕事をやめて)邁進したことがないから、後悔しているのかなと思ったりはし、一度やってみたほうがいいのかなと思います、が、金銭的な不安が……でも、やっぱりプロとして成功したい……でも年齢が……とループしてしまいます。私はどうすれば良いのでしょうか。

所詮、アマチュアの独り言でしょうか……。(みかん37歳 女性)

A

この相談はお母様にはしないほうがいいとおもいます。「『普通に結婚して就職するように』というお母さんの期待に応えたい」ということですが、普通ってなんですか?

江戸時代の普通と平成最後の普通って違います。“普通”は時代で大きく変化するものです。親のいう普通って、だいたい親が経験した時代の普通ですよ。

親子ってだいたい30歳ぐらい年齢が離れているものですが、30年もたてば時代って変わります。あなたが37歳ということは、お母様は67歳くらいでしょうか。親があなたとおなじ年齢のころ日本はバブルです、肩パッドで風を切りながら歩く時代ですよ。

当時の男性の生涯未婚率は6%、非正規雇用者の割合は20%です。おったまげですが、これがお母様の時代の普通です。現在では男性の生涯未婚率は23%、非正規雇用者の割合は40%です。これがぼくたちの普通です、チョベリバ。

仕事をやめて声優の道に挑戦したいとお母様に相談すれば、あなたが普通の結婚と就職から遠ざかるように感じて、反対されるでしょう。もしかしたら「あなたには無理よ」といってくるかもしれません。

母子家庭で育ててくれた感謝もあるでしょうし、お母さんのことが好きなわけです。悩むあなたへの最後の一押しが「あなたには無理よ」になってしまうと、あなたはいずれ自信を失い、ラッキーがやってきても理由を探して見逃してしまいます。

(写真:幡野広志)

これからたくさんの人が「あなたには無理よ」といってきます。もしかしたらこの記事を引用してSNSで書かれるかもしれません。でも、あなたが目標にするような声優さん以外の人の言葉に、耳をかす必要はありません。

ぼくが写真家になることを目標にしたとき、耳でタコが集合写真を撮るほど「おまえには無理だよ」といわれました。

いまから思い返すと、夢や目標を叶えられなかった人ほど、おまえには無理だといってきました。

誰かが目標にむかってがんばっている姿は輝いています。まぶしくてその輝きを見たくない人もいるし、その輝きに自分の姿を照らされて苦しむ人もいます。

あきらめる人が増えたほうが気持ちが楽なんでしょう。だって、あきらめた人が多ければ、それが“普通”になるわけじゃないですか。

夢や目標を叶えられなかったことが悪いわけじゃないです。自分ができなかったからといって、足を引っ張ったり、目標に進む人を嘲笑したりすることが悪いのです。

あなたはいま、仕事をしっかりとこなして、自分で幸福といえる生活をしています。しかも夢にむかってアマチュアで活動しているわけです。輝いていますよ、マジで。生活を安定させることができたから、次のステップに進もうとしているわけです。

あなたの場合、どちらの道を選んでも正解ですよ。「正解はない」じゃなくて、どっちも正解。

ただ、夢のためにお金がないという状態は、ぼくもいいとはおもいません。お金は必要です。お金は、あればあるだけ夢に近づきます。

そして、「信じれば夢は叶う」なんてこともありません。夢を叶えるには適切な努力が必要です。声優になるのにウサギ跳びで足腰鍛きたえても、適切じゃないでしょ。

あなたが声優としてお金が稼げるか稼げないかは、誰にもわかりません。もちろんぼく0にもわかりません、友人にもお母様にも、すでに声優で活動している人にもわかりません。だから自分で考えて答えを出すしかありません。そうしないと、人のいうことを聞いてダメだったとき、後悔します。

不安ですよね、誰も理解してくれないから孤独です。でも、不安と孤独と仲良くなって。夢に優しく笑いかけて。そしてなによりも夢に誠実に。

「普通」という言葉に気をとられないでください。時代は変わりました、いろんな環境の人がいます、これからの「普通」は多様性です。いろいろな幸せの価値観があります。あなたがしあわせならそれでいいんです。

ラッキーはいつどこにあるかわかりません。いつかのラッキーのために技術を高めることも大切です。あなたはいい人だから大丈夫だとおもうのだけど、そのままいい人を保ってください。どんなに仕事ができる人でも、イヤな人と仕事したくないでしょ。

もしかしたら今年ガンになって、いきなり有名になって声優の仕事がくるかもしれませんよ。病気になることはチョベリバなんだけど。

病気になると仕事を失う人が多いのが現実です。でも病気になっても失わない夢や目標を持っていると、体は病気でも心は健康でいられます。

いつかあなたの出演した作品を見られることをたのしみにしています。

関連書籍

幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』

「家庭ある人の子を産みたい」「親の期待と違う道を歩きたい」「虐待してしまう」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校」「毒親に育てられた」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」......。誰にも言えない悩みを、なぜか皆、余命宣告を受けた写真家には打ち明ける。どんな悩みも、軽やかだけど深く、変化球な名言で刺し、包む!異色の人生相談。

幡野広志『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。』

がんになった写真家になぜかみんな人生相談。 毎週必ず話題になる『なんで僕に聞くんだろう。』書籍第2弾。 「クリエイターと読者をつなぐサイトcakesで、2019年&2020年上期“もっとも読まれた記事"1位。更新のたびにバズる人生相談。 「DVを受けてきた自分は、どうしたら人を憎まずにいられるか」 「障害とうまく付き合っていく方法を聞きたい」 「精神疾患を持つ夫を受け入れられない」 「結婚する友だちを妬ましく思ってしまう」 「地味にまじめに勉強をしている私は間違っている」? 「就活が迫っているのに、したいことがわからない」 「毒親を辞任してるシングルマザーだけど、今の彼の子供がほしい」 「私も幡野さんみたいに本音で行きたい」 「親に復讐したい」 「23歳だけど恋人ができたことがない」 「好きだった先生を忘れられない」 「受験に失敗してからずっと前を向けない」 ――家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと。みんな“幡野さん"に聞きたがる!

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なんで僕に聞くんだろう。

ガンになった写真家に、なぜかみんな、人生相談をした。

「クリエイターと読者をつなぐサイトcakesで史上もっとも読まれた連載」
「1000万人が読んだ人気連載」が待望の書籍化!

「家庭のある人の子どもを産みたい」「親の期待とは違う道を歩きたい」「いじめを苦に死にたがる娘の力になりたい」「ガンになった父になんて声をかけたらいかわからない」「自殺したい」「虐待してしまう」「末期がんになった」「お金を使うことに罪悪感がある」「どうして勉強しないといQAけないの?」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校になった」「毒親に育てられた」「人から妬まれる」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」「兄を殺した犯人を許せない」……

――恋の悩み、病気の悩み、人生の悩み。どんな悩みを抱える人でも、きっと背中を押してもらえる。

人生相談を通して「幡野さん」から届く言葉は、今を生きるすべての人に刺さる”いのちのメッセージ”だ。

バックナンバー

幡野広志 写真家

1983年、東京都生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事。 2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう。』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。♯なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)。

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