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礼はいらないよ

2022.07.27 更新 ツイート

カルト勧誘の手口「自分で決めた」と思い込まされた「自分」とは誰なのか? ダースレイダー

(写真:iStock.com/audible)


安倍元総理銃撃事件から2週間がすぎ、山上容疑者の動機や背景事情が少しずつ明らかになってきている。同時に母親が多額の献金を続けたとされる旧統一教会に関する報道も相次いでいる。

7月23日のBS-TBS「報道1930」では「問われる政治との距離 激震・旧統一教会と日本政治」という特集が組まれ、旧統一教会が日本での活動を始めた時期から霊感商法などで話題になった時期、そして現在に至る三つの時代の活動状況、そのあいだ日本の政治とどう関わってきたか、本国韓国ではどうなのか? といった多角的な紹介がされていた。

その中で長年教団の被害者弁護を担当してきた山口広弁護士が勧誘手法を紹介していた。教団は信者による多額の献金によって様々な事業を展開しているが、その源泉となる信者獲得の方法だ。

 

日本の憲法は信教の自由を保障している(具体的には個々人の信仰の自由、宗教的行為の自由、宗教的結社の自由)。つまり信じるのは自分次第だ。ただ”自分が”信じる、という自分とはなんなのか? 自分が決めるのに至る道とはなんなのか? 自分による決定の前提を確認せず、自己決定に自信(自分を信じる)を持ってしまうことには常に危うさを感じる。

自分で決めることがいかに難しいかは「これから1分間何も考えないと自分に命令する」ことがほぼ不可能であることからもわかる。

勧誘する側はこの前提をよく理解していると思う。自分で決めた、と思わせる術に長けているのだろう。僕自身、熱心な宗教勧誘を受けたことはあるし、マルチ商法の勧誘を受けた時はわざわざついて行って集会などの模様を観察したことも何度かある。病気を公表しているとこうした勧誘は多い。

有名な伝道師が来日してるので会いませんか? とmixiで誘われ、友達を誘ってひょいひょいと外苑前の教会に行き、一緒にゴスペルを歌って帰ったこともあった。いまだに無宗教だし、好奇心ゆえ、なのだがこと宗教に関しては簡単にひょいひょいついて行かない方がよいと思わされる出来事もあった。

僕は二十歳くらいから渋谷のクラブで夜な夜な遊んでいて、ラッパーやDJ、スケーターの友達がたくさん出来た。ある日、そんな仲間の一人、Aから電話があった。「新しい曲作り用の機材を買ったんだけど使い方がよくわからない。教えに来てよ!」という誘いだった。生憎その日は予定が合わず、今度行くよ! と答えて終わった。数日後、クラブで共通の仲間Bが険しい顔で聞いてきた。

「Aから電話もらっただろ? 機材の話。あれ、行った?」僕は行けなかったと答えると彼は「もうAの電話は出ない方が良いよ。俺、誘われたから行ったんだよ。家着いたら彼女が仕事行く準備してるからしばらく外でお茶飲んでようって言われて、近所の喫茶店行ったんだよ。そしたら、そこにたまたま居合わせたっていうAの友達が2人いて、なんか4人でお茶することになったんだ」。

この居合わせた友達2人とAは世の中の不条理の話を始め、いかに今の社会に救いがないか、一体どうしたらより良く生きられるか? と台本でもあるかの如く怒涛の喋りを展開していく。そして、そんなことを考えるのにぴったりな勉強会が近くで開かれているからぜひ一緒に行こうと誘われたのだ。Bはこの時点で宗教の勧誘だとなんとなく感じていたがAは友達だし、ちゃんと話そうと思いながら勉強会までついて行った。入り口で名前と連絡先を書かねばならず、嫌々書いて会場に入ると中にはかなりの人数がいて、Aとその2人の友達は「新しい人を連れてきました」と話している。すると次々と笑顔の人が寄ってきては「あなたは本当に幸運だ」とか「みんなで勉強しましょう」と話しかけてくる。この時点でBは頭が真っ白になってしまい、なんだかわからないまま椅子に座って2時間ほど色々な話を聞かされることになった。

終わったあと、Bは頭に来て友達だと思ってたのになんてことをするんだ! 機材の話も嘘か?とAに聞くと君のためになることだからの一点張りだったという。

翌日、その団体の資料がBの家にも届いたらしい。Bは仲の良い遊び仲間が何を言っても通じない人に変貌したことに大きなショックを受けていた。

Aを訪れた際、部屋で仕事の準備をしていたとされる彼女も僕らの遊び仲間だったのでどういうことかと電話したら、実はちょっと前からAの様子がおかしいから会ってなかったらしい。Bの件を聞いて彼女は仲間を勧誘なんて良くないから会ってちゃんと話してくる、と言ってくれた。

ところが数週間後には彼女も信者になったと知らされることになってしまう。Aの電話は誰も出なくなり、カップル揃って僕らの遊び仲間からは外れてしまった。彼、彼女らはどこまで自分で決めて信じたのか? 自分とはなんなのか? 君のため、とはなんなのか? 宗教に関わるニュースを見るたびにこのエピソードを思い出す。
 

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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