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51歳緊急入院の乱

2022.07.01 公開 ツイート

第1回

全部更年期のせいにしてた私…アホか 花房観音

初体験。

生まれて初めて尽くしだった。

初めての救急車、初めてのICU、初めての入院。

出産経験のない自分は、なんとなく入院とは縁がなく年を取っていくんだろうなと、根拠もなく思い込んでいた。たいした自信だ。今考えると、バカじゃないかと思う。

自分自身の身体に対する根拠のない自信。

思えばこれが、すべての元凶だった。

 

 

51歳、既婚、子無し、職業・小説家、京都の一軒家(賃貸)で、同じく物書きの夫とふたり暮らし。

以前、この幻冬舎プラスに「ヘイケイ日記」という連載をして本も刊行しているが、まだ閉経しておらず。

いつまで自分は女でいられるんだろうかなんて考えていた私が、女でいるどころか、心臓の一部が動かなくなって死にそうになった顛末に、しばらくお付き合いいただきたい。

何でもかんでも「更年期だから」と思ってた

2022年5月半ば。

私はひとりで和歌山へ旅していた。

大阪まで出て、「特急くろしお」に載り、紀伊勝浦へ。そこからバスで、熊野古道の入り口である補陀落山寺を参り、再び紀伊勝浦に戻り、「ホテル浦島」へ。このホテルの「忘帰洞」という、洞窟の温泉に以前から入りたかったのだ。念願である温泉を満喫し、夕食を食べ、早々に眠る。翌朝は送迎の車で紀伊勝浦駅に戻り、そこからはバスで那智大社へ。

四年前の夏に、熊野大社、熊野速玉大社をお参りする機会があったが、熊野三山の残りのひとつである那智大社に行きたいと願いつつも、新型コロナウイルスのために動きにくくなって、なかなか来ることができなかった。

バスを降りてから、数百段の階段を上り、那智大社にお参りする。

やっと来れたと、感慨深かった。

それにしても、階段がきつかった。

途中、ゼイゼイと息が苦しくなり、何度も休憩していた。

バスガイドという仕事をやっていたこともあり、お寺の階段なんて、しょっちゅうパンプスでひょいひょい上がっていたのに。

小説家になり体力が無くなったのと、何より加齢、そして更年期障害かもしれないと思い込んでいた。

あとになって気づいたが、これはまさに翌日倒れる重要な兆候だったのに。

今年に入ってから、「更年期障害」らしき症状がいくつか顕著になり、動悸息切れ、階段がしんどい、怠い、浮腫む……それらを市販されている漢方薬や更年期の薬などを飲んでごまかしていた。

なんでもかんでも更年期のせいにしていた。

自分の体は自分でメンテナンスできると思っていた

那智大社でお詣りをしたあと、ベンチに腰掛けてスマホを眺めると、「ダチョウ倶楽部」の上島竜平さんが亡くなったというニュースが目に飛び込んで、「え?」と声が出そうになる。

どういうこと?

しかも自宅での縊死だという。

SNSには衝撃と悲しみの声が溢れている。

日本中が知る、人気芸人の突然の死。

特にファンではなくても、衝撃だ。

身近な人からしたら、想像を絶する喪失感だろう。

なんで? と、混乱を抱えながら、私は西国三十三か所観音霊場第一番目の札所である青岸渡寺、そして那智の滝をお参りする。

那智の滝に行くには、石の階段があり、雨だったせいもあり、降りるときは転ばないように気をつけて歩き、帰りに上がるときは、さきほどの那智大社の参道と同じく、何度も休憩しながら階段をあがった。

更年期って、しんどいなぁ……でも、数年経てば楽になるとも聞くし……なんて考えながら。

そうしてバスに乗り、紀伊勝浦駅近くで昼食を食べたあと、「特急くろしお」で大阪まで帰り、乗り換えて京都の自宅に戻った。

寝る前、足のむくみがすごかったので、着圧ストッキングを身に着ける。

よく歩いたからなぁと、考えていた。

実はこのむくみこそが兆候だったのにも関わらず、私はどこまでも能天気だった。

こうして振り返っても、「バカじゃないのか」と、自分に呆れる。

病院に行くのを先延ばしにしていた

とはいえ、「病院で検査してもらわないとな」とは、以前から薄っすらと思っていた。

フリーランスになってから、健康診断には行っていない。「病気が見つかったら怖い」という気持ちと、前述のような根拠のない自信があった。うちの親族は癌で亡くなる人間が多いが、基本的に弟妹も健康だ。長生きしている親戚もたくさんいる。数年前の祖母の法事には、90歳を超えた親戚だらけだったし、祖母も病気らしきものはせず94歳で大往生した。

今年に入ってから、つまりは50歳を過ぎてからのときどき訪れる不調を更年期のせいにしつつ、どこか恐れてもいた。

正直、仕事がそんな忙しいわけでもなく、今年に入ってから余裕もあったけれど、本の刊行予定やら出版イベントやらあるしと、結局「病院に行く」のを先延ばしにしていた。たぶん、今回のことがなければ、先延ばしし続けて、さらに悪化させて突然死していただろう。

そういう意味では、死ぬ前に、倒れてよかったのかなと、今は思っている。

また、私のように、病院を避けて放置し、取返しのつかないことになった人も、たくさんいるはずだ。

だからこそ、今回、自分の身に起こった出来事を、こうして書き残しておこうと決めた。

入院費やらその後の通院、薬代など、少しでも「もとを取りたい」というあさましい動機ももちろんある。

(今後しばし見つめることになる天井)

関連書籍

花房観音『ヘイケイ日記』

40代。溢れ出る汗、乱れる呼吸、得体のしれない苛立ち……。心身の異変を飼い慣らしながら、それでも女を生きていく。いくつになろうが女たるもの、問題色々煩悩色々。綺麗な50代をなぜ目指さないといけないのか、死ぬまでにあと何回「する」のか、グレイヘアを受け入れられるか。更年期真っ盛りの著者が怒りと笑いに満ちた日々を綴る「女の本音」エッセイ。

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51歳緊急入院の乱

更年期真っ只中。体調不良も更年期のせいだと思っていたら……まさかの緊急入院。「まだ死ねない」と確信した入院日記。

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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