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51歳緊急入院の乱

2022.12.16 公開 ツイート

第49回

筋肉があれば何でもできる 花房観音

退院して、1ヶ月ちょい。
6月下旬。
2泊3日の東京滞在から帰ってきてまもなく、私は再び新幹線に乗っていた。
今度は九州方面へ向かう新幹線だ。
行先は、福岡県北九州市小倉。

 

ストリップを見に北九州へ

小倉には、九州最後のストリップ劇場、「A級小倉」がある。
ストリップは、ここ4年ほどの、私の趣味で、ストリップを題材にした小説も書いていた。
実は5月に入院した日の翌日も、京都のストリップ劇場に行くつもりだったのだ。しかし入院し、退院してしばらく経っても体力が戻らず、それどころじゃなくなっていた。
しかし、心に潤いを持たないと、元気が出ない。
ストリップ鑑賞そのものは、6月半ばに、地元京都の劇場で、復活していた。
ただ、遠征となると、やはり多少心配はあったが、どうしても見たいメンバーだったので、行くことを決めた。

小倉のステージには、私が4年前に、ストリップを観るきっかけとなった、若林美保さんが舞っていた。彼女は今は他の活動が忙しく、ストリップ劇場で観られる機会が少なくなっていて、貴重な時間だ。
そして少し前に、東京上野で見て衝撃を受けた、海乃雪妃さんという、昭和のエロスを再現した確固たる世界を表現する踊り子さんも。
小倉という街そのものも、好きだ。
最初に行ったのは、それこそ4年前のこの時期、その際も若林美保さんを見るためだった。

駅のすぐ近くに、猥雑な匂いが残る一角があり、そこにストリップ劇場が紛れ込むように存在する。
小倉という街は、私が人生で一番影響を受け、小説家になるきっかけともなった、AV監督の代々木忠さんが生まれ育った場所でもある。
電車の乗り換えがもともと嫌いだし、今は体力もないので、A級小倉は新幹線の駅から近いのが、ものすごくありがたかった。
そして何より、食べ物がおいしい。
小倉に来ると、いつもひとりで食事をするのが楽しみだった。
もっとも今回は、病気をしたあとで、食事制限を続けているので、以前のようになんでも食べるというわけにはいかないけれど。

筋肉さえつければ何でもできる

平日のA級小倉劇場は、ほどほどに席は埋まっていた。
コロナの感染対策は、ここの劇場は本当にきちんとしていて、安心できる。
重症化リスクを背負ってしまってから、人混みが嫌いというより、怖くなった私にとっては、重要だ。
数時間鑑賞して、踊り子さんたちの舞を堪能し、夕方近くになって劇場を後にする。
九州に来てストリップを鑑賞できるまで、体力が回復して、よかった。
身体に栄養を与えないと死んでしまうように、心にも栄養補給をしなければ、心が死ぬ。
だから、こういった趣味は必要なのだ。
ストリップは、衣装や舞も楽しめるが、何より鍛えられた女性の裸が美しい。
そう、鍛えられた裸。
今回、小倉のステージにあがっていた踊り子さんたちは、みんな筋肉がすごかった。まるで筋肉大会だ。

もともと踊り子さんは、さまざまなポーズをつけたり、天井から布でぶらさがったりするので、みんな筋肉がすごい。スリムでスタイルよくても、筋肉すごい。ぽっちゃりめの人でも、筋肉すごい。
私は男性のマッチョには興味は全くないけれど、ストリップで女性の筋肉を見ると、「尊い」と今までも感心していた。
筋肉すごい、筋肉。
女は筋肉だ。
筋肉さえつければ、なんでもできる。
今回、小倉のステージを見て、自分も筋肉をつけようと、心に決めた。

もともと「運動はしたほうがいい」と、主治医には言われていた。
病気を治し、あらゆる数値を下げ健康になるために、退院して体力が少し戻ってからは、プールに行ったり、ウォーキングもしていた。
体育の成績はずっと悪く、マラソン大会はサボり、大学に入ってからも水泳の授業が嫌で窓から逃亡したこともある。何度も運動をはじめようとチャレンジしてきたけれど、必ず挫折してきた、筋金入りの運動嫌いだ。
しかし、今は、切羽詰まっている。
だって病気になってしまったんだもの。

(小倉)

運動するぞ、筋肉つけるぞ、動くぞ

筋肉だ、筋肉、筋肉をつけるぞ!
と、小倉から帰って、私は「筋肉」とひたすら唱え、プロテインを購入し、筋トレをはじめた。
あと、やっぱり、体力が欲しかった。
近年、体力がないなぁと思うことが増えたけれど、加齢だから仕方がないと諦めていた。
鍛えてない、運動していないから、なおさら衰えも早かったはずだ。
このままでは、生きのびても身体が動かなくなってしまう。
生きるために必要なのは、体力だ。
体力をつけねば。
それには運動するしかなかった。

ストリップを見始めてわかったのだが、踊り子さんには若い人もいれば、私と同世代の人が、結構いる。私より年上の人も、ちらほらいる。
でも、みんな、ものすごく動ける。
尋常じゃないほど、動くし、飛ぶ。
裸になるから、隠しようがない。贅肉も垂れた尻も、見られてしまう。
でも、堂々と裸で舞う彼女たちは、素晴らしくカッコいい。
生命力が溢れていて、あれを見ていると、「もう年なんだから」と言ってられない。

そんなわけで、私は51歳にして、体力をつけるために身体を鍛え始めた。

問題は続くかどうかだ……今まで挫折しかしてこなかったから!

関連書籍

花房観音『ヘイケイ日記』

40代。溢れ出る汗、乱れる呼吸、得体のしれない苛立ち……。心身の異変を飼い慣らしながら、それでも女を生きていく。いくつになろうが女たるもの、問題色々煩悩色々。綺麗な50代をなぜ目指さないといけないのか、死ぬまでにあと何回「する」のか、グレイヘアを受け入れられるか。更年期真っ盛りの著者が怒りと笑いに満ちた日々を綴る「女の本音」エッセイ。

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51歳緊急入院の乱

更年期真っ只中。体調不良も更年期のせいだと思っていたら……まさかの緊急入院。「まだ死ねない」と確信した入院日記。

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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