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2022.01.08 更新 ツイート

「親子のあり方」を問う 本屋大賞受賞作 -『そして、バトンは渡された』 KIKI

主人公の森宮優子は17歳。高校3年生の始業式を迎える朝、優子が「森宮さん」と呼ぶ父親が用意した朝ごはんはかつ丼だった。気合を入れないと! と早起きして作ってくれたものだけれど、朝食としてはかなり重い。残しては申し訳ないと、頑張って平らげ、学校に向かうのだった。森宮さんと優子は、本当の親子ではない。血の繋がりはなく、義理の親子だ。森宮さんは37歳で、20という微妙な年齢差のために、時に揶揄されることもあるけれど、ふたりの関係はいたって健全だ。朝からかつ丼を作るように、森宮さんにはどこかとぼけているところもあるが、ふたりはいつでも互いを気づかい、その親子関係はつねに微笑ましい。

 

実は優子はこれまでに苗字が3回も変わっている。生まれた時は「水戸優子」、その後「田中優子」、「泉ヶ原優子」、そして現在の「森宮優子」。産みの母は優子が物心つく前に交通事故で亡くなっており、父は再婚後、転勤でブラジルに行ったまま音信不通になってしまった。父の再婚相手の梨花、また梨花の再婚相手の泉ヶ原さん、そして梨花の再々婚相手の森宮さんと、優子には総勢5人の親がいる。これを知って、本書はその複雑な家庭環境を面白おかしく書いた物語、と決めつけてしまうのはまだ早い。タイトルにある「バトン」とは、5人の親を渡り歩いた「優子」のことではないことも、先に記しておく。

とはいえ、優子は親が変わるたび環境の変化に馴染む努力を怠らず、無意識に自分を守る術を具えてきた。高校最後の夏休み前には、些細なことで優子は同級生から無視をされることになるが、彼女はそれもいずれ時間が解決する、とさほど重大視せず淡々と過ごす。しかし、その状況を知った森宮さんは、「いざ、自分の出番だ。元気をつけなければ!」とばかりに夕飯ににんにくの入った餃子を連日用意する。かつ丼もこの餃子も、森宮さんの勝負料理はいつでも過剰である。けれど実はそれらは森宮さんの愛情表現。親として娘を応援しているのだ。

優子は同級生に無視されても悩まなかった。そして、自分には悩みがないのが悩みだと言うけれど、そう思えるのは力強く生きる術を身につけているだけでなく、それ以上に親たちが彼女を守ってきたからなのだろう。優子の親になった人たちは、彼女に気づかれないように、必死で「親」になる努力をし、また「親」であることをなにより喜んでいたのだ。

森宮さんと優子は、本当の親子でない。けれど、どんな親子よりも、ずっとずっと本当の父親と娘だったことがわかる。森宮さんとの関係だけでない、優子の5人の親みんなが本当の親以上の存在だったのだ。この物語は決して重苦しいものではない。それでも、私自身に親子とは何かを問いかけ、そして社会に親子のあり方を改めて考えるように訴えかけてきた。

「小説幻冬」(2020年7月号)

瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫)

父親が3人、母親が2人いる優子。複雑な生い立ちではあるが、いつも親を愛し、愛されてきた。2019年本屋大賞受賞の感動作。

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