1. Home
  2. 読書
  3. マンガ停留所
  4. 前近代の日本とジャズの不思議な魅力 灰田...

マンガ停留所

2021.12.14 更新 ツイート

前近代の日本とジャズの不思議な魅力 灰田高鴻『スインギンドラゴンタイガーブギ』 中条省平

灰田高鴻の『スインギンドラゴンタイガーブギ』(講談社)が全6巻で完結しました。

 

すでに文化庁メディア芸術祭マンガ部門で新人賞を受賞し、作中に登場してもおかしくないジャズの楽曲・演奏をコンピレーションしたアルバムまで発売され(ユニバーサルミュージックジャパン)、一時期はアマゾンでも品薄になってプレミアム価格で売られていた人気マンガです。

戦後日本のジャズと歌謡界の興亡を背景にした大河マンガとなっておかしくなかったはずですが、なぜか第6巻で、唐突にヒロインと姉とその恋人の過去の因縁にケリがつけられ、駆け足のような結末を迎えました。予想外に早い終わり方でした。

舞台は第二次大戦後まもない東京。

ヒロインの於菟(おと)は、福井県生まれの少女ですが、水難事故で精神的な障害を負った姉を救うために、かつて姉の恋人だったベーシストを探しだそうと上京します。

そこで、あるジャズバンドのベーシスト・小田島と出会い、路上で1曲歌ったところ、天性のスイング感を発揮して喝采を受け、ジャズの世界に足を踏みいれます。

ジャズバンドに所属して、米軍基地で歌ったりするようにもなり、さらには、ヤクザまがいの芸能界の連中やその周辺の作曲家たちとの付きあいも始まり、同年代の女子の歌い手志望者とライバルにもなります。

じつは、小田島が姉の恋人だったのですが、小田島は記憶喪失に陥っていました……。

まずは、ジャズの演奏と歌唱のスイング感がじつに巧みに描出されていて、思わず引きこまれます。

ジャズを題材にしたマンガといえば、最近で最高の出来栄えは、石塚真一の『BLUE GIANT』ということになるでしょうが、『スインギンドラゴンタイガーブギ』は、タッチが『BLUE GIANT』ほどハードではなく、もっと繊細で、稚拙にさえ感じられる独特の味わいを醸しだしています。

本作の舞台は、『BLUE GIANT』よりずっと前の1950年代なので、このレトロな雰囲気は物語にうってつけなのです。

第5巻には、灰田高鴻が2018年の「ちばてつや賞」に入選した「しろい花」という短編マンガが付録でついています。

この「しろい花」は、いわゆる「ガロ系」の匂いのする作品で、タイトルおよび物語には、明らかにつげ義春の「紅い花」の影響が感じられます。

そのことを知ったうえで『スインギンドラゴンタイガーブギ』全体を読み直すと、ジャズを題材とするバタ臭さの奥に、寺山修司に通じるような、前近代的な日本の風物と、因果応報の物語、また、板張りの住居や土の地面への執着などが濃い陰翳を落としていて、そこにこそ、この作者の個性があるのではないかと思われてきます。

前近代日本とモダンなジャズサウンドの衝突と分裂。なんとも不思議な魅力を放つマンガです。

{ この記事をシェアする }

マンガ停留所

バックナンバー

中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP