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女たちのポリティクス

2021.09.21 公開 ツイート

刊行記念対談#2

民主主義の第一歩のために、大人たちも元気を出して面倒くさいことをしていこう 坂上香/ブレイディみかこ

菅総理大臣が退陣を表明し、注目を集める自民党総裁選。そして日本で生きる我々にとって本番ともいえる秋の衆院選。そのような中、女性政治家が様々に注目を集めています。
日本は政治分野において特にジェンダーギャップが甚だしく残っていますが、果たして、政治という男社会で世界の女性政治家たちはどのように戦ってきたのでしょうか?

各国の女性リーダーと政治事情を考察したブレイディみかこさんの近著『女たちのポリティクス』。本書の刊行を記念して、ドキュメンタリー映画監督・坂上香さんとのトークイベントが先日、青山ブックセンターで開催されました。

前編>では活躍が目立つ海外の女性政治家の話題や「フェモナショナリズム」について語り合った2人。後編ではBLM運動や日本の現状と未来への希望、そのための大人の役割についてなど重要なトピックスをお届けします。(構成・文 阿部花恵)

(ブレイディみかこさん<左>と坂上香さん)

どうすれば日本のジェンダーギャップ指数は上がる?

坂上 日本における女性の政治参加という意味では、7月の東京都議選はいい変化がありました。女性議員の割合が過去最高の32%になったんですよ。ここから、上智大学法学部の三浦まり教授が導入しようとしているパリテ(フランス語で「男女同数」)法やクオータ制を通じて、政治の世界に女性がもっとたくさん入っていくべきだと私は思います。そうでないと、ジェンダーギャップ指数120位の状況は変わらない。

ブレイディ 日本のジェンダーギャップ指数の低さは、特に政治が足を引っ張っているんですよね。女性議員が少ないから。

坂上 でも最近は、海外の活動に触発された女子大学生が始めた「NO YOUTH NO JAPAN」のように、政治や社会情報を若い世代に発信する団体が活動していたり、女性記者が聞き手の政治番組『政治をSHARE』(TBSテレビ)ができたりと、いい変化が少しずつ起きているんじゃないかな。

ブレイディ メディアの役割はすごく大きいですよね。日本でも夜の8時とかのゴールデンアワー、つまり子どもが見るような時間帯に政治について語る番組やドキュメンタリーがあっていいと思う。英国だと女性がひとりで回してるニュース番組も多いです。

坂上 メディアで女性が政治や経済といったハードなテーマを語る姿を日常的に見て育つことで、政治に対する女の子の意識も違ってくるでしょうからね。

ブレイディ 政治って議会の中だけじゃなくて、議会の外にもあるものですから。『女たちのポリティクス』でブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動を取り上げたのもそういう理由からです。BLM運動を立ち上げたのは3人の女性ですが、うち2人はクィア(同性愛者、トランスジェンダーなどを含むセクシュアルマイノリティの総称)であることを公言している。

公式サイトには運動のこれまでの歩みを記したページがあるんですけど、「HISTORY」ではなく「HERSTORY」となっているんですよ。HIS(彼の)ではなく、HER(彼女の)STORY。なぜなら過去の黒人解放運動でも、真ん中にいたのはずっと男性だったから。女性やLGBTQの人は、常に運動の周辺に追いやられていた。でもそうではなく私たちが中心になってやっていく黒人解放運動をしたかったんだ、とはっきり書かれています。

それを読んだとき、坂上さんの『トークバック 沈黙を破る女たち』(※)を思い出しましたね。あれは本当にいいドキュメンタリーなのでぜひ多くの人に観てほしいです。

※『トークバック 沈黙を破る女たち』 ……2014年の坂上香監督作品。サンフランシスコで元受刑者、HIV/AIDS陽性者が自らの人生を芝居にした。暴力に晒されてきた人生に演技を通して向き合う8人の女たちを映した傑作ドキュメンタリー。

坂上 ありがとうございます。

アンジェラ・デイヴィスも興奮したBLM運動の盛り上がり

ブレイディ 『トークバック』の監督である坂上さんは、BLM運動をどう見ていましたか。

坂上 もうね、興奮しましたよ。BLM活動自体はその7~8年前からありましたが、ずっとマイナーな活動扱いされていたんですね。それがジョージ・フロイドさんの暴行死がきっかけとなって、瞬く間に全米にBLMのムーヴメントが広がっていって。それまで政治活動とは無縁だったシカゴとワシントン在住の女友達からもそれぞれ「私もデモに行く」と連絡が来たりして。

それに何よりもアンジェラ・デイヴィスが興奮している姿を見られたことに感動しました。アンジェラ・デイヴィスは長年にわたって黒人解放運動を戦ってきたフェミニストであり、私にとってのヒーローともいえる存在。その彼女が、BLM運動の盛り上がりを目の当たりにして、「私が生きているあいだにこんなことが起きるとは思わなかった! BLM運動に興奮しているのは私だけじゃなかった! 世界を変えるんだったらもう今しかない!」って高揚して話していたんですね。革命家が部屋から語る、みたいなオンラインイベントで。それを見て私も興奮しました。

私、2004年に『ライファーズ 終身刑を超えて』という刑務所を舞台にした映画を撮っているのですが、その作品がきっかけで、オーストラリアのメルボルンで開かれた女性刑務所廃止運動の大会にパネリストとして来ていたアンジェラさんとランチをしたことがあるんです。

私にとっては「教科書に載っていたあの人が!?」みたいな感じだったのですが、彼女は刑務所を撮影したいけれども許可が降りずに苦労していた当時の私の活動に興味を持ってくださって。

「あなたが大変な目に遭っているのはわかっている。でも、諦めちゃだめ。本当にそのことを知りたいのなら、食らいついて、食らいついていかなきゃ」ってアジられて。

ブレイディ アジられて(笑)。

坂上 そう。その励ましが『プリズン・サークル』(国内初の刑務所ドキュメンタリー)の完成にもつながった部分もあります。ところで、日本の女性の社会運動だとフラワーデモ(性暴力根絶を目指すデモ)が全国に広がっていますが、ブレイディさんはどうお考えですか。

ブレイディ 素晴らしいと思う。私が若いときって個人主義的なフェミニズムが多かった気がしますが、今は皆が集まって一緒に何かをする運動になっているのかもしれません。フェミニズムと労働運動を結び付けている点で#KuTooも可能性を感じます。今後は、経済の軸がしっかり入った女性運動が出てくるのを期待しています。経済が悪くなると、収入が低い方にしわ寄せが行くので、苦しむ女性の割合はどうしても増えますから。コロナ後は特に、経済と女性の運動のリンクがすごく重要になると思う。

女子中学生が校庭で暴力反対デモを敢行

坂上 最近のイギリスでは女性の社会運動はどんなものがありますか。

ブレイディ 今年の3月、ロックダウン中にロンドンの公園で帰宅途中の女性が殺害される事件が起きたんです。その被害者のために公園で女性たちによる追悼集会が計画されたんですが、ロックダウン中って集会をやっちゃいけないんですよ。ところが、その情報をネットで知った警察が過剰に反応して、追悼集会のために集まった女性たちを警官隊が強制的に排除する行動に出たんです。後手に縛ったり、地べたに押し倒したりして。その映像がSNSで出回ったことで、女性への暴力反対運動が全国的に広がっていきました。

これまでは、こういう事件が起きると「女性は人気のない場所を歩くべきじゃない」という話になりがちでした。でも今はもう「なぜ女性が行動を制限しなくちゃいけないんだ」「襲われる方じゃなくて襲う方が悪い」というのが常識になりつつある。うちの息子の中学校でも、女子生徒たちが校庭でデモをやったんですよ

坂上 中学校の校庭で? すごい。ブラボー!

ブレイディ 皆が授業を抜け出して、プラカードを持って校庭をグルグル回って行進するの。「エデュケイト・ザ・ボーイズ」というスローガンで。

でもそうなると「何であいつらだけ授業中に歩いていいんだ?」って男子生徒も出て行くじゃないですか。それで校庭に出た男子生徒たちが、「ノー・イズ・ノー!」と言っている女子生徒たちの後ろで、「ノー・イズ・イエス!」ってからかいながら追いかけたりするんですよ。そういう騒ぎになって結局みんな一度教室に戻ったらしいんですけど、そうしたらシチズンシップ教育の先生が、首謀の女子生徒たちを集めて説教をしたらしいんです。

坂上 からかった男子たちじゃなく、女子たちが怒られたの?

ブレイディ もちろん、男子たちは教室から勝手に出て行ったことでそれぞれの担任から叱られているんですが、女子たちは別の件で説教された。その説教をしたのは社会運動のベテランで熱意のある30代の女性の先生なんですけど、「ただ出て運動すればいいってもんじゃない。ああいう風に男の子たちが出てきた場合はどうするか、戦略を立てておきなさい。計画性のないデモは失敗するんです」って(笑)。そういう映像が息子のインスタに回ってきたんですが、運動のやり方を学校がちゃんと教えるんです。そこは日本と比較するとすごく差を感じましたね。

対話をしない国で民主主義は育たない

坂上 うちは子どもをオルタナティブな学校に行かせたんですけど、そこまで学校側が踏み込んではやらないな。あ、でも在日コリアンの生徒に対してヘイトスピーチまがいのトラブルが起こったときは、学校はちゃんと保護者にも伝えてくれて、子どもにもきちんと対応してくれました。ただ我々保護者も動揺しちゃって。そこで有志で勉強することにしたんです。被害を受けた生徒のお父さんから在日コリアンとしての個人的な体験や歴史を学んだり、映像を見て絵を描いて語り合うワークショップをやったり、外国人が多い地域に、保護者と子と先生でフィールドワークに出かけたり。保護者が自分の偏見に気がついて「申し訳ないことをしてきた」って涙したこともあったし、美味しい韓国料理を食べに行って親交を深めたりもしました。その体験はすごくよかった。ただ、こういう活動を快く思わない親もいて、関係が難しくなったこともありましたね。

ブレイディ オルタナティブな学校の親でも?

坂上 そうなんですよ。規模が大きい学校だからかもしれないけど、価値観にこんなに開きがあるんだって改めて実感しましたね。というより、そもそも私たちの世代は現代史をきちんと学んできていないし、メディアに毒されてますよね。だからブレイディさんの話を聞くと「そんなことまでできちゃうの?」って心から羨ましくなります。

ブレイディ 教育の話でいうと息子の学校では子どもたちにLGBTQやレイシズムのようなセンシティブな問題を教えるときは、夜に保護者を対象としたセミナーもやっているんですよ。私もいくつか行きましたし、結構みんな出てますよ。自分たちが10代の頃は習わなかったことだから。「ここがわからない」と率直に質問する人もいるし、そういうことが実は大事だなと思います。コロナになってからはZoomセミナーになりましたが。

坂上 やっぱり保護者も学び直さないとね。若い世代が行動するきっかけって、周囲の大人たちの影響も何かしら絶対にありますから。私は20年近く、大学でも映像について教えているんですが、学生たちのアプローチにはいつも発見があります。こんな腐った社会でよく君たちはピュアに色々考えてやろうとしてるねって抱きしめたくなる。少し前になるけれど、SEALDsの活動もすごい希望だと思ったの。もちろん若い人たちが主体的に起こした活動だけれど、彼ら彼女らの周りには、先駆者的な保護者や教員、クリエイターや活動家、そういう大人がいたと思うんです。

ブレイディ 何もないところ突然出てくるわけじゃないんですよね。女の子たちの校庭デモも、家庭での会話とか、何かの土壌があって初めて生まれてくるものだと思う。

坂上 私たちのような保護者とか、教員とか、大人がもっと変わらないといけない。

ブレイディ 大人になるとどうしても「今の子どもってすごいよね」と期待を託してしまうじゃないですか。でも子どもにだけ期待を託して、大人たちがなんにも戦わないのはお気楽すぎるというか、そんなに甘いものじゃない。私たち大人が本気でやっている姿を見せないと子どもたちだってだんだんシニカルになると思います。面倒だからって何もしないと、結局は現状維持にしかならないし、面倒を恐れて動かないままでいると、あとは衰退していくしかないですよね。

だから、「ここらでちょっと元気出して面倒くさいことしようよ」って思いますね。考えてみたら革命なんてめちゃくちゃ面倒くさいでしょ(笑)。

坂上 うん、対話とか議論とか、首突っ込むとか、関わるとか、面倒くさいことをどんどんしていきましょう。

ブレイディ 話さない国は民主主義が育ちませんからね。話し合うことが民主主義の第一歩だと私は思っています。

関連書籍

ブレイディみかこ『女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち』

近年、世界中で多くの女性指導者が生まれている。アメリカ初の女性副大統領となったカマラ・ハリスに、コロナ禍で指導力を発揮するメルケル(ドイツ)、アーダーン(ニュージーランド)、蔡英文(台湾)ら各国首脳たち。政治という究極の「男社会」で、彼女たちはどのように闘い、上り詰めていったのか。その政治的手腕を激動の世界情勢と共に解き明かす。いっぽう、女性の政治進出を阻む「サイバー暴行」や、女性国会議員比率が世界166位と大幅に遅れる日本の問題にも言及。コロナ禍の社会で女性の生きにくさがより顕在化し、フェミニズムの機運高まる中「女たちのポリティクス」はどう在るべきか。その未来も照らす1冊。

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女たちのポリティクス

近年、世界中で多くの女性指導者が生まれている。アメリカ初の女性副大統領となったカマラ・ハリスに、コロナ禍で指導力を発揮するメルケル(ドイツ)、アーダーン(ニュージーランド)、蔡英文(台湾)ら各国首脳たち。そして東京都知事の小池百合子。政治という究極の「男社会」で、彼女たちはどのように闘い、上り詰めていったのか。その政治的手腕を、激動の世界情勢と共に解き明かした評論エッセイ。

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坂上香 ドキュメンタリー映画監督・NPO法人out of frame代表・一橋大学客員准教授

1965年生まれ。高校卒業後、渡米。ピッツバーグ大学社会経済開発学修士課程修了。帰国後、制作会社のディレクターとして数多くのドキュメンタリー番組を制作。独立後、初の監督作として、米国刑務所における受刑者更生プログラムに密着取材した『Lifers ライファ―ズ 終身刑を超えて』を制作。国内外で高い評価を得る。第二作『トークバック 沈黙を破る女たち』に続き、日本の刑務所を初めてカメラが捉えた『プリズン・サークル』が全国で話題になっている。著書に『ライファ―ズ 罪に向きあう』など。毎日医療プレミアで「回復/修復に向かう表現」を連載中。

ブレイディみかこ ライター・コラムニスト

1965年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校卒。1996年から英国ブライトン在住。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で第16回新潮ドキュメント賞を受賞。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がベストセラーになる。そのほか『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』『労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』など著書多数。

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