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女たちのポリティクス

2021.12.17 公開 ツイート

刊行記念対談#1

「男、めっちゃ有利」が変わらない日本 武田砂鉄/ブレイディみかこ

既に遠い記憶となっている人も多いであろう東京2020オリンピック&パラリンピック。巨額の費用と感染者を出し、有終の美を飾れなかった菅元総理は早々に退場。まるで何事もなかったかのように岸田新政権が発足しました。今回のブレイディみかこさん×武田砂鉄さん対談は、そのようなゴタゴタが起こる直前に行われたものです。前編はオリンピックの諸々に象徴される日本の「悪しきマチズモ」について。(構成/阿部洋子)

※こちらの記事は、2021年7月14日に誠品生活日本橋にて行われたオンライン対談を元に構成しています。
※初出『すばる』2021年12月号

優しいお母さんをお求めですか?

武田 先日、ブレイディさんが出演されていたNHKの『クローズアップ現代+』を拝見しました。そのとき、ブレイディさんの紹介テロップになんて書いてあったか、ご存知ですか?

ブレイディ ありがとうございます。テロップは見ていないですね。

武田 思わずメモりました。「子育ての経験をもとに“他者の靴を履く”大切さをつづり反響」と。これ、どうです?

ブレイディ 皆さん、優しいお母さんをお求めなんじゃないですか(苦笑)。私、ちょっと今日グチろうと思っていたんですけど、いいですか?

武田 どうぞグチってください(笑)。

ブレイディ 2019年に『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)という本を書いたのですが、ありがたいことに、それがとても売れたんです。ですが今回『女たちのポリティクス』(幻冬舎)を刊行して、取材などで政治についての話をすると、ネットなどで「何でこの人はいきなり政治やフェミニズムを語り出したんだ」「子供の話だけ書いときゃいいのに」と言われることがあって。

武田『ぼくはイエロー~』は刊行時から話題となり、今年の六月には文庫化されました。ですが、ブレイディさんはほぼ同時期に、百年前の女性参政権運動活動家などの女性の闘争を描いた『女たちのテロル』(岩波書店)という評伝も書いていらっしゃいますよね。

ブレイディ そうなんです。さらにその前には『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店/2021年11月に増補版が文庫として刊行)という本を書いていますし、今年出した『他者の靴を履く』(文藝春秋)という本も政治的なことを語っている本です。もともと私“そっち”なんだよ、と。だから、そういうネット上の意見を見ると、優しいお母さんをお求めですかって思いますよ。

武田『ぼくはイエロー~』を読んで、すごくいい話だな、ぽかぽかする話だなと感じられる部分だけをかみ砕いた人が、勝手に築き上げたブレイディ像と違うという理由で違和感を表明するんでしょうか。以前、加藤登紀子さんに「加藤登紀子さんって政治的発言もする方なんですね……」とツイッター上で突っ込んでいる人がいて、「お前、もうちょっとキャリアを調べろよ」と感じたことを思い出しました。

ブレイディ 私もついついエゴサーチしちゃうんですけれど、その中に「ブレイディみかこが日本で売れるには、お母さんになるしかなかったのかな」と書いていた人がいたんです。

武田 えー、最低。

ブレイディ 最低なんですけど、本質を突いているところもあるのかなと思ったんですよ。やっぱり日本のメディアではそういう押し出し方をされるじゃないですか。政治の本をずっと書いていても、子供がいる女性、お母さんという、本来関係ない属性を強調される。別に男性が本を出しても、「育児が」とか、「子供がいます」とか書かれない。でも、女性はやっぱり相変わらず書かれますよね。

武田 それこそ、この『他者の靴を履く』は、誰かの紹介文に「子育ての経験をもとに」というような文言を書かない社会にしよう、というメッセージが込められた本だと思います。なので、ブレイディさんに対する「子育ての経験をもとに“他者の靴を履く”大切さ云々」という紹介は、この本の在り方を捉えられていないと感じます。

来週から日本ではオリンピックが始まりますが、日本のメディアで女性のアスリートが紹介される際、やたらと「ママさんアタッカー」だとか、「プライベートではお菓子作りが好き」というような言われ方をします。「ミドルブロッカーの選手は、実は今、子供が何歳で……」みたいな話がしょっちゅう出てきます。女性のアスリートというと、その背後にある物語性で語ろうとするんです。イギリスでは、スポーツ番組などでそういう風に選手が紹介されることはありますか?

ブレイディ いや、ないですね。イギリスは今そういうことに対して敏感なので、例えば女優さんが子供のことを聞かれたら「しゃべりません」と言ったりしますよ。「そういう質問はやめてください」とはっきり意思表示するので、そういう質問はできない状況ですね。

武田 質問できない、という段階に入っているわけですね。

ブレイディ そうです。まず他のメディアから批判されますよ。新聞なんかが「どうしてこんな時代遅れな質問が出るんだ」と書くと思いますね。

武田 批判されるべき質問を、日本のメディアはむしろ率先してやっています。最近、日本のテレビではニュースとワイドショーを足して五で割った、というか、とにかく薄めたような番組がいくつもあるんですが、そういう番組の多くではど真ん中にキャリアのある男性芸能人が居座っているんですね。そういう人が、自分たちに向かう批判の声に対し、「最近は何言っても叩かれる、肩身の狭い社会になってもうたな」みたいなことを言うんですよ。そういう声に触発されて、むしろ、異議申し立てするほうが、理解の及ばない、考え方の狭い人間だとの烙印を押されてしまう空気が強まっています。

ブレイディ 差別的な発言や、そういう差別を擁護するような発言がテレビみたいなメディアで出たときには、高級紙がはっきり批判しないと駄目だと思います。日本で言えば、朝日新聞や読売新聞のような大きい新聞が。イギリスだったら「テレビでこういう発言があったが、おかしいんじゃないか」というようなことを高級紙が書きますよ。

武田 新聞社が主語となって「これはおかしいぞ」と言うわけですね。

ブレイディ そうです。社説として出るかもしれないし、あるいは、女性のコラムニストたちがバンっと書くでしょう。「ふざけるな」と強い批判の言葉を持った記事を出しますね。

世界的に見られる極右の女性リーダーたち

武田 ブレイディさんの最新刊『女たちのポリティクス』は、どういう動機があって書かれた本ですか?

ブレイディ これは「小説幻冬」での連載をまとめたものなのですが、連載開始時期がちょうどアメリカでトランプさんが大統領になったときだったんです。当時、トランプと世界各国の女性指導者たちって、表立って仲が悪いということはなかったけれど、何だか火花が散っていたじゃないですか。ドイツのメルケル首相なんか、やっぱりトランプが嫌いなんだなというのが明らかに出ていたし、イギリスのメイ首相も、はっきりとは言わないけれど苦手感がすごく出ていた。そんなこともあって、当初はトランプ大統領vs世界の女性指導者たち、というようなことをゴシップ調に書いたら面白いんじゃないかと思っていたんです。

でも、よく考えたらトランプさんは、途中で大統領を辞めるかもしれないし、何が起きるか分からない。安定感がない人を連載の軸にしちゃうと続かないかもしれないから、女性指導者を紹介していくような方向にシフトしたんです。最初は人物紹介程度に止めようと思い、言葉遣いも面白おかしくしようという努力をしていたのですが、途中フェモナショナリズムの話をし始めたら、マジになっちゃったって感じで。女性へのサイバー暴行というような話にも触れる必要が出てきて、そうすると私自身身に覚えもあることなので、かなり真面目に語る形になりましたね。

武田 フェモナショナリズムとは何か、改めて聞いてもいいですか。

ブレイディ フェミニズム+ナショナリズムで「フェモナショナリズム」という言葉があるんです。欧州では今、極右と言われるような政党のリーダーになぜか女性が増えてきたという現象があります。極右というと、国旗を振っているおじさんみたいなイメージがありますが、そうではなく、リベラルで、ビジネスをうまくやっているような“見た目”の若い女性たちが、なぜか極右のリーダーになり、フェミニスト的なことを言って女性の人気を集めているんです。

そういう人たちの特徴として、排外主義を使うということがあります。要するに、イスラムの教えやイスラムの人たちの持っている文化というものは女性蔑視的、家父長制的なものだから、そういう人たちが増えるとせっかくこれまで欧州の女性が闘って勝ち取ってきた女性の権利や進歩が、また後退するんじゃないか、というようなことを言うんですね。

フェミニスト的なことを言いながらも、排外主義的なアジェンダを進めている。そういう巧妙な人たちの人気がすごく出ているんです。日本でも、とても活躍していらっしゃる女性政治家を見ると、そういう方がいますよね。非常に保守的で排外主義的なことを言っている女性が、自民党の中で勢力を伸ばしておられたり、もしかしたら首相になっちゃうんじゃないかというような人もいらっしゃるじゃないですか。日本の場合は、まだ反ムスリムみたいなものはないですが、でも、何かこれはイコールで結べるものがあるんじゃないかということに気がついたんです。それで『女たちのポリティクス』にも、稲田朋美さんのような自民党の女性議員のことについて書いています。

武田 ブレイディさんが国外から日本の女性政治家を見ている感じと、国内のニュースで稲田朋美さんを見たり、彼女のインタビューなどを読んだりしているときに感じているものは異なるのかなと思います。彼女については、自発的なメッセージというより、やはり、一枚剥がしたらおじさんたちがわらわら出てきそうな感覚がある。そういう意味で、勝手ながら、ページをめくっていて稲田さんが出てきたとき、がっかり感がありました。

ブレイディ 私、稲田さんは本当に巧妙で危険だと思っているんですよ。彼女、近年LGBTや多様性の問題について熱心に発言しているじゃないですか。ああいう方がやっぱり欧州にもいらっしゃるんです。例えば、イギリスの「フォー・ブリテン」党という極右政党のリーダーもアン・マリー・ウォーターズという女性で、LGBT当事者なんですね。極右的な人たちがLGBTの権利を訴えるというのは、欧州でも日本でも見られるんです。稲田さんは自身の取り組む女性政策の推進に向けて「おじさん政治をぶっ壊す」と言っているのですが、これも共通の敵をつくって攻撃することで人気を集めていくポピュリズムの王道です。おじさんの言いなりになってきたあなたが何なの? という感じではありますが、欧州のフェモナショナリズムに学んでいるとしたら結構なもんですよ。

武田 LGBTや選択的夫婦別姓について声を上げると、これまでつかめなかった部分の票を狙えると思っているのではないかと疑ってしまいます。なぜなら、彼女の所属する組織の考え方が変わったわけではないから。自民党内で、バリエーションのある議論が起きていますよという状態を作れる。「いや、実は党内でも今いろんな議論が起きているんですよ」という見せ方ができる。野党の主張を「あ、それ、こっちもやってますんで」と言えてしまう。稲田さんはそこに一役買っているんじゃないかなと。でもそれが、世界的な動きなのかもしれないとブレイディさんの本に学びました。

日本の政治はおじいさんだらけ

武田 それこそ、東京オリンピック組織委員会会長の橋本聖子さんは、会長だった森喜朗さんが女性蔑視発言で辞めた後に森さんから引き受けるように言われています。以前には、森さんが橋本さんを「娘のような存在だ」と言っていて、逆に橋本さんは、森さんを「お父さんみたいな存在だ」と言っています。そもそも、辞める人が次を決められる時点で、そのバトンタッチの方法はおかしいわけですが、この手の父娘愛みたいなものを、この期に及んでも優先する光景を見せられている。そして、ついに来週、オリンピックが始まろうとしているわけなんですけど。

ブレイディ すごい話ですよね。

武田マチズモを削り取れ』の中で書いたんですが、日本ではそもそも女性政治家がなかなか登用されない。安倍政権の後半、二〇一八年の組閣人事が発表された時に、記者が安倍さんに「女性進出って言っていますけど、登用されたのは一人だけじゃないですか」と問いかけたところ、安倍さんが「今回、女性の入閣は一人だけだが、二人分も三人分もある持ち前の存在感で、女性活躍の旗を高く掲げてもらいたい」と返したことがあります。

でも、その安倍さん含め、当選回数や派閥の都合で大臣になるおじさんやおじいさんたちは、「二、三倍働いてください」なんて言われることはなく、むしろ一人前、半人前、0.2人前ぐらいの人がたくさんいらっしゃる。新聞をめくっていると、そういう男性長老政治家による、女性に対する失言が繰り返し出てくるのですが、イギリスでは、長老男性政治家がまた言っちゃってるぜ、みたいなことって定期的に起こったりしますか?

ブレイディ そもそも、そんなに長老の政治家というのがいないんですよ。それこそ1990年代以降、メイ前首相を除いて、イギリスの首相は40代、50代。ですから今、政治の大切な役割を担っている方たちもみんなそのくらいの年代なんです。2019年イギリス総選挙のときに、労働党党首のジェレミー・コービンは70歳で、年齢的に首相は難しいと言われた部分もすごくあったんですよ。

武田 70歳でそう言われるんですね。我々の国は、森喜朗84歳、二階俊博82歳。麻生太郎も今年81。それでも彼らはまだやらせろと、あちこちに出てくるわけです。

ブレイディ びっくりですよ。女性参政権がない時代にお生まれになった世代ですからね。

武田 長老政治家は自分で辞める以外で退くことはないし、地元に厚い支持層があるので、自分が辞めるにしても、やれ息子だとか、親族だとかに票田を譲っていく。日本には入閣待機組という情けないカテゴリーがあります。ずっと選挙に受かり続けるも、要職に就けず控室でじっとしていると、トントンと肩を叩かれ「そろそろおまえどうだ?」と言われ、あまり重要じゃないポジションを与えられる。そうすれば、それ以降、「私は大臣経験者」と言いながら、選挙の売りにしていくというわけです。そういう入閣待機組って、もしかしたら日本だけの悪しき伝統なんじゃないかと思うのですが、イギリスでは主要閣僚に「あいつはもうキャリアが長いからやらせてやっている」みたいな政治家っています?

ブレイディ ずっといたからということが理由になることはないと思いますよ。イギリスは閣僚が頻繁に代わる。日本って変わらないですから、何事につけても

武田 いや、そうなんですよ。どうしたら日本は変わるんでしょうか。

ブレイディ『マチズモを削り取れ』を拝読して、何を思い出したかというと『存在しない女たち』(キャロライン・クリアド=ペレス著/神崎朗子訳/河出書房新社)という本です。イギリスで2019年に出版され、次の年には日本でも翻訳が出ていますが、最初この本を意識して書かれたのかなと思ったんです。でも、2018年から連載されていらっしゃるんですよね。

武田 そうなんです。『存在しない女たち』が出た時、これはまずいと思ったんですよ(笑)。同じようなテーマだし、話題にもなっていたから。

ブレイディ 同じ時期に同じテーマに着目した書き手が現れたというのがすごく面白いですよね。『存在しない女たち』は女性が書いていますが、やっぱり砂鉄さんの本は男性によって書かれたというのがミソだなと思います。これ難しいと思うんですよ。もちろん男性からの批判はあるだろうし、女性側も男性にフェミニズムをマンスプレイニングされたくないという感情がある。そこで、絶妙なのが女性の編集者のKさん。Kさんが「こういうことを見ちゃったんです」とか「こういう体験をしたのですが、どう思われますか」と問題提起をされて、それで砂鉄さんが取材をして、そこに隠されたマチズモ(=男性優位主義)を一つ一つ調べていく。

私も『女たちのポリティクス』の一番最後に書いたのですが、特に日本では、単に女性の政治家が増えるだけで女性が今より楽に生きられるようになるわけではありません。闘い方として、政治に働きかけるようなトップダウンの方向性だけでなく、デモやストライキのようなボトムアップ、つまり下からの突き上げも必要だと思います。そういう意味で、まさにこの本は下から、生活の中のマチズモを突き上げていますよね。トイレや、電車、学校というような、議会ではない私たちの日常の光景の中から、どれだけ女性が無視されているか、どれだけマチズモがあるかということを検証している本です。

「男、めっちゃ有利」が変わらない日本

武田 ありがとうございます。でも、これを読んだら、日本に帰ってくるのが嫌になるんじゃないですか。

ブレイディ 私が日本を離れて四半世紀ですが、変わっていないことにまずびっくりですよ。変わっていないどころか、後退しているんじゃないかと思いました。例えば第一章で書かれている、ベビーカーを取り巻く状況。鉄道会社がベビーカーを利用している客に対して「配慮せよ、十分注意せよ」と言うなんて……。英語表記では「Please handle strollerswith care and pay attention to others.」だそうですね。英語圏の人がこれを読んだら、どんな国に来たんだろうと首をひねると思いますよ。だって、何でベビーカーを押しているお母さんがほかの人にペイ・アテンションしなきゃいけないの? これ逆でしょ。歩いている人たちに対してベビーカーを押しているお母さんを見かけたらペイ・アテンションしましょうねと言うべきで、全く逆じゃないですか

武田 その通りです。

ブレイディ こういうのが堂々と英語表記で貼られているということに、非常に衝撃を受けました。それから、第八章に書かれている女子マネージャーの問題も知らなかったです。

武田 ある高校野球部の女子マネージャーが、練習した球場から、他の野球部の生徒たちと同様に三キロ走って学校まで戻るように言われ、到着直後に倒れ、後日亡くなってしまったという事件ですね。それ自体が大問題で、あってはならないことですが、それから一年後、その野球部が大会に出た際、亡くなった女子マネージャーについて、新聞がエモーショナルな記事に仕立て上げた。こうして美談として消費していく、ここに根本的な問題があると思います。

第一章に書いたのですが、日本では、混んでいる駅の構内を歩く男が女性ばかりに体をぶつけていく、いわゆる「ぶつかり男」の映像がユーチューブなどで拡散されることがあったんです。図体がでかいという優位性を保てる状況の中で、ああいう行為をする連中が残念ながらいる。イギリスに、ぶつかり男っています?

ブレイディ ぶつかり男なんかいないですよ。

武田 いないですか。まったく恥ずかしいことです。公共空間の中で、大きな自分の体が優位であると約束されているからこそ、そういう行動ができてしまう。公共空間では一人の動きを追いかけているわけではないので、ぶつかられた側の女性は「たまたまぶつかったのかな」と思ってしまう。ぶつかり男は、だからこそずっとぶつかれるわけです。行為として超ダサいし、悪質です。

ブレイディ イギリスでマチズモが問題になるとしたら、おそらく日本とは逆の形ですね。レディーファーストのような考え方がある国だからこそ、男性が女性を小さなお人形のように、守るべきものとして扱う。それに対して、女性たちから「そんなパターナル(父権的)なものは要らない」「私たちにも同等に危ないことをさせてくれ」というような声が上がる。日本の場合は、レディーファーストなきマチズモだから、二重につらいですよね。レディーファーストもない、守ってやる感もないマチズモ……悪いとこ取りみたいな気はしますよね

武田 そう比較してみると最悪ですね。ブレイディさんが二十五年前と変わっていないとおっしゃるように、この日本の社会には、マチズモを放任し続けてきた影響がありとあらゆるところにあります。今の政治の世界を見ていてもそうだし、あるいはテレビを見ていてもそう。権力を持った部活動の主将と仲のいい三年生が支配しているみたいな構図で運営されています。

ようやく最近、女性の芸人さんたちが、自身の言葉で語ることが増えてきましたが、それでも基本的に、そこにいる偉いおじさんに逆らってはいけないし、そのおじさんを持ち上げる振る舞いをするタレントが重宝されていく。彼らに対して反旗を翻したままでいると、空気の読めない人だということで、同じ場に立つ機会が与えられなくなったりする。さらに、そういう構図が、仕事場や学校、公共空間にそのままスライドしている。トップに立っている男性はこれまでと同じような振る舞いをしていれば、そのままトップでいられるわけです。そういう現状を受けて、本の冒頭で、今の日本社会では「男、めっちゃ有利なのだ」と書いたんです

ブレイディ 本当に、めっちゃ有利ですよ。『存在しない女たち』の冒頭には「闘い続ける女たちへ――挫けずに、ひどく手強い存在であれ」と書かれています。私も、女たちも手強くならないと駄目だと思いますね。

武田 自分は男性なので「女性は手強い存在じゃなきゃ駄目だよ」と言ったら、それは安倍晋三が閣僚に「女は二、三倍頑張らなきゃ駄目だよ」と言っているのと一緒になってしまいます。やっぱり、男性として、男性が酔いしれている、あるいは無自覚に浸っているマチズモをどう削るのかを考えたい。ねちねち言うとか、細かいことを一つずつやっていくしかないんじゃないかと思います。

ブレイディ 今、私らの世代でもそうだけれど、若い人に政治家になりたい、政治に関わりたいという人がいないですよね。世の中を変えたいなら、政治なんてしたってしょうがないじゃんと思っている人が多い印象です。そういう人たちは、スタートアップ企業などの方向に行ってしまっている。でも、本当は政治を変えないといろいろ変わらないんですけどね。

(後編へ続く)

関連書籍

ブレイディみかこ『女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち』

近年、世界中で多くの女性指導者が生まれている。アメリカ初の女性副大統領となったカマラ・ハリスに、コロナ禍で指導力を発揮するメルケル(ドイツ)、アーダーン(ニュージーランド)、蔡英文(台湾)ら各国首脳たち。政治という究極の「男社会」で、彼女たちはどのように闘い、上り詰めていったのか。その政治的手腕を激動の世界情勢と共に解き明かす。いっぽう、女性の政治進出を阻む「サイバー暴行」や、女性国会議員比率が世界166位と大幅に遅れる日本の問題にも言及。コロナ禍の社会で女性の生きにくさがより顕在化し、フェミニズムの機運高まる中「女たちのポリティクス」はどう在るべきか。その未来も照らす1冊。

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女たちのポリティクス

近年、世界中で多くの女性指導者が生まれている。アメリカ初の女性副大統領となったカマラ・ハリスに、コロナ禍で指導力を発揮するメルケル(ドイツ)、アーダーン(ニュージーランド)、蔡英文(台湾)ら各国首脳たち。そして東京都知事の小池百合子。政治という究極の「男社会」で、彼女たちはどのように闘い、上り詰めていったのか。その政治的手腕を、激動の世界情勢と共に解き明かした評論エッセイ。

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武田砂鉄

1982年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年からフリーに。『cakes』『文學界』『VERY』『暮しの手帖』などで連載を持つ。2015年、『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。他の著書に『芸能人寛容論』『コンプレックス文化論』『日本の気配』などがある。ウェブサイトはhttp://www.t-satetsu.com/

ブレイディみかこ ライター・コラムニスト

1965年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校卒。1996年から英国ブライトン在住。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で第16回新潮ドキュメント賞を受賞。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がベストセラーになる。そのほか『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』『労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』など著書多数。

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