
JJ(熟女)は夕方になると目が見えないし、冬は日が沈むのが早い。
JJ仲間が夕暮れ時に自転車で出かけた時、スロープだと思って下ったら、階段だったらしい。
「階段をガタガタ駆け下りて、ヤンチャな中年女性になってしまった」という言葉に「すごい、ジャッキー・チェンみたい!」と感心した。
運動神経ゼロの私が同じことをしたら、死んでいたかもしれない。JJの悲劇を起こさないためにも「注意一秒、怪我一生」を標語にしたい。
かつての私はジャッキー・チェンのプロジェクトAのテーマをそらで歌えたが、今では歌詞を忘れてフンガフンガしか歌えない。
一方で、絶対忘れられない記憶もある。それは大学時代のバイトの先輩だった、平井さん(仮名)のことだ。
当時、私が働いていた教育関係の会社は、ホモソの巣窟だった。
メンバーの8割が有名大学の男子学生で、体育会系ノリのオラついたタイプが多かった。
「俺らはカースト上位の一軍男子だ!」とイキり散らかす彼らに、ブスイジリやセクハラをされて、ものすごく傷ついた。
それでも辞めなかったのは、稼げるバイトだったからだ。
親と絶縁していた私は、生活費と学費を稼がなくてはならなかった。だから飲み会で「俺こんなブスと飲むのイヤだ」「お前のウリは巨乳だけだな」とか言われても、我慢するしかなかった。
私が酔拳の達人だったら、まとめて再起不能にしてやったのに。
2つ年上の平井さんは、他の男子みたいに凶暴じゃなかった。彼は背が低くてぽっちゃりで、運動が苦手な文化系のオタクだった。
彼と漫画の話とかしていると「キモいオタク」「こいつの童貞切ってやれよ」と凶暴男子がイジってくるので、あまり仲良くできなかった。
平井さんはイジられキャラとして扱われていたが、あれは完全に弱いものいじめだった。
飲み会で無理やり服を脱がされたり、ポークビッツとからかわれたり、プロレス技をかけられたり……その場にいた社員たちもそれを笑って見ていた。
私もそれを傍観者として黙って見ていた。
本当はやめさせたかったが、男子軍団の中に割って入る勇気はなかった。「小学生の時も男子はプロレスごっこしてたし、男同士ってこういうものかも」と思ったりしたが、結局、自分もいじめられるのが怖かったのだ。
だって私はジャッキー・チェンみたいに強くないから。
そんないつもの飲み会で、柔道部の男子が平井さんに関節技をかけた。「痛い痛い、やめて!」と彼が悲鳴を上げても、男子軍団は面白そうに笑っていた。
その翌日、平井さんが病院に行ったら、腕の骨が折れていたそうだ。
そのあと彼も私もバイトを辞めたので、それから一度も会っていない。でも20年以上たっても彼のことを思い出すし、たまに夢に出てくる。
それは何もできなかった後悔、見て見ぬフリをした罪悪感があるからだ。傍観者だった私は消極的に加害に加担していたわけで、その罪の意識を一生抱えていこうと思う。
一方、彼をいじめた連中や骨折させた本人は、多分忘れているだろう。
彼らのほとんどは有名企業に就職したが、横領とかで捕まっていますように。そして、平井さんがどうか幸せに暮らしていますように。
プロジェクトAの歌詞は忘れても平井さんのことを忘れられないのは、もし私が男に生まれたら、私は彼だったかもしれないからだ。
「もし俺が女に生まれたら、男にチヤホヤされて金持ちと結婚する」など、モテる美女設定で夢想する男性が多いが、私はそこまで脳がおめでたくない。
私が男に生まれたら、落ちこぼれの三軍男子的ポジションだっただろう。男社会でいじめの標的にされて、無理やり服を脱がされて、骨を折られていたかもしれない。
現実の私は45歳のJJで、大学生の息子がいてもおかしくない年齢だ。もし自分が当時の平井さんの母親だったら……と想像すると、涙が出てくる。
そして、有害な男らしさやホモソーシャルの呪いを滅ぼしたいと思う。
「自分は強い男だ」と証明するために、弱いものをいじめる。「みんなであいつをいじめようぜ」と団結して、男同士の絆を深める。そこから仲間外れにされたくなくて、誰もいじめを止められない。
「人間よ、もう止せ、こんな事は」と高村光太郎も言っている、かどうかは知らんけど、他人を傷つけるのも自分を苦しめるのも、もうやめようじゃないか。
「俺は苦しんでなどいない、弱い男扱いするな」と彼らは言うかもしれないが、弱くてもいいじゃないか。弱いままで生きられる、苦しい時は苦しいと言える社会の方が、生きやすいじゃないか。
『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』に次のような文章がある。
『支配的でタフな男らしさを体現しようとする傾向は、うつ、薬物乱用、いじめ加害、非行、危険な性行為、性的満足度の低さ、パートナーへの虐待などと関連付けられている』
『逆に、男らしさのルールに同調しない男の子たちや、その基準を充分に満たせない、あるいは満たそうとしない男の子たちも、いじめのターゲットになったり、ばかにされたり、排斥されたりというリスクを負う』
子育て中の友人たちは、子どもにジェンダーの呪いをかけないよう心を砕いている。
にもかかわらず、夫が息子に「男の子なんだから泣くな」「強くならなきゃダメだ」とか言うらしい。
そういう言い方しないでと注意しても「男の世界では強くないといじめられるんだ」「この子のために言ってるんだ」と反論されるという。
夫たちの気持ちもわかるのだ。彼らも平井さんのような男子を見てきたのだろうし、自分は平井さんにならないために、必死で強くなろうとしたのだろう。
性別関係なく、強くなろうとするのは悪いことじゃない。打たれ強さや忍耐強さは長所でもあるし、生きるうえで武器にもなる。
でも「男らしさ」を押しつけるのは、呪いの再生産につながってしまう。
また「男はタフで強いもの」の裏には「女やゲイみたいに弱くない」という、ミソジニー(女性蔑視)とホモフォビア(同性愛嫌悪)が潜んでいる。
『これからの男の子たちへ 男らしさから自由になるためのレッスン』の対談の中で、小学校教師の星野俊樹さんが次のように語っている。
『(男の子が転んだ時に)「そうだよね、涙が出るよね、泣いていいよ、怖かったよねえ」と共感し、その不快な感情を言語化してあげることで、はじめて子どもは「これは恐怖なんだ」と感情を認識し、受け入れることができる』
『子どもが自分の負の感情を表出しても、他者が受け止めてくれると感じること。その積み重ねこそが、子どもの感情の健全な発達につながるのです』
『それなのに、言語化する前に「痛くない」とか「泣かないお前は偉い」と言われてしまうと、子どもは自分の負の感情は受け入れてもらえないことを体験的に学び、感情を抑え込んでしまいます』
その積み重ねによって『自分や他者の感情に触れることを恐れて、回避するような心理状態』になったり、『自分の感情を認識できない。同時に、他人の感情に共感する力も育っていない』状態になってしまうという。
わかる(わかる)と膝パーカッションが止まらない。
自分の感情を言葉にするのが苦手な男性は多い。「あなたはどう思う?」「なぜそう思うの?」と聞いても「……」とゴルゴのように無言になられて、「語彙が……死んだ……」とこちらの法令線が深くなる。
自分で自分の感情がわからないと、他人の感情もわからない。自分の感情を言葉にできないと、他人と理解・共感しあい、深いつながりを築くことも難しい。
星野さんは「過去の自分は男らしさの支配下にあって、全然幸せじゃなかった」「その呪いを解除できたのは、ジェンダーに関する学びを得たこと、そういうことを話せる人が増えたことが大きかった」と話している。
男社会が築いてきた男らしさの呪いに、男性自身が気づいて、手放すこと。男らしさのプレッシャーやストレスから解放されて、幸せになること。それは全人類の幸福と安全につながると思う。
いじめの研究によると「ストレスが多いほど、いじめに加わりやすい」そうだ。ストレスを弱いものにぶつけて発散しようとするのは、パワハラや性暴力や虐待にも言えるだろう。
リアルナンパアカデミーの集団準強姦事件の記事によると、塾生たちは性交回数をLINEグループで共有して、競い合っていたそうだ。
彼らにとっては女性とセックスすることよりも、仲間から称賛を集めること、男同士の勝負に勝つことが目的になっていたという。
塾生は「(塾長の指示に従わなければ)村八分にされると思った」と話して、塾長はミソジニー丸出しの発言を繰り返していた。
インセル問題も「女をモノにできない男は、男社会で認められない」という劣等感から女を逆恨みする、ホモソーシャルの産物だ。
(インセル/恋人や性愛のパートナーがいない原因を女性に押し付け、女性嫌悪を募らせている異性愛の男性)
こんな地獄はもうたくさんじゃないか。みんなで一斉に「バルス!」と唱えて、ジェンダーの呪いを滅ぼしていこう。
そうすれば、うちの父親みたいな死に方をする男性も減るだろう。
亡き父は「浪速の石原慎太郎」みたいな、有害な男らしさをじっくりことこと煮詰めたタイプだった。
お坊ちゃん育ちで体育会系だった父は、ワル自慢や女遊びを武勇伝のように語っていた。
かつ戸塚ヨットスクール方式で「おまえはナヨナヨしてオカマか!」と息子を殴りつけ、「俺は我が子を谷底に突き落す獅子だ」とほざいていたが、最期は飛び降り自殺エンドとなった。
父は事業に失敗した自分を認められず、人生に絶望したのだろう。自分の弱さを認められず、誰にも助けを求められなかったのだろう。
自分の失敗や弱さを認める強さが、彼には欠けていたのだ。
父や慎太郎やトランプみたいなおじいさんは、今さら変わらないと思う。年季の入った洗脳を解くのは無理なので、最初から刷り込まないことが大切だ。
スウェーデン在住の友人いわく、スウェーデンの子ども服売り場は「男の子向け」「女の子向け」に分かれていないそうだ。また、保育園からジェンダー教育や人権教育を徹底するという。
世間やメディアから刷り込まれる前に、真っ白なうちに教育を受けられる。そんな環境で育った子どもたちは、男らしさや女らしさから自由になって、自分らしく生きられるだろう。
私もスウェーデンに住んで、フェルゼンの墓の聖地巡りとかしたい。でも寒さに弱いJJなので、北欧の冬を生き延びる自信がない。なので最近は「ニュージーランド 移住」でググったりしている。
老後は笛を吹き、羊と遊んで暮らしたい。でも必死で子育てしている友人たちを思うと、子どもたちが幸せに生きられるように、ヘルジャパンを少しでもマシなジャパンにしたい。
そのために、自分にもできることがあるかもしれない。平井さんには一生謝れないけど、せめてもの罪滅ぼしをしたい。
そんなことを思いつつ、かすみ目でこつこつと原稿を書く我である。
コメント
Yoshimura JAM 抜粋「自分の感情を言葉にするのが苦手な男性は多い。」 わかりみが深すぎ。 弟と色々協力できるのは、比較的言葉を使おうとするから、だと思う。仕事柄もあると思うけど 男らしさの呪いが起こした悲劇と、JJの罪滅ぼし|アルテイシアの熟… https://t.co/VkvXRIkJvI 3日前 ・reply ・retweet ・favorite
キヨミ屋(セブ着物クラブ休業中) 男らしさの呪いが起こした悲劇と、JJの罪滅ぼし|アルテイシアの熟女入門|アルテイシア - 幻冬舎plus https://t.co/ayOoLtOpcK 4日前 ・reply ・retweet ・favorite
アルテイシアの熟女入門

人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!
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