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アルテイシアの熟女入門

2024.02.01 公開 ポスト

自分の身体を愛していますか?と聞かれたらアルテイシア

昨今、ボディポジティブ(自分の身体を愛そう)というメッセージをよく耳にする。

「自分の身体を愛していますか?」と聞かれたら、読者の皆様はどう答えますか?

私は「うーん、べつに愛してはいないし、不満もいろいろあるけど、特に嫌ってもいない」と答える。

続けて「そんなことより腰が痛い」「坐骨神経痛を治したい」と、中高年が大好きな健康の話をするだろう。

40代は健康>>>>美容に優先順位が変わるお年頃。

 

振り返ると、思春期の私は自分の身体が大嫌いだった。鏡に映る自身に「ブス! デブ!」と呪詛を浴びせていた。

当時は鏡を見るのが苦痛だったけど、今はそもそもあんまり鏡を見ない。じっくり鏡を見るのは鼻毛をカットする時ぐらいか。

陰毛をセルフワックス脱毛している友人は「Oラインは風呂の床に置いた鏡の上にしゃがんで処理します」と話していた。

「全裸で土俵入りみたいなポーズで肛門を直視するんですよ」とのこと。

面白そうなので、私も試しにやってみようか。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」とニーチェ顔になるかもしれない。

陰毛はさておき、容姿コンプレックスに囚われていた頃はつらかった。今は自分の容姿にそこまで関心がないので楽である。

今の私には容姿以外にもっと興味関心のあることがいっぱいある。

ありのままの自分の身体を愛せたらいいけど、「容姿」に関して言うと、ちょっとハードルが高い気がする。

自分の容姿を愛していますか? と聞かれて「YES! ファビュラス」と即答できるのは、叶姉妹とバンコランぐらいじゃないか。

私は鏡の前で「美しさは罪……」と薔薇をくわえるよりも、友人たちとクックロビン音頭を踊りたい。

自分の容姿を愛そうと思って愛せるものでもないし、「容姿を愛さなきゃダメ!!」と思うと逆にプレッシャーになるんじゃないか。

自分の容姿を愛せなくても、他の部分を愛せたらいいんじゃないの? と私は思う。

中高生にジェンダーの授業をする時、ルッキズム(容姿差別)について話すと「整形はダメだと思いますか?」と質問されることがある。

それに対して「私も昔は容姿コンプレックスの塊だったから、整形したい気持ちはよくわかる。私の場合は、見た目に関係なく自分を好きになってくれる人が増えたり、見た目以外で自信を持てるものが増えることで、コンプレックスが軽くなったよ」と答えている。

また「整形YouTuberとかは『整形して自分に自信を持てた』と言うけど、整形しないと自信を持てない社会に問題があると思う」という話もする。

人の見た目にあれこれ言わない、人を見た目で評価・品評しない社会であれば、私は容姿にそこまで悩まなかっただろう。

私は女子校から共学の大学に進んだ時、ルッキズムに殴られた。男子からブスだのデブだの言われて、自尊心を粉々に砕かれた。

今の私は「人の見た目にあれこれを言う方に問題がある」とわかるけど、当時の私は「自分がブスでデブだからダメなんだ」と自分を責めた。

「殴られないためには、痩せてキレイにならなきゃ、そしたら自分に自信も持てるはず」とダイエットにはまって、過食嘔吐するようになった。

私が摂食障害をこじらせずにすんだのは、ストイックになれない、努力や我慢が苦手な性格だからだろう。

ゆえに今もぽっちゃり中年として「3キロ痩せたいな~」とか言いながら、美味しいもの大好きな食いしん坊万歳である。

摂食障害になるのは真面目な努力家が多く、また女性は男性の10倍もなりやすいそうだ。それだけ「痩せている=美」「女の価値は美しさ」という呪いが強力だからだろう。

離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』に詳しく書いたが、うちの母はたいそう美人な毒親で、容姿に対するこだわりが強く、いつもストイックにダイエットしていた。

母は59歳の時に拒食症で入院して、退院した数か月後に自宅で遺体となって発見された。

その数年後に父も遺体で発見されたので、親が遺体で発見されがちな人生である。自分はなるべく発見されない形で死にたい。

ともあれ、入院した当時の母は体重30キロ台まで痩せており、数年ぶりに対面した私は「バタリアンのオバンバみたいになっとる……!!」と息を飲んだ。

高齢ゾンビみたいな母は、主治医に「男の人を紹介して、お医者さんと結婚したいの」とせがんでいた。

母の遺体が発見された部屋は壁一面に20代のギャルが着るような服がかかっていて、ホラー映画のようだった。

若く美しい女が男に選ばれてハッピーエンド、という呪いにかかったまま死んでしまった彼女。

もし彼女がスウェーデンに生まれていれば、死なずにすんだのだろうか?

モブおじさんとの対話(2)でも書いたが、スウェーデンでは「人の見た目について何か思ったとしても、口に出すのはマナー違反」が子どもでも知っている常識だそうだ。

スウェーデンの高校で教えている友人は「日本からの留学生が『〇〇ちゃん美人! スタイルいい!』とか言うのを聞いて、うちの生徒たちはドン引きしてるよ」と話していた。

人を見た目で評価しない。人の見た目に言及しない。たとえ誉め言葉でも口には出さない。

それが常識になっているのは、社会全体として「ルッキズムをなくそう」という姿勢があるからだろう。

「職場で『誰々さん美人だね』とか言う人も見かけないし、『おっぱい大きいね』とか言おうものなら新聞沙汰になるんじゃないかな」と彼女は話していた。

かたやヘルジャパンでは、女性たちから「おまえみたいな貧乳に勃起する男はおらんやろ、と上司に言われた」「女子社員の顔面偏差値ランキングでいうとお前は最下位グループだから、と上司に言われた」といった体験談が寄せられる。

そういうおじさんたちを根絶やしにするアイデアを募集中。

私は中高生に授業する時に「人の見た目について何か思うことがダメなんじゃなく、口に出すことがダメなんだよ」「誉め言葉でも相手がどう感じるかはわからないからね」と説明している。

すると生徒さんから「友達に『かわいくていいな~』とよく言ってたら『人から見た目のことばかり言われて、中身を見てもらえないのが嫌なんだよね……』と本音を話してくれた」といった感想をもらう。

親から容姿をからかわれたり、同級生から容姿イジリをされたりして、傷ついている子もいっぱいいる。

先生たちからは「絶食ダイエットをして倒れる子や、摂食障害で入院してしまった子もいる」と聞く。

友人のシオリーヌちゃん(助産師で看護師の性教育YouTuber)が「精神科の児童思春期病棟で働いていた時、摂食障害で入院している女の子は本当に多かった」と話していた。

命が危ない状況なのに点滴を拒否する子や、点滴を引き抜いてしまう子もいて、ベッドに拘束されるケースもあったという。

そんな女の子の1人に「この点滴、何カロリーですか?」と聞かれた時「この子たちはルッキズムに殺される」と思ったという。

彼女自身も摂食障害に苦しんだ過去を『食べるの怖いな』(作:シオリーヌ、漫画:菊池真理子)で描いている。

本書には摂食障害の大切な知識が詰まっているので、全人類に読んでほしい。

シオリーヌちゃんは『「痩せたね」「かわいくなったね」という誉め言葉もプレッシャーになった』『痩せたことで周りにちやほやされた体験から、食べないこと(拒食)をストイックに追及するようになってしまった』と振り返る。

ちなみに中高年になると痩せようが太ろうがちやほやされないし、あんまり痩せると命の心配をされてしまう。そういう意味でプレッシャーから解放されるのも、加齢の恩寵かもしれない。

巻末の対談では、精神科医の宮田雄吾さんが『小中学生の体重減少や横ばいは危険なサイン(略)体重が増えなきゃいけない時期に増えないなら注意が必要』『調査によると、中高生の時に食事をしないダイエットをした女性の方が10年後には太っている』など解説している。

印象的だったのは「(思春期に入ると)“ちょっと残念な自分”を受け入れる作業が必要になります。絶望するんじゃなくて健全に諦めるというのかな」「リアルな自分を受け入れられないと、理想の姿を求めて体型や体重に固執し、摂食障害を発症する場合があります」という言葉だ。

わかる(わかる)

ティーンに人気のアイドルやモデルはスーパースリムな体型ばかりで、そういうステレオタイプな理想像に憧れると「それに比べて自分はなんて醜いんだろう」と思わされてしまう。

だからこそ、多様な美のロールモデルが必要なのだ。

「最近は多様性がどうのって窮屈な世の中になった」とぼやく御仁は、猫のことを考えてみよう。

太った猫も痩せた猫も、毛の長い猫も短い猫も、黒猫も白猫も三毛猫もペルシャもスフィンクスも、みんな違ってみんな尊い、もともと特別なオンリーワン。

これに異論を唱える人はいないだろう(断言)。「痩せた白猫以外はダメ」みたいな世の中こそ窮屈じゃないか。

ヘルジャパンには「痩せなきゃダメ」「脱毛しなきゃダメ」「若く見えなきゃダメ」といった呪いの言葉やコンプレックス広告が溢れている。

美容系YouTuberは「美は努力で作れる」「ブスは努力しないからダメ」と幾重にもプレッシャーをかけてくる。

同世代の女友達はYouTubeにダイエット広告が入るのがウザくて、性別を「男性」に変えてみたら、入れ歯安定剤の広告が入るようになったという。

たしかに入れ歯は安定した方が食事しやすいだろう。

そういう自分の快適さのためにダイエットや脱毛をするのは「セルフケア」だと思うが、他人のためにさせられるのは脅迫である。

介護脱毛も新手の脅迫商法ではあるまいか。

「介護士に迷惑かけないために陰毛を処理しなきゃ」とか言ってるジジイは見たことないし、女はババアになってまで、プライベートゾーンについてまで、“女性ならではの気づかいや配慮”を求められるのか。

冗談じゃねえわ。鬼太郎みたいに陰毛を針にして飛ばしてやろうか。

私の陰毛は私のもの、陰毛の自己決定権は我にあり!

人間はその指先1本、下の毛1本にいたるまで、すべて神の下に平等であり自由であるべきなのだ……! とオスカル様も言っている(言ってない)

ちなみに介護士の友人いわく「加齢とともに陰毛は減るから、おばあさんは大体ツルツルだよ」とのこと。

我々中高年の陰毛が狙われているのは、金になるからだ。脱毛ビジネスにのせられてケツの毛まで抜かれないようにしよう(うまいこと言った)

陰毛はさておき、48歳の私は自分の身体を愛しているとまでは言えないが、「約半世紀ももってくれてありがとな」という気分である。

振り返ると、無茶なダイエットや過食嘔吐や危険なセックスや泥酔嘔吐など、若い頃は身体をさんざん痛めつけてきた。にもかかわらず、健気にがんばってくれたマイボディに感謝である。

人生百年時代、ヘタしたら1世紀連れ添うバディになるかもしれないのだから、身体を大切にしたい。そして腕白でもいい、健康に長生きしたい。

この気持ちがセルフラブ、セルフケアなのかしら……と、わかりはじめたマイレボリューション(初老革命)

人生後半戦も、読者の皆様とともに年をとっていけると嬉しい。

*   *   *

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アルテイシアの熟女入門

大人気コラムニスト・アルテイシアがジェンダー、政治、毒親、日々のモヤモヤ…などをぶっちゃけトーク!笑って学べて元気になれる連載です。

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アルテイシア

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、恋愛、家族問題などについて執筆、講演や授業も多数行う。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。
著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他多数。

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