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礼はいらないよ

2020.10.16 更新 ツイート

ベルリンのクラブで予感した、21世紀の僕らは機械の胎内から生まれた赤ん坊 ダースレイダー

肉体で思考しながらも、肉体は常に外部につながれている

Photo by Pablo Hermoso on Unsplash

2019年11月、僕はベルリンにいた。毎年開催されるナイトアンバサダーサミットに参加するためだ。

 

ヨーロッパ中心に様々な国の都市からナイトカルチャーやナイトエコノミーに関わる人々が集まって協議する。開催都市はアムステルダム、ベルリン、ブリュッセル、そしてまたベルリンに戻ってきた。

2020年は本来チューリッヒ開催だったが、コロナ禍で開催が見送られている。2019年の会場はYAAM(ヤングアフリカアートマーケット)を中心としたエリア。ベルリン中央駅からUバーンで数駅のオストバンホフ駅を降りてまずはホテルへ。学生向けの安ホテル。6階建、エレベーターなしの古い建物で 部屋もなかなかの趣きだったが、古いラジオが暖炉の上の壁に埋め込まれてあり、そのツマミにかつての東ドイツ的ムードを感じる。

ホテルから数分歩いたYAAMはシュブレー川のほとりにある不思議な施設で敷地内にクラブやバー、砂浜やら遊具が並ぶ場所がある。外はかなり寒かったが、それでも音楽を鳴らしながらビールを飲む人たちもいる。ここでは各国のナイトアンバサダーが集まってのワークショップが開催された。

テーマは「肉体的思考」。

クラブとは様々な文化背景、言語体系の人々が集まる場所だ。もっとも日本ではこの前提の共有がされてないのだが……とにかく、そういう場でのコミュニケーションの方法論として「身体」を使ってみようというテーマ。司会はドイツ人のトーマスとスイス人のアレックス。

まずは全員で八の字になって部屋を何周もしながらすれ違いざまに相手と視線を合わす。それぞれの身体性を同期させる試みだという。その後は司会者が質問をし、その答えを場所で表す。

「部屋を世界地図だとして自分の出身国の場所に立とう」

この日、アジアからは僕だけだったので部屋の端っこに一人。参加者のバランスが可視化される。

「自分の国のジェンダーバランスを男性優位、平等、女性優位の三段階に分けて、部屋の指定された場所に立とう」

これは全員が男性優位のところに集まる。女性参加者がそれを見て「なんてひどい世界だ!」と叫び、皆もうなづく。ちなみに僕は121位の国から来ている。

「ナイトカルチャーに行政の援助は必要か? 部屋の中央を境に必要、不要で別れて」

これは半々くらいだったが、文化への支援が弱い日本では議論のスタートの手前にいる印象。

このセクションに続いては二人組になって互いの国についてのインタビュー。僕はLA出身ベルリン在住のダイアンと組んだが、多様性のるつぼとしてのLA的在り方には大いに感化された。

このワークショップのメンバーで夜、場所を変えてサミットに参加する。 会場はTRESORだ。東西ドイツ統一直後から営業している老舗クラブには世界中からファンが遊びに来る。

ベルリンはそもそもナイトクラブに代表されるナイトカルチャーを観光の目玉にしていて、市から予算も下りている。ベルリンクラブコミッションという組織がクラブシーンと行政のハブになり、様々な施策を立案している。サミットの主催もベルリンクラブコミッションだ。今回はTRESORのオーナー、デミトリ・ヘーゲマンがファシリテーターを務めながらクラブの歴史のレクチャーもしてくれた。

ここは東ドイツ時代の火力発電所を転用していて、入り組んだ店内は歩くだけでも魅力的だ。資料室の棚などはそのまま。地下層にあるバーは壁をアーティストに開放していて絵などが描かれている。

「完成させないこと。それが店のテーマです」とデミトリは語る。

「店の中に常に何かが生まれる余地を残す。常に新しさと古さが混ざり合う場所として存在するのです」。この話のあと、彼は僕らをクラブと隣接するクラフトワーク・ベルリンに案内してくれた。

「LARF」(現在進行形のエレクトロニカアーカイブ)として設立されたテクノミュージアムだ。扉を開けた瞬間から圧巻だった。火力発電所跡という「金属的」な空気が充満した屋内、階段を登ると高い天井の下に広大なスペースが広がっている。暗闇の中、壁や天井のディスプレイに次々とイメージが映し出され、ノイズ音が不規則に鳴り響く。グオングオングオン……何かが蠢いているが巨大すぎて正体がわからない、そんな想像をしてしまう。

会場にいる人々は立っていたり、座り込んでいたり、あるいは寝転がっていたり……僕も寝てみた。硬い床に大の字になって天井を見上げる。そこには天井というよりも闇が広がっていて、急に閃光が走ったり、文字が浮かんでくる。

わー……なんだ、この感覚は。昼間のワークショップでは機械化しないための身体性の意識を心がけていた。そこに息づく人を見ないで機械的に応答していくことへの自覚。でも、その時意識した「個」や「身体」は易々とこの巨大な機械の中に飲み込まれてしまったようだ。目を閉じると断続的なノイズ音の中で、ホテルの壁に埋め込まれたラジオのツマミが目の前で急にぐるぐると回り始めた。一体何を受信しているのか?

「どう思う?」女性の声がしてハッと意識が戻る。気づくと隣にダイアンが座っていた。

「なんだか……機械の胎内にいる感じだね」

そう答えるとダイアンは、「そうね。機械の胎内から出ていく私たちはどんな赤ん坊なんだろう?」。

東ドイツで作られた巨大な機械の胎内。21世紀の僕らはすでにスマホという外部記憶装置に記憶の大部分を委ね、様々なハードのバッテリーが切れることで著しく機能が低下する存在だ。もう既に未完成な何かを作り続ける機械の中から産まれる赤ん坊なのではないか?

クラフトワークの扉を開けると11月のベルリンの寒い風が頬を撫でた。

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コメント

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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