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植物はなぜ毒があるのか

2020.10.21 更新 ツイート

植物毒による食中毒、患者数1位は意外にもジャガイモだった 田中修/丹治邦和

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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実は毎年起こっている食中毒

2019年7月9日、兵庫県宝塚市の市立小学校で食中毒が発生しました。5年生30人が家庭科の調理実習でつくった料理を食べ、そのうち、男女13人が腹痛を訴え、吐き気を催し、病院へ運ばれたのです。

13人のうち、5人はその日に手当てを受けて帰宅しましたが、8人が入院しました。幸いにも、そのあと、全員が快方に向かい、2日後の11日には、13人がそろって無事登校することができ、この食中毒騒ぎは事なきを得ました。

宝塚市の教育委員会は、「その日、児童らは、校内の畑で収穫したジャガイモとインゲンマメを使って2時間目の授業で調理し、粉吹き芋などの料理を食べた」と発表しています。調理の実習には、家庭科の教諭が立ち会って指導したとのことでした。

(写真:iStock.com/mchudo)

兵庫県宝塚健康福祉事務所(保健所)が、この騒ぎの原因をくわしく調べました。その結果、「この食中毒は、校内の畑で栽培されたジャガイモに含まれるソラニンという物質によるものである」と断定されました。この物質の名前は、ジャガイモが属するナス属を示す「ソラナム」にちなんでいます。

ジャガイモに含まれる有毒な物質が、食中毒騒ぎをおこしたのです。厚生労働省によると、有毒な植物による食中毒のうち、平成21年~平成30年の10年間にジャガイモを食べて食中毒になった人が346人おり、ジャガイモは、もっとも食中毒の頻度が高い植物となっています。

これらの原因は、宝塚市の市立小学校でおこった場合と同じように、ジャガイモに含まれるソラニンです。ジャガイモには、ソラニンとよく似た構造をしたチャコニンという有毒な物質も含まれており、これもジャガイモがおこす食中毒騒ぎに関与していると考えられています。

ジャガイモは、八百屋さんやスーパーマーケットなどで売られており、多くの人々に食べられています。しかし、市販されているジャガイモで食中毒騒ぎがおこったことは、あまり耳にしません。といっても、市販されているジャガイモが、食中毒騒ぎをおこす可能性がないわけではありません

私たちは、「ジャガイモの芽には、有毒な物質が含まれている」ということをよく知っています。ソラニンやチャコニンという名前が知られているかいないかを別にして、「芽を出しはじめたジャガイモは、そのまま食べてはいけない」ということはよく知られています。

ですから、家庭で調理するときには、もしジャガイモに芽が出かかっていたら、その芽は必ず深く取り除かれます。そのため、市販されているジャガイモが食中毒騒ぎをおこすことは、滅多にありません。

なぜ学校菜園で起こるのか?

ジャガイモの食中毒は、主に学校菜園で栽培され、収穫されたジャガイモが引きおこしています。2016年10月、国立医薬品食品衛生研究所の調査で、ジャガイモの食中毒事件の9割は学校菜園でおこっていることが発表されました。

(写真:iStock.com/paylessimages)

では、「なぜ、学校菜園で栽培され収穫されたジャガイモは、有毒な物質をつくるのか」という大きな疑問が浮かびます。

家庭でジャガイモを調理するときには、芽が出ていれば完全に“芽かき”をします。この場合の芽かきとは、芽が出てしまったジャガイモを調理するときに芽の部分を深く取り除くことです。

ところが、有毒な成分は、芽を出しはじめたジャガイモの芽の部分だけに含まれているとは、限らないのです。表皮が緑色になった部分や、未熟な小さなジャガイモにも有毒な成分は含まれているのです。

学校菜園などで収穫されるジャガイモには、表皮が緑色になった部分や、未熟な小さなものがめずらしくありません。

学校菜園では、栽培を指導する先生に、「せっかく子どもたちが栽培したものだから、捨てるのはもったいない」との思いがあるのでしょう。そのため、表皮が少々緑色であっても、あるいは、未熟で小さいものであっても、これらのジャガイモが収穫されて調理されることがあるのかもしれません。

関連書籍

田中修/丹治邦和『植物はなぜ毒があるのか 草・木・花のしたたかな生存戦略』

トリカブトのようなよく知られたものだけではなく、じつは多くの植物が毒をもつ。例えばジャガイモは芽のみならず、未熟な状態や緑化した状態で毒をもち、毎年食中毒被害がおきる。それらは、芽や、成長に必要な部分を食べられないための植物のしたたかな生存戦略だった。過去10年の食中毒被害データを中心に、生き残るために植物がつくり出す様々な毒と特徴を紹介。また、古より植物の毒を薬に転じてきた人間の知恵と最新の医学情報まで、有毒植物と人間の関わりを楽しく解説。

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植物はなぜ毒があるのか

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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田中修

1947年、京都府生まれ。農学博士。京都大学農学部博士課程修了。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、甲南大学特別客員教授・名誉教授。専門は植物生理学。『植物はすごい』『植物のひみつ』『植物はすごい 七不思議篇』(以上中公新書)、『植物のあっぱれな生き方』『ありがたい植物』(以上幻冬舎新書)、『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(中央公論新社)、『植物はおいしい』(ちくま新書)など著書多数。

丹治邦和

1969年、京都府生まれ。神戸大学農学部卒業。東京大学農学系研究科修士課程修了。弘前大学医学部脳神経疾患研究施設神経病理部門助手、米国テキサス大学内科学教室博士研究員、米国MDアンダーソンがんセンター博士研究員を経て、現在は弘前大学大学院医学系研究科脳神経病理学講座助教。

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