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植物はなぜ毒があるのか

2020.10.28 更新 ツイート

ニラとそっくり!死亡事故も起きているスイセンの猛毒に注意せよ 田中修/丹治邦和

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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全国で「誤食事故」が多発

スイセンは、古くに、中国から日本に伝えられ、栽培されてきました。春早くに花を咲かせるので、「雪の中でも、花が咲く」という意味で「雪中花」という別名をもち、春の訪れをいち早く告げる花とされます。

(写真:iStock.com/rgbspace)

この植物は、花の美しさゆえに春早くに話題になりますが、毎年、4月~5月に、もう一度、話題になることがあります。それは、この植物の葉っぱが、食用に栽培されている、ある植物の葉っぱと似ているため、誤って採取され、誤食されて食中毒症状になったというものです。

2019年の春には、三重県、山形県、福井県などで、スイセンの葉っぱがある植物と誤食されて、吐き気や嘔吐などを伴う食中毒事件がおこりました。これらの多くは、自宅で栽培されている、ある食材植物にスイセンの葉っぱが混じってしまったものです。

この年には、秋田県でもおこっています。その場合は、間違って採取されたのではありません。スーパーマーケットで、ある食材植物と間違って、スイセンの葉っぱが販売されてしまったものでした。

スイセンは、ヒガンバナと同じヒガンバナ科の植物です。ヒガンバナがリコリンという有毒な物質をもって、自分のからだを食べられることから守っていることはよく知られています。スイセンも同じ有毒な物質をもっていて、動物に食べられることから、自分自身のからだを守っているのです。

ヒガンバナが有毒な物質をもっていることは、よく知られているので、食中毒事件はほとんどおこりません。しかし、スイセンは、有毒な物質をもっていることがあまり知られていないために、誤食されてよく騒ぎになるのです。

スイセンは、一体、何という食材植物と間違われるのでしょうか。

答えは「ニラ」だった!

ニラという野菜があります。これは、中国の西部を原産地とする植物ですが、日本でも、古代から栽培されています。疲労回復や滋養強壮の効果があり、血行を促進し、胃腸の調子を整えるので、ニラは「食べる薬」といわれます。そのくらい、健康に良い野菜です。

(写真:iStock.com/chengyuzheng)

健康に良く、収穫もよくできるため、ニラは、畑や家庭菜園でよく栽培されます。そのような場所で、ニラとスイセンが混植されていると、ニラの葉っぱを採取するときに、形のよく似たスイセンの葉っぱが間違って混じってしまうことがあるのです。

ニラは、抜き取らずに地上部の葉っぱを切り取って採取し食べる野菜です。ニラの葉っぱには香りがあるので、本来、スイセンの葉っぱと間違うことはありません。しかし、その香りは、葉っぱが採取されるときにわざわざ確認されることはありません。

そのため、ニラの中にスイセンの葉っぱが混じってしまうのです。ニラとスイセンは、畑や家庭菜園で栽培される場合には、混植されないように注意しなければなりません

 

厚生労働省の有毒植物に関する食中毒のホームページによると、平成21年~平成30年の間にスイセンをニラなどと間違えて食べた人が180人いました。その中には、死亡事故も含まれています。

たとえば、2016年5月、北海道で60歳代の男性が自宅の敷地内に生えていたニラと似ている植物を採取し、調理して食べました。その数時間後、下痢、嘔吐がおこったため、病院に救急搬送されましたが、その2日後に亡くなりました

男性が食べたとされる植物には、スイセンに含まれる有毒物質が検出されたため、室蘭保健所は、この男性がスイセンをニラと間違って食べてしまった食中毒だと発表しました。

 

「なぜ、スイセンが有毒なのか」という疑問があります。スイセンは見た目には可憐な花ですが、葉っぱや球根に毒があります

スイセンは、ヒガンバナ科の植物であり、ヒガンバナと同じ有毒物質であるリコリンをもっています。スイセンの球根部分に、リコリンが多く含まれることはよく知られていますが、葉っぱにも含まれています。

リコリンは、主に、消化器系に働き、症状としては吐き気、嘔吐、胃のむかつき、下痢などが見られます。実際に、ニラと間違えてスイセンを食べた人の症状では、食べた約30分後に、気持ちが悪くなり、吐き出しました。また、汗とよだれが出ています。からだがリコリンに反応して、嘔吐や下痢などといった症状でリコリンの毒を排出しようとするためです。

関連書籍

田中修/丹治邦和『植物はなぜ毒があるのか 草・木・花のしたたかな生存戦略』

トリカブトのようなよく知られたものだけではなく、じつは多くの植物が毒をもつ。例えばジャガイモは芽のみならず、未熟な状態や緑化した状態で毒をもち、毎年食中毒被害がおきる。それらは、芽や、成長に必要な部分を食べられないための植物のしたたかな生存戦略だった。過去10年の食中毒被害データを中心に、生き残るために植物がつくり出す様々な毒と特徴を紹介。また、古より植物の毒を薬に転じてきた人間の知恵と最新の医学情報まで、有毒植物と人間の関わりを楽しく解説。

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植物はなぜ毒があるのか

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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田中修

1947年、京都府生まれ。農学博士。京都大学農学部博士課程修了。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、甲南大学特別客員教授・名誉教授。専門は植物生理学。『植物はすごい』『植物のひみつ』『植物はすごい 七不思議篇』(以上中公新書)、『植物のあっぱれな生き方』『ありがたい植物』(以上幻冬舎新書)、『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(中央公論新社)、『植物はおいしい』(ちくま新書)など著書多数。

丹治邦和

1969年、京都府生まれ。神戸大学農学部卒業。東京大学農学系研究科修士課程修了。弘前大学医学部脳神経疾患研究施設神経病理部門助手、米国テキサス大学内科学教室博士研究員、米国MDアンダーソンがんセンター博士研究員を経て、現在は弘前大学大学院医学系研究科脳神経病理学講座助教。

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