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植物はなぜ毒があるのか

2020.11.11 更新 ツイート

防虫剤、強心薬、ストレス軽減…クスノキが放つ「フィトンチッド」のパワー 田中修/丹治邦和

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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「木の香り」に秘められた効果

森林浴で浴びている「木の香り」と表現されるものは、植物の葉や枝、幹から放出され、「フィトンチッド」とよばれます。「フィトン」とは「植物」という意味で、「チッド」は「殺すもの」という意味のロシア語です。

(写真:iStock.com/ittiototama)

「殺す」という物騒な言葉が使われるのは、この香りが、抗菌・殺菌作用をもち、カビや病原菌を遠ざけたり退治したりする働きをすることによります。そのため、私たちは、暮らしの中で、この香りの働きを防腐剤などに利用しています。

木々から出されるほのかな香りといっても、香りは“ただもの”ではなく、その働きは、ほのかなものではないのです。実際、このほのかな香りは、私たちの気持ちに働きかけて、ストレスを軽減するだけではありません。

フィトンチッドは、1930年、ソ連のレニングラード大学のトーキン博士が、「植物はからだから、カビや細菌を殺すいろいろな物質を出し、自分のからだを守っている」との考えを提唱したときの物質であり、香りなのです。

 

トーキン博士の考えが提唱される前から、私たちは暮らしの中で、古くから、フィトンチッドの抗菌作用や防虫効果を利用してきています。たとえば、柏餅や桜餅、柿の葉寿司などは、植物の香りを利用して食べものの保存をはかる例です。

また、ササやタケの葉っぱは、粽や笹団子、鱒寿司を包むのに使われます。昔はお肉やおにぎりなどを包むのに、タケの皮が利用されていました。

でも、もっと積極的に植物の香りを利用してきたものがあります。

古くから活用されてきたクスノキ

フィトンチッドを漂わせることでよく知られる樹木の一つに、クスノキがあります。クスノキは、宮崎駿監督の「となりのトトロ」のトトロが住んでいる木として、よく知られています。

(写真:iStock.com/gyro)

クスノキは、日本、台湾、中国を原産地とする、クスノキ科の植物です。日本では全国どこにでも、古くから、身近にあります。兵庫県、佐賀県、熊本県、鹿児島県では、「県の木」に選ばれています。

クスノキが香りを漂わせると知っていても、この木に近づいて香りを嗅いでも、特に幹や枝、葉っぱから香りは発散していません。葉っぱを切り取って嗅いでも、そのままではほとんど香りません。ところが、葉っぱを手でもみくちゃにすると、強い香りが漂います

葉っぱを手でぐちゃぐちゃともむと、葉っぱに傷がつきます。すると、強い香りが葉っぱから放出されるのです。手でもまれて葉っぱが傷つくことは、葉っぱにとっては、虫に食べられ葉っぱが傷ついたことを意味します。

この香りは、葉っぱが虫に食べられて傷がついたときに虫を撃退するために出るものです。

 

クスノキの葉っぱから出る香りは、「ショウノウ(樟脳)」という成分です。これは、英語では「カンファー」といわれます。クスノキの英語名が「カンファー ツリー」であり、それが物質名に使われているのです。

私たち人間は、昔から、この香りを日常において積極的に利用しています。着物や洋服などを虫に食べられることから守る防虫剤として、多くの家庭で利用されてきました。

近年は、「ショウノウ」として化学合成された商品がありますが、本来はクスノキから取り出された天然の香りです。現在でも、天然のものもあり、“天然”という言葉が使われて、防虫剤として市販されています。

 

私たちは、日常の生活において、クスノキの香りである「カンファー」からいろいろな恩恵を受けています。この物質は、かつては、医薬分野では「カンフル」とよばれ、医薬品としても使われました

この語は、クスノキのオランダ語名やドイツ語名に由来します。弱った心臓の機能を回復させるための強心剤として使われていました。植物たちがつくる物質が、私たちの暮らしの中で役に立つという一つの例です。

現在、医薬分野で、カンフルという薬品が使われることはほとんどなくなりました。でも、ダメになりかかっているものを復活させる手段として、「カンフル剤を打つ」というような表現は、医学の分野を離れて残っています

気持ちが落ち込んでいる人を元気づけるときや、景気を浮揚させるために何かの策を講じるときや、業績が低迷している企業に資金を投入するときなどに、「カンフル剤を打つ」というふうに使われます。

関連書籍

田中修/丹治邦和『植物はなぜ毒があるのか 草・木・花のしたたかな生存戦略』

トリカブトのようなよく知られたものだけではなく、じつは多くの植物が毒をもつ。例えばジャガイモは芽のみならず、未熟な状態や緑化した状態で毒をもち、毎年食中毒被害がおきる。それらは、芽や、成長に必要な部分を食べられないための植物のしたたかな生存戦略だった。過去10年の食中毒被害データを中心に、生き残るために植物がつくり出す様々な毒と特徴を紹介。また、古より植物の毒を薬に転じてきた人間の知恵と最新の医学情報まで、有毒植物と人間の関わりを楽しく解説。

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植物はなぜ毒があるのか

ジャガイモ、アジサイ、ビワ……。いずれも私たちにとって身近な植物ですが、実はある共通点があります。それは「毒」を持っていること。実際、これらを食べたことによる食中毒被害が毎年のように起きているそうです。一体なぜ、植物に毒が宿るのか? そしてその毒を、人間はどのように怖れ、またどのように有効活用してきたのか? 自然の偉大さがよくわかる『植物はなぜ毒があるのか』より、一部をご紹介します。

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田中修

1947年、京都府生まれ。農学博士。京都大学農学部博士課程修了。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、甲南大学特別客員教授・名誉教授。専門は植物生理学。『植物はすごい』『植物のひみつ』『植物はすごい 七不思議篇』(以上中公新書)、『植物のあっぱれな生き方』『ありがたい植物』(以上幻冬舎新書)、『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(中央公論新社)、『植物はおいしい』(ちくま新書)など著書多数。

丹治邦和

1969年、京都府生まれ。神戸大学農学部卒業。東京大学農学系研究科修士課程修了。弘前大学医学部脳神経疾患研究施設神経病理部門助手、米国テキサス大学内科学教室博士研究員、米国MDアンダーソンがんセンター博士研究員を経て、現在は弘前大学大学院医学系研究科脳神経病理学講座助教。

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