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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2020.09.27 更新 ツイート

オタクだと加齢も悪くない。その理由とは? カレー沢薫

年を取ると感受性が鈍くなるらしい。

確かに、年を取ることにより動作や頭の回転が鈍くなってきた自覚はあるし「ケツが重い」という言葉が比喩ではないということにも気づいてきた。
よくこんなに重いケツをつけて今まで生活できていたなと思う、もう必要な時以外は取りはずして冷凍庫とかにしまっておきたい。

ちなみにもっと年を取ると、暑さや寒さにも鈍くなり、気づいたら熱中症とかでリアル彼岸島にいたということもあるそうだ。

 

このように、年を取ると体や頭が衰える、ということはわかっていたが、感情までそうなる、というのは自覚がなかった。

しかし「年を取ると涙もろくなる」と言うし、駅員などを相手に感情を豊かに表現されている御老人の姿もよく見かける。
むしろある種の感情は年を取った方が豊かになるのではないだろうか。

そう思っていつも通りネットで調べて見たところ、年を取って涙もろくなるというのは、感受性が強くなったというわけではなく、脳の感情をコントロールする部分が衰えたためだという。
つまりパッキンが緩くなったため、そんなに尿意を感じてもないのに、気づいたら漏れているという「尿漏れ」と大して変わらない現象なのだ。

今朝、ツイッターに流れてきた「もう少しで死んでしまうワンちゃんの話」を見てこぼした涙が尿と同列だとは夢にも思わなかったが、理屈としては良く分かった。

つまり年を取ると、発生してしまった感情はダダ漏れになるが、その感情自体が発生しづらくなるということなのだろう。

なぜ年を取ると感情が発生しづらくなるかというと、感受性が鈍くなっているせいもあるかもしれないが、「経験」が増えているせいもあると思う。

漫画進撃の巨人に「おそらく2年前の地獄を見てきた者達だ 面構えが違う」という有名なページがある。
そのページに描かれている2年前の地獄を見てきた者たちが、どんな面構えをしているかというと、一同非常に勇ましい死んだ魚の目をしていらっしゃり、誰一人瞳にハイライトが入っていない。
つまり2年前の地獄を見たという「経験」により、せっかく高い寿司を食いに行ったのに、目の前で、見習いが延々大将になじられているという地獄を見せられたぐらいでは動じなくなっているのだ。

ちなみに進撃の巨人にそういうシーンはなく、もっと違う地獄が展開されていると思うので、共感性羞恥持ちも安心して読んでほしい。

このように、年を取り、経験が増えることにより、感情を揺さぶられるような新鮮な出来事というのが徐々に減っていくのである。

もう覚えていないが生まれて初めて「犬」を見た時もかなり衝撃を受けたと思う。

しかし二度目見た時は初見ほどの衝撃はないだろうし、チワワを見たあとにポメラニアンを初めて見ても「こいつも犬の一派なんだろうな」となんとなく予想がつくし、ゴリラを見ても「とりあえず人間以外の生き物だな」と、例え初見でも過去の経験から類似点を見いだし、あまり驚かなくなっていくのだ。
コーラを飲んだ経験があれば、ファンタを飲んでもそこまでビックリしないのと同じだ。

もしPS5を入手できたとしても、おそらくファミコンを初めて触った時の感動やワクワクは得られないだろう。

このように、経験により、ちょっとやそっとのことでは動じなくなる、というのはメリットでもあるが、人生がだんだん平たんになってくると言うデメリットもある。
特に今は、結婚や、股間から人間を出したり、あまつさえ出したものを20年ぐらいかけて育てたりという、かなり刺激的なイベントを通らない人も増えてきているため、若くして「やることが……やることがない……!」という逆金田一少年の犯人状態になっている若者も多いという。

しかし、何か経験するたびにトレーラーに轢かれて記憶を失わない限りは、人生から新鮮な感動が減っていくのは仕方のないことである。

しかし「オタク」という例外人種もいる。
何故私が「年を取ると感受性が鈍くなる」という話にピンと来なかったかというと、周りにしょっちゅう情緒や自律神経を乱している中高年オタクが大勢いたからだ。

確かにオタクは一生オタク気質なので、死ぬまで「新しい推しに出会う」という新鮮な体験の機会があるのだが、オタクが酷く情緒を乱すのは新しい推しに出会った瞬間だけではない。

20年追いかけているような推しでも「初めて見る服を着ている」というだけで「Nice to meet you……」とつぶやいて絶命していたりするのだ。

二次元でも、首は全く同じで衣装だけ挿げ替えられているイラストを見せられただけでアラフォーの人間が「これは、はじめての感情ですね」となってしまうのである。

このように「永遠に推しに慣れることがなく」表情差分を見せられただけで「は、はじめまして! フヒっ!」となってしまうのがオタクだ。

さらに、年を取ると発生した感情の制御が出来なくなるということは、ティーンが同じ推しを見て「へえ、いいじゃん」と思っている時、中高年以上のオタクは、すでに泣いているか、死んでいるということである。

年を取って、新しいジャンルを追う体力や瞬発力は落ちてきていると思う。
しかし「燃費」や「コスパ」に関しては良くなっているのではないだろうか。

関連書籍

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 〜オタク沼地獄〜』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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