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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2020.10.13 更新 ツイート

推しには筋トレと同じ効果がある カレー沢薫

最近「推し活」という言葉を一般メディアでも目にするようになった。

推し活とは、アイドルや二次元キャラなどに限らず、コスメでも電車でも昆布ふんどしでも、とにかく己の心臓を捧げられる存在に関する活動全般のことを指す。

 

活動内容は信奉するものによるが、推しと推しの界隈の豊穣と繁栄を祈る儀式を行うことはもちろん重要な推し活の1つだ。

儀式には「生贄」がつきものであり、普通生贄と言ったら若い娘、子どもなどが捧げられるが「推し」という存在はそんなクソロリコン処女厨神とは格が違うため、多くの推しが「諭吉」を所望する。
「諭吉」とは「福沢」のことであり、略して「福沢諭吉」である。

今まで、推しのご多幸を祈るために信者の手で多くの諭吉の生き血(韻を踏んだ)が捧げられてきたが、そのお役目は近々「栄一」に代替わりするので、御疲れさまである。

このように推しの趣味は渋い、24歳のピチピチギャルである一葉ではちょっと不満げなのだ。

しかし、諭吉を手に入れるためには、まず「労働」という形で己の命を削らなければいけないため一人では限界がある。
よって同じく命を削ってくれる信者を増やすための布教活動をするのも推し活の一種だ。

だが、推しに何かを捧げ続けるだけが推し活ではない、むしろ「推しからパワーをもらう」ことこそが「推し活」の本文であり、推しがいつまでもパワーを発し続けられるように、微力ながら生贄を捧げているのだ。

「朝活」という言葉があるが、あれも朝何らか活動することにより、健康になったり何かを高めようとする行為である。
推し活も推しに関する活動をすることにより、心身を健康にする活動である。

しかし、推しのことで泣いたり、吐いたり、バイブみたいな地上波には乗せられない動きをしているオタクを見たことがある人なら「逆に推しに心身を破壊されてないか」と思うかもしれない。

だがあれは、ジョジョの四部に出て来るトニオ・トラサルディーの料理みたいなものなのだ

トニオさんの料理を食べると、涙や体から垢が止まらなくなったり血を噴きだしたりと、とんでもないことになるが、それが終わると、体調がものすごく良くなっているのである。

オタクも推しを摂取することで、一旦爆発四散したりするが、あれは女子が大好きな「デトックス」であり、毒を爆散させているのだ。
ただ、推しの効果というのは想定以上に強く、本来なら3億倍にして希釈して摂取すべきなのだが、推し活というのはいきなり新規絵がツイッターに流れて来たりと、原液を静脈に注入されたりするため、たまに毒と一緒に本体も爆散してしまうだけである。

ともかく、推しを摂取して、ひとしきりもがき苦しんだ後のオタクは「悩みがないのが悩みです!」みたいな健やかな顔をしており、いつもは丸まっている背中も伸びるため、身長も5センチぐらい伸びる。

推しを鑑賞して、推しからパワーをもらったり、逆にパワーをもらい過ぎて破裂するのは推し活の基本だが最近は推しを身に着けてテンションと運気を上げる、というのも推し活の1つである。

推しがコスメの人間なら、新色リップを塗って行けるというだけで、会社に行くモチベーションが上がるだろうし、昆布ふんどしマニアなら、気分の乗らない日でも「今日は奮発して6尺締めていっちゃお」と思えば一瞬でアゲアゲに違いない。

我々二次元の民も、昔はキャラグッズと言えば「オタクですけど、何か?」と、それこそオタクにしか言えないセリフを言える覚悟がある者のみが身に着けて外に出られる物ばかりであり、多くの品が門外不出で自宅の祭壇に飾られるだけの用途しかなかった。

だが最近は、キャラグッズも洗練された物が多い。
令和になっても「推しが出すグッズがダサすぎる」ことが悩みの者もいるが、それでも昔よりは少なくとも素材が良くなった。

最近はキャラの顔ドーンみたいなものではなく、アクセサリーや香水などキャラの姿ではなく、イメージを表したグッズも多く、外に着けて出てもなかなかキャラグッズとは気づかれない。
気づかれたとしたら相手も高確率で仲間である。

推しを身に着けることで気分が明るくなるのはもちろんだが、嫌なことがあった時でも、推しのイメージランジェリーとか履いていれば「好きなだけ言うたらええ、なんせワイは推しのパンツ履いとる女ぞ、痛くも痒くもないわ」と思えるのである。

これは筋肉をつけることにより、上司に怒られても「いざとなったらコイツを殴り殺せる」と思えることで心に余裕が持てるのと同じ効果である。

つまり推しには筋トレと同じ効果があるのだ。

実際、推しは健康によく、健康にいいどころか、推しがいれば基本的に、病気や事故、寿命など以外では死ななくなる。
来年の夏、推しが水着になるかもしれないと思ったら、死んでいる場合ではないだろう。

スポーツ選手の応援など、ファン活動を、自分に何もないから他人の活躍に乗っかって満足しようとしているという人もいるが、そうではない。

推しがいるから生きる意味ができ、推しに諭吉を捧げるために働く意味ができる、推しに会いに行くなら、ダイエットして、化粧や良い服を着る意味だって見いだせる。

自分に何もないから推しに乗っかろうとしているわけではない、推しがいることで、何もなかった自分の人生すべてに意味がでてくるのだ。

関連書籍

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 〜オタク沼地獄〜』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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