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ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン

2020.09.17 更新 ツイート

官能作家とわざわざ呼ばないで 花房観音

ちょうど10年前、2010年9月に「第一回団鬼六賞大賞」を受賞し、小説家デビューした。官能小説なんて書いたことがなかったけれど、とにかく小説家になりたくて、手あたり次第応募して、ひっかかったのが団鬼六賞だった。

団鬼六はもともと大好きで、その名に惹かれて、官能小説を書いたけれど、それまで自分のようなものに官能が書けるとは思ってもいなかった。

性への興味は強いけれど、男に好かれない女である自分は、男を勃起させるための小説なんて書けるはずがないと信じていた。

そうして思いがけず官能でデビューして、私は「女流官能作家」という肩書がつけられる。わざわざ「女流」というのは、官能というジャンルが基本的に男性のものだという前提だろう。

 

「やっぱりセックスすごいんですか」

その肩書で世に出て、想像もしなかったことに、たくさん遭遇した。

初対面の人に、「やっぱり経験を書いているんですか。すごい体験されてるんですね」などと言われる。いきなり「旦那さんと、どんなセックスしてるんですか?」と問われて、驚いたこともある。

逆に、「そんな経験無さそうだから、すべて妄想でしょ」と、バカにしたようにも言われる。私の容姿を見て、「経験無さそう」と判断されるのも、なかなかひどい話だ。普通なら「セクハラ」である質問を、当たり前にぶつけられる。

本を紹介するエッセイの中で、『私、興奮して濡れちゃいました』って書いてくださいと媒体から要請されたこともある。え、濡れてないけど! と思ったけれど、要するに読者が望むのは、そういう「エロい女流官能作家」なのかと、思い知らされる経験だった。

飲み会などに私が出ると知ると、「エロい話を期待してますよ!」「エロいこと教えてください」と言ってくる人がいて、それも戸惑った。普段からそんな話ばかりしているわけではないのに。

しかし、注目されるならいいかと、最初の頃は、私自身も「女流官能作家」という肩書を使って、演じようとはしていた。

ジャンルを限定して読者を限定したくないのに

デビューして、運よく仕事が途切れず、ありがたいことに官能以外のジャンル、ホラーや怪談、ミステリー、京都案内などの本も出したし、性愛をテーマにはするけれど、男性を興奮させる「官能」ではない小説を書かせてもらえることも増えた。

だから私は「女流官能作家」と名乗ることをやめたし、その肩書を付けられそうになると、訂正することにしている。官能小説を書きません! と宣言しているわけではないし、依頼があると受けるし、でも、「官能作家」という肩書とイメージがあると、それだけで私の本を手に取らない人も多いのが嫌なのだ。

「官能」だから買う人もいれば、「官能」だから恥ずかしい、いやらしいと、避ける人はいる。

私はたくさんの人に自分の本を読んでもらいたい、興味を抱いて欲しい、書店で手にとってもらいたい。だから今まで、本の表紙だって、過激ではなく、女性でも手にとりやすい装幀やタイトルをお願いしてきた。

私は「女流官能作家」ではなく、ただの「作家」、「小説家」として、私の本をたくさんの人の手に届けたいと、努力してきたつもりだった。

他人からしたら、無駄な足掻きかもしれないし、「官能を見下すな」と怒っている人がいるのも知っているが、私の本が多くの人に読まれるために、いちいち肩書を訂正するのは、必要な抵抗だった。

「いろんなジャンルを書いているので、官能という肩書をつけるのはやめてください」と頼むのは、そりゃあめんどくさいし、相手にもうるさい女だと思われるのは承知だが、そう言わないと、いつまでも私は「女流官能作家」「エロいのを書く人」だとしか思われない。

名乗ってないのに紹介しないで

今年の初め、たくさんの人が集まるパーティで、二度ほど面識のある人と再会したのだが、その人は周りにいる人たちに向けて、私を指して「ねぇ! この人! エロいの書く人! すごくエロい人! 官能書いてる人!」と、「紹介」しはじめた。

私のことなど知らない人たちは、ちょっと困った顔で、こちらを見ている。私自身も、その場を立ち去りたくなる衝動を堪え苦笑いしているのに、その人は気づかず、「エロいの書くのよ! はっはっはー!」と楽しげだ。

去年も、同じことがあった。頼まれて出席したあるパーティで、皆の前で小説家だと紹介され、スピーチを頼まれた。そこまではいいけれど、酒に酔っているらしき、知らないおじさんが、ずっと「エロいの書いてる! ポルノ! ポルノ! 体験??」と、大声で茶々を入れてくる。

このように、不特定多数の人に「性的な女だ」と言い周られることは、しょっちゅうだ。飲み屋に知人と行くと、その知人が周りの人に、「この人ねぇ、いやらしいの書いてるの」と吹聴し、最初の頃は私も場の雰囲気を壊さないようにと「官能書いてるんですよ!」と、期待に応えていたのだが、ここのところは、「またか」と思って、次に来る「経験ですか」という質問にげんなりして、来たことを後悔するの繰り返した。

最近は、こうして囃し立てられたり、からかわれる度に、「不快だ」と伝えるようにはしているので、私はきっと、サービス精神のない、つまらない、うるさい女だと思われているだろう。

いつか小説家になる日まで

官能以外、いろんなジャンルを書いていますよと何度言っても、「エロいのを書いている人」としか吹聴されず、そういう扱いしかされないのは、ひとつには私の本が読まれていないのは、誰よりもわかっている。

売れていない、才能がない、だから「エロいのを書く女」という、キャッチーな部分だけしか人の記憶に残らない。

だから私は「エロいの書いている人」と囃し立てられ、何度訂正しても「女流官能作家」と書かれる度に、ひどく気持ちが落ち込むし、悔しくてはらわたが煮えくり返り、自分を責める。

「女流官能作家」「エロい人」だとしか見られないことに、小さな抵抗を繰り返し続けてきて、本当はものすごく疲れてしまって、何もかも放り投げたくなるときが、しょっちゅうある。別の名前でいちから新人賞に応募しようかとも、たまに考える。

けれど、少ないなりに、私の小説を読んで必要としてくれる人もいるので、まだしばらくは、「小説家」になれる日まで、もう少しだけ足掻いてみるつもりではいる。いつか、疲れ果てて何もかも諦めてしまう日が来るかもしれないし、「小説家」になることを諦めたほうが楽かもしれないなんて、思ってはいるけれど。

(居酒屋に行ったら必ず頼むだし巻き)
(恐竜のいるホテルに泊まりました)
(数ヶ月ぶりの京都国立博物館)

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花房観音  ヘイケイ日記、知らない人のいる飲み会に行きたくないのは、こういうのも理由のひとつ。https://t.co/LkH4QxcRf9 4日前 replyretweetfavorite

花房観音  ヘイケイ日記、肩書きとセクハラ。https://t.co/LkH4QxcRf9 7日前 replyretweetfavorite

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花房観音

2010年「花祀り」にて第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。京都を舞台にした圧倒的な官能世界が話題に。京都市在住。京都に暮らす女たちの生と性を描いた小説『女の庭』が話題に。その他著書に『偽りの森』『楽園』『情人』『色仏』『うかれ女島』など多数。

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