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高学歴エリート女はダメですか

2020.10.01 公開 ツイート

#7

ハイスペ女子が 「女同士の友情」に涙するとき【再掲】 山口真由

華やかな学歴・職歴、野心をもった女として生きるときの、世の中の面倒くささとぶつかる疑問を楽しく描いた『高学歴エリート女はダメですか』(山口真由著)は、女性だけでなく、男性読者からも共感を得ながら、絶賛発売中。本書から試し読みをお届けします。

山口真由著『高学歴エリート女はダメですか』幻冬舎刊

「財務省婦人会」で見た足の引っ張り合い

最近、柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋、2015年)という本を読んで、女同士の友達関係について考えさせられた。女同士が仲良くすることについて「なぜか心をざらつかせる」人たちの存在が、この本のテーマだ。その中には世の男性も入るそう。なぜなら、男たちにとっては女はバラバラにいがみ合っているほうが望ましく、連帯してかかってきたら困るからだという。

 

私は財務省で働いていたときに、「財務省婦人会」の会合に出席したことがある。「若手からも誰かが出ろ」というムチと、「お弁当が出るから」というアメで、のこのこ出向いた私は、「女たちの連帯」はかくも恐ろしいと知る。

労働組合系の支部会のようで「女性の権利」ばかりを主張し、「最近では、女性の中にも、夜遅くなると省に泊まる人たちがいると聞いた。女性の権利を貶めるもので許しがたい」と、興奮したご婦人が演説をぶつ。正直、仕事で深夜3時を過ぎると、家に帰るよりも、省内の仮眠室で寝るほうが睡眠時間が稼げる。男の子たちはみんなしていることを、私たちがやってなんの問題があるのか。国会当番に当たらない人たちには、夜中に家に帰って、「あー、3時間後には起きなきゃ、遅刻だよ。明日起きれなかったらどうしよう」と緊張に駆られながら目覚ましを二つセットする、あの気持ちはわからない……ぶつぶつぶつぶつ。

過酷な労働環境を表す言葉として、「きつい」「汚い」「危険」の頭文字を取った「3K」という言葉がある。それをさらに拡大させて「9K職場の私たち」という横断幕を掲げた女性の集団が労働環境の改善を訴えている写真が、中学校の社会の教科書に載っていた。その「K」のひとつが「結婚できない」だったのだが、写真に写るひっつめ髪の女たちの顔を一人一人眺めながら、「う~ん……結婚できないのは、職場環境だけが理由じゃないだろう……」と思わずつぶやいた私は、連帯の才能がもともとないのだろう(もちろん、大変なお仕事をされているのだろうと推察し、理解し尊敬しております)。

で、「女たちの連帯」というのは、要するに、働きたい女性たちの足を引っ張って、働きたくない女性たちの水準に合わせて彼女たちを守ることと理解し、私は連帯の輪に入るのをやめたのだ(もちろん、それだけではないと今は理解してますけどね)。

ハイスペ女子たちは、一人一人が実力でがんばればいいという個人主義に陥りがちで、女友達と年中つるんでいるというのは、あまり聞かない気がする(もちろん、私に友達が少ないのかもしれませんが)。なんか、今回はやたらと括弧内の言い訳が続く。男たちを糾弾するよりも、女たちを告発するほうが、よっぽど気を遣う時代なのである。

かわいいは「相乗効果」で作れる?!

個人主義的なハイスペ女子たちは、仕事の関連で「連帯」する必要はない。私たちが「連帯」するのは、対男性への魅力アピールの場合が多いのかもしれない。

(写真:iStock.com/AleksandraAkejseeva)

林真理子さんは、その著書の中で「自分と同程度にキレイな女友達と一緒にいるべき」と書いていた。これは『アラサーちゃん』の作者の峰なゆかさんも指摘している。容姿が劣る女友達といると、一見引き立ててもらえそうだが、性格の悪さを疑われる。それに、ある程度かわいい女の子が二人並んだほうが「相乗効果」で、魅力的に映るそうだ。

ジャニーズだって、容姿が同程度に整った若い男の子たちをグループにまとめてセット売りしているし、テイラー・スウィフトだって、よく似たきれいで金髪のモデルの女の子たちを「お取り巻き」にしている。単体でレッドカーペットを歩くよりも目立って、注目度も上がるらしい。テイラー・スウィフトのお取り巻きは、カーリー・クロスとかジジ・ハディッドとか、一人でも十分見栄えがするスーパーモデルばかりだが、それでもハイレベルな相乗効果が生まれているのだろう。

スーパーモデルから自らの話に戻すのは気が引けるが、これはハイスペ女子の場合も同じ。私の同期の弁護士の女性たちは、飛びぬけてこそいなくとも、皆一様にそれなりにかわいかった。同期何人かで合コンに繰り出した場合には、ほぼ必ず「弁護士って、イメージと違ってカワいいんだね」といわれたものである(が、別にそうした合コンに何らかの実りがあったわけではない)。

この相乗効果を期待する場合、みなが同程度のハイスペ度とキレイ度であって、誰もずば抜けていないことが望ましい(全員そろってずば抜けているテイラー・スウィフト軍団が理想ではあるが、現実問題として私たちには望みがたいのだから)。秘書たちの合コンに弁護士一人交ぜてもらった友人は、わざとなのかなんなのか、秘書たちからずっと「先生、先生」と呼ばれて興ざめだったらしい。一橋大学のテニスサークルに入っていた先輩は、同じサークルの同期に、後にアナウンサーになった超キレイな女の子がいて、他は全員その子の引き立て役にまわってしまう構造だったという。

他人の時間を奪う人とは友達になれない!

ま、でも、そんな「相乗効果」的な友情って、なんかフェイクっぽいと思ってしまうが、そんな私でも、女同士の友情にほろっとしてしまうこともある。

高校生のとき、超まじめに授業を聞いていた私は、同級生から「ノート貸して」といわれることが多かった。これは実質的には断れないお願いである。そうやってほいほいノートを貸していた。クラスのイケている男の子にノートを貸して、その子が「サンキュー」と軽いノリで返してきたとき、私と同じ「まじめグループ」の女の子が私にいった。

「ノート取るのってけっこう大変なのに。真由、みんながおしゃべりしているときだって、ずっと授業聞いてるのに。普段授業を聞かないでテスト前にノートを借りるなんて、そういう要領のよさ、私は許せない!」

私のために悔しがる彼女に、私は少し泣きそうになったが、彼女が先に目に涙を溜めたので、逆に涙がひっこんだ。そして、私はずいぶんと気持ちがすっとしたように思う。

そうなのだ。ノートを取らない人たちは、ノートを取るのが大変だって知らないから、気軽に「貸して」っていえちゃう。スクールカースト上位の「イケてるグループ」から、比較的下位の「まじめグループ」に向けて、ノートを差し出せという要求は、マルクス主義でいうところの階級間の搾取の構造だろう。「がり勉」といわれながら、普段黙々とノートを取っている同士だから共有できる気持ちもある。こうやってまじめに授業を聞いた私たちは、社会に出てから「ハイスペ女子」となった。

先日、友人の中学1年生の娘さんの家庭教師をすることになった。名門私立校に入ったのはいいものの、学業成績が振るわずに、転校を勧められているという。私の友人は、何不自由なく育ったお嬢さんで、旦那さんがものすごく有名で、労働なんてハシタナイことはしたことがない。少女のように無邪気な人で、私はそこが好きだったので、困っているならとお手伝いすることにした。

とはいっても、パソコンがあれば仕事ができる私は、勉強をしている隣で監督がてら原稿でも書いてようと思った。せいぜい3時間、長くて5時間だろうと。

ところが……。

この娘さんが、一人で全然勉強しない。私はずっと教科書とにらめっこしながら、教え続けなければならず、かつ、なし崩し的に全教科を見ることになり、朝10時から夜10時過ぎまで、それが3日4日と続くことになった。仕事も滞って夜にまわる。

試験前の最後の留意事項を送って、家でひと眠りしようかと思ったところ、メールの着信音が鳴った。「今見たら、試験で許される筆記用具はHBの鉛筆だけって書いてあるんだけど、うちにはシャープペンしかなくって……」。

知らんよ、そんなの。

で、私はハイスペ女友達に聞いたのだ。私はいつまで付き合うべきなのか、と。彼女はこういった。

「無料でやってるんでしょ。今すぐやめなよ、そんなの。今回なんとかなっても、そういう子はまた留年しそうになるし、延々とやらなきゃいけなくなるよ。悪気はないんだろうけど、他人の時間を使うってことがどういうことかわからない人たちとは、友達になれないんだよ、私たち」

私のために想像以上に怒りまくる彼女に、高校時代と同じように、私はまたほろっときた。愛情を真っすぐに受けて天真爛漫に育った上流階級の奥様は、太陽のように明るく邪気がない。だが、彼女と私は決してわかり合えないのだろう。ホステスだって、弁護士だって、看護師だって、働く女たちはみな、「時間はただではない」ことを知っている。だから、愚痴の電話だろうと昼間の女子会だろうと、私たちは時間にシビアだし、他人の時間に際限なく侵食したりしない。自分の手で働いて、労働のつらさを知った人たちだけが共有できる感覚だろう。

女友達なんていらないって思ってたけど、やっぱりいざというときにはハイスペ女友達かも。忙しさが増すごとに反比例して少なくなる出会いに焦りを覚え、合コンは行くけど女子会はスキップするなんてことは、やりすぎてはいけませんな。

関連書籍

山口真由『高学歴エリート女はダメですか』

いい大学も出てキャリアも積んだ。恋愛もして人生のパートナーを見つけようとがんばってきた20代、30代のはずだった。けど気づくと37歳の独り身で、結婚はこのまま無理かもな……と思ったら、なんだか急に寂しくなった。どうしてこうなったのか? 走れども走れども幸せのゴールが遠のく気がするのはなぜ? 等身大の女子たちや、女子アナ、芸能人まで下世話に観察、おおいに自省しながら、ハイスペック女子の幸せをあれこれ模索してしまう“ひとり茶話会”的エッセイ。

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高学歴エリート女はダメですか

華麗なる学歴はもとより、恋も仕事も全力投球、成功への道を着々と歩んできた山口真由氏。ある日ふと、未婚で37歳、普通の生活もまともにできていないかもしれない自己肯定感の低い自分に気づく――。このままでいいのか? どこまで走り続ければ私は幸せになれるのか? の疑問を抱え、自身と周囲のハイスペック女子の“あるある”や、注目の芸能ニュースもとりあげつつ、女の幸せを考えるエッセイ集。

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山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部卒。財務省、法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。家族法を学ぶ。2017年にニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に入学し、2020年に修了。博士(法学)。現在は信州大学特任教授。「超」勉強力』(プレジデント社、共著)いいエリート、わるいエリート(新潮社)、『高学歴エリート女はダメですか』(幻冬舎)、「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)など著書多数。 
山口真由オフィシャルTwitter

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