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高学歴エリート女はダメですか

2020.10.05 更新 ツイート

#9

それでも私は「自分基準」と割り切れない【再掲】 山口真由

華やかな学歴・職歴、野心をもった女として生きるときの、世の中の面倒くささとぶつかる疑問を楽しく描いた『高学歴エリート女はダメですか』(山口真由著)は、女性だけでなく、男性読者からも共感を得ながら、絶賛発売中。本書から試し読みをお届けします。

山口真由著『高学歴エリート女はダメですか』幻冬舎刊

怒鳴り散らす真由子様、密会する志桜里さん

Jアラートが鳴り響く朝、テレビをつけてみたら北朝鮮一色だったり、別の日には豊田真由子様一色だったり、山尾志桜里議員ばかり出ていたり……。もう私には何がこの国を最も脅かしているのかわからない。北朝鮮なの? 文春・新潮なの? と思っていたこのころはまだ平和で、その後、新型コロナなる恐ろしいものに脅かされる時代がやってきたわけですが……。

ところで、再三繰り返すけど、豊田真由子先生にしろ、山尾志桜里先生にしろ、それは彼女ら個々の問題であって、決して東大女子全体の問題として一般化することはできないと思う。そういっていたら、妹が私にこういった。

「真由にしろ、真由子様にしろ、この山尾志桜里さんにしろさー、みんな根本的に欲が人より強いよね。私、真由子様みたいに怒るだけのエネルギーないし、志桜里さんみたいに、9歳年下の弁護士とウワサになるとか絶対ないな。超めんどくさそ」

私の場合は、「欲」じゃなくて「向上心」! とはいってみたものの、野心って全方位的なものなのかもね。社会に対する野心がある女は、名誉欲もあれば、自己顕示欲もあれば、不倫に対する意欲もあるのかも?「英雄、色を好む」っていうじゃない? 女だって同じかもね。

(写真:iStock.com/lineratestpilot)

私が、妹のことを適当に書き散らかすのは、彼女は、私が書いたものにまったく関心を示さないからだ。私の文章を読んだこともなく、検索したことも、そうしようと思ったことすらない私の妹は、友人から「お姉さんのこないだの記事見たよ。妹さんがいい味出してるね」といわれても、他人事のように薄く笑うだけ。

インターネット上の私にも自分にもまったく興味がなく、関心があるのはゴシップと自分の日常の世界だけ。彼女の確固とした、そして、完全に閉じられた世界を見ていると、この子、仙人にでもなる気じゃないのと思えてくる。私が他人からの評価を食べて生きていく間に、この子は霞を食べて生きていくのだろう。

私も、自分の書いた記事へのコメントは決して検索しないけど、それは関心がないからではなくて、関心がありすぎるから。その評価にいちいち右往左往してしまう。そう考えると、私の世界は決して閉じることなく広がっている。

だが、野心というのはそういうものだ。私の友人で、成功した画家がいるけれど、彼女は「独特の世界観」を表現して、この世を達観しているように見えて、その実、決してそうではない。憑つかれたように、毎日、「エゴサーチ」している。

「ねぇねぇ、私、あの有力な画廊とデキてるっていわれている。そうやって世に出してもらったんだって。ウケるー」

「ねぇねぇ、今度は、私を主人公にした漫画をネットで発見。ちょっと私、実は男って設定になってるんだけど、やばい、これ超面白い。ウケるー」

夜中に必死に自分の悪口を探す彼女の姿は異様でもあり、そうやって、ネット上の評価を餌に巨大に成長していく彼女を「業が深い」と評した別の女友達の言葉を思い出した。そう、野心ってこういうもの。乾いているように見える女も、湿った欲望を心に抱えているってわけ。

美しい「苦労話」に納得できない理由

この間、アメリカでヴァイオリニストをしている祐子さんとスカイプで話した。日本に生まれた彼女は、高校に進学すると同時にアメリカに渡り、そこで音楽の教育を受けて、ヴァイオリニストになった。彼女に初めて会った会食のときに、その中の一人で、夫の渡仏に付き合って、フランスで料理を学ぶ優雅なマダムが、祐子さんにこう尋ねた。

「音楽家として生きていくのって大変じゃないの? 成功しない限り、お給料って少ないでしょ? パトロンでもいるの?」

私は、正直、不快に思った。初対面の相手に尋ねるには立ち入りすぎ、かつ、思いやりのない質問だから。その顔に好奇心のほか、ほのかな優越感がのぞいていないといえるだろうか。

だから、祐子さんが特に悪びれる風もなく、「お金がなくってとっても苦労した学生時代」とか「筋の悪いスポンサー」の話をはじめたのを見て、この人は今幸せなんだろうと感心した。自分の不幸を明かせる人は、今の自分に自信がある。逆に、他人の不幸を暴こうとする人は、自分に自信がないのね、私も含めて。

実際、祐子さんはとてもいい人だし、自分のことをいい人間だと信じきっている。私は、この疑いのない真っすぐな感じがとても好き。彼女と話すと、直線をたどるような安心感を得られる。だから、私は確かめるように、定期的に祐子さんと話し、彼女は嫌な顔もせず、いつも付き合ってくれる。

この間、ある時期まで演奏会を極度に恐れていたと、祐子さんが教えてくれた。観客から「素晴らしかった!!」と賛辞を受けても、常に、相手の目の中に欺ぎ瞞まんを探そうとした。そして、彼女は気づく。結局、自分の演奏に満足できていないのは自分自身だったと。つまり、自分の不満を相手の目の中に投影していただけだと。それ以降、彼女は自分が満足できる演奏を試みるようになった。ヴァイオリンの音色が空気を振動させ、そして余韻となって空気に消えていく、その瞬間の幸福感──そうやって、自分の演奏を好きになり、今の自分を誇りに思える。で、幸せを感じられるようになったんだって。

(写真:iStock.com/palomita222)

よく聞く類型の話だと切って捨てるには、私は祐子さんを尊敬しすぎている。だから、素直に彼女の「野心からの解脱」を受け止めた。コンクールでの評価を得ることばかりに躍起になっていた彼女が、自分の基準で生きられるようになったと。

でも、私、それだけじゃ絶対に説得されないの! 同時にこうも思うの! 野心が抜けるっていうのは、それって解脱なんだろうけど、同時に人生に折り合いをつけて、あきらめることかもしれないじゃない?

幸せというのは現状を肯定することだ。今十分に満ち足りていると認めること。それは向上しようとするあくなき欲求から逃れること、上へ上へと続く競争の螺旋(らせん)階段を降りることをも意味する。

他人の評価を気にせずに、自分の好きなことだけをして憚らない──これは、究極的には天才か世捨て人にしか許されないと、私は思う。「自分基準」が世間の評価と完全に一致すれば天才ともてはやされるし、そうでなければ、世間から忘れられる。世間からの評価に耳を澄ませられなくなること(意図的にシャットダウンすることかもしれないけど)は、最後は世捨て人になってもよいと覚悟を決めることだと思う。だけど、私はまだ「自分の基準」と「他人からの評価」の狭間で惑っていたい。不惑も解脱もしたくない! だから、私は、私を突き動かすギラギラとした炎を消さないことに決めた。

逆風の嵐の後、彼女たちは何を思うか?

政治家になった女というのは、間違いなく野心から解脱できていない。真由子様は、ギラギラ感が表面に出てしまうタイプ。予算委員会で、「わたくし」とか「ございます」とか品のよい言葉を並べ立てる裏で、どんどん前に進んでいくはずの自分の活躍を妨げる秘書にはギンギラの怒りの炎を燃やしていたのよね、きっと。

対する志桜里先生は、野心が表に出にくい。これって要するに洗練ともいえるのだろう。この人の適度な美人度が野心を隠すためにはちょうどよかったのだと思う。蓮舫系の美人だときつい印象を与えるし、片山さつきさんの場合には、選挙ポスターを出すたびに「修正」を取り沙汰されるしね。山尾さんくらいだと、野心を隠せて好感度を保てるのよね。そうやって、舛添、甘利と、政治とカネの問題により次々に切られていく政治家の中で、ガソリン代の不正計上問題を乗り切った彼女も、今回はそうやすやすと逃げ切ることはできなかった。

それくらい「不倫」に対して、世の中が不寛容になっているのだと、歌舞伎役者と京都の芸妓さんの関係を例に出して論じるのは、他の人の二番煎じっぽいので、やめておこう。ただ、不倫がどうして許されないのかを書いたこの文章が、私にずきゅんと衝撃を与えたから、ちょっと書いてもいい?

「不倫が忌み嫌われるのは、ものすごく愛し合っているにせよそれなりに惰性の関係であるにしろ、夫婦関係の片割れである残された妻や夫から、世界で一人だけしか救えない状況になった時、必ずその一人には自分を選ぶであろうという希望を奪うからに他ならない。少なくとも彼だけは自分を救ってくれるだろう、という辛うじてある希望を失うことは、人間にとって耐え難く心細いものである。『昼顔』は映画となってより一層、妻の不安と絶望を顕著に描いたが、私自身、独身のまま昨年母を亡くして今まで以上に強くそう感じている」(「文春オンライン」2017年7月24日)

これを書いたのは、東大の大学院を修了して日経新聞で働き、AV女優としての過去を明かした鈴木涼美さん。この人って露悪的なようで、少女のようにロマンチストで、甘やかな孤独に酔っているんだろうなと思う。違うのよ、これ全然悪口じゃないの。だって、私もまったく同じこと考えてたんだもん。これ以上ないくらい同意!

たとえば、北朝鮮がミサイルを打ち放って、Jアラートが鳴り響くとき、私はいつも思う。この世にたった一人でいいから、この瞬間に、誰より先に私の身を案じてくれる人がいたらいいのにって。お互いにまず最初に安否を気遣うことが確実だと思えば、私の野心の少なくとも半分くらいはぺしゃんこにつぶせるだろうと(←それでも半分〈笑〉)。だけど、誰か一人が必ず私を救うという確信が得られないまま、私は、誰かに私を見つけてほしいという欲求を、特定の一人から社会へと拡大する。社会に認めてもらおうと躍起になって、そこに私の野心が生まれる。

そして、肥大した自己承認欲求は、常に不満と隣り合わせ。もっと前に進めるはずなのに、足を引っ張る誰かを、自分を認めない誰かを恨み、そして満ち足りない思いを、理解されない我が身の不幸へとすり替える。

 

世界が危機的な状況になったときに誰も私を救わないのではないかという、仮想の孤独感。私はそれに酔いしれるのだ。私たちの不幸は甘やかだ。独居老人の孤独も、母子家庭の貧困も、リアルを経験したことがないまま、ラグジュアリーな「不幸」は、私たちを悲劇のヒロインに格上げしてくれる。

自分を有能とうぬぼれ、無能な周囲は自分を理解しないと黄昏たそがれる。理解されない孤独を、孤高へと飛躍させ、甘美な自己陶酔に浸りきる。

(写真:iStock.com/masan4ik)

有能な自分についてこれない無能な秘書に囲まれて、孤独を感じていたのかもしれない豊田真由子氏。自分の議員生活に水を差すような、よくわからない事業に手を出し続ける旦那さんに疲れ、癒されない孤独を抱えていたのかもしれない山尾志桜里氏。

野心と表裏一体の自己陶酔で自らをヒロイン化し、手痛いしっぺ返しを受けた女たちを、私は他人事として批判することはできない。尻馬に乗って叩くことはしたくない。だからこそ、私は聞きたい。この逆風の嵐を乗り切った後、彼女たちが何を思うのかと。

ねぇ、教えてよ。野心に突き動かされるがままに、他人の評価を飢えたように求め続けた女は、大きなつまずきの後に、一体何を悟ったの? 菩薩のように解脱するのか、それともこの屈辱をばねにさらに欲望の高みを目指すのか。

もし彼女が野心からの解脱を決意するなら、そのときこそ、私は説得されてもいい。「他人からの評価」ではなく「自分の基準」で生きてくことが重要だよと。そのときにならば、胸の内に燃える野心の炎を消して、降参ののろしを上げてもいいと、私は思う。

※試し読みはここまでです。気になる続きはぜひ書籍『高学歴エリート女はダメですか』をお手にとってお楽しみください。

関連書籍

山口真由『高学歴エリート女はダメですか』

いい大学も出てキャリアも積んだ。恋愛もして人生のパートナーを見つけようとがんばってきた20代、30代のはずだった。けど気づくと37歳の独り身で、結婚はこのまま無理かもな……と思ったら、なんだか急に寂しくなった。どうしてこうなったのか? 走れども走れども幸せのゴールが遠のく気がするのはなぜ? 等身大の女子たちや、女子アナ、芸能人まで下世話に観察、おおいに自省しながら、ハイスペック女子の幸せをあれこれ模索してしまう“ひとり茶話会”的エッセイ。

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高学歴エリート女はダメですか

華麗なる学歴はもとより、恋も仕事も全力投球、成功への道を着々と歩んできた山口真由氏。ある日ふと、未婚で37歳、普通の生活もまともにできていないかもしれない自己肯定感の低い自分に気づく――。このままでいいのか? どこまで走り続ければ私は幸せになれるのか? の疑問を抱え、自身と周囲のハイスペック女子の“あるある”や、注目の芸能ニュースもとりあげつつ、女の幸せを考えるエッセイ集。

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山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部卒。財務省、法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。2017年にニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に入学し、2020年に修了。博士(法学)。現在は信州大学特任准教授。「超」勉強力』(プレジデント社、共著)いいエリート、わるいエリート(新潮社)、『高学歴エリート女はダメですか』(幻冬舎)など著書多数。最新刊は『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)。 
山口真由オフィシャルTwitter

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