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高学歴エリート女はダメですか

2020.09.28 公開 ツイート

#5

「東大→官僚→ハーバード」だからって、 豊田真由子様とは違うだろ!【再掲】 山口真由

華やかな学歴・職歴、野心をもった女として生きるときの、世の中の面倒くささとぶつかる疑問を楽しく描いた『高学歴エリート女はダメですか』(山口真由著)は、女性だけでなく、男性読者からも共感を得ながら、絶賛発売中。本書から試し読みをお届けします。

山口真由著『高学歴エリート女はダメですか』幻冬舎刊

 

周囲を気にして、勝手にストレス貯金する女たち

「東大→官庁→ハーバード」というキーワードが共通という理由で、「豊田真由子議員(当時)についてどう思うか」という質問を受けることがあった。私からすると、これほどお門違いの質問はない。豊田真由子様が抱える問題を、ハイスペ女子全体が抱える問題に帰納するって無理でしょ? どれほど怒ったとしても、人に暴力を振るうというのは違うって、私、そう思います!

 

国会議員になった丸山穂高君は、官僚時代の同期である。普段はナイスガイだったからこそ、居酒屋を出た後、口論になって相手の手を噛んだというニュースには驚いた(この後、さらに「すごい人」になったね!!)。速水もこみちの弟さんなんか、車の幅寄せをめぐる口論から相手の肋骨を折ったらしい。こういうステレオタイプはNGなんだけど、怒りを暴力で表現するという発想は、どちらかというと男性的で、口達者なハイスペ女子からは縁遠いように思えた。

とかなんとか、ぐちぐちいってたら、私も人を噛む(フリをした!?)ことが発覚。

前に妹と旅行に行って、朝起きてシャワー浴びて1杯、朝食を食べてお部屋に帰って1杯、プールから戻って1杯、そして夜には1本、2本と順調に杯を重ねたわけだが、次の日の朝、二日酔いで鈍る頭で目を覚ますと、妹がぷりぷりしている。

「ちょっと~、真由~、昨日の夜のこと、ほんとに覚えてないの?」

うーん? 私たちは、日本最大の獣害と呼ばれる「三毛別(さんけべつ)羆事件(ひぐまじけん)」の話をしていたのだ。三毛別という北海道の開拓村が、超巨大なヒグマに襲われて多くの死者を出したという痛ましい事件である。その後、バスルームに向かった私は、何を思ったか、突然、リビングに走り込み、

「クマやで~」

と「ガブっガブっ」いいながら、妹の腕をつかんだらしい。

(写真:iStock.com/TatianaNikulina)

なんなんだろう、私って不謹慎かつ不道徳。うん、最低……。

ちょっと話があらぬ方向に向かってしまったが、そうそう、豊田真由子さんの話。

で、結局、暴力性向云々について、私もあまり厳しいことをいえなくなってしまったのだけど、ひとついえるのは、ハイスペ女子の多くは、周囲の視線を気にしてストレスをためこんでること、そして、そのため常にイライラしていること。ちょっと待って、ひとつじゃなくて二ついっちゃったかも!?

 

ニコニコしている上司でも、マグマのような怒りをためている

まず、ハイスペ女子の多くはイライラしている(と私は思う)。社会の何に対して怒っているのか、正確には表現できないが、とにかく私たちは終始ムカついている。

この間、仕事の待ち合わせに遅刻しそうで、麻布十番駅をつかつかと歩いていた。そしたら、そこら中人人人で通行規制。かつ、浴衣姿で華やいだ集団が、楽しそうにゆったりと歩いている。そっか、今日は麻布十番祭りか。と思うと、なんか無性にイライラするの。私は仕事に遅刻しそうなのに~~~(←遅刻しそうなのは、私のせいだけどね)。

で、家に帰って開口一番、妹にこういった。

「ねー、ありえないんだけど。麻布十番祭りでさ、女の子が浴衣着るのはいいよ。で、なんでカップルの男側まで浴衣着て、手つないで歩いてるわけ? ねぇ、私のイライラをどうしたらいいのよ」

すると、妹も「そういうカップルに限って、着付けがだらしなかったりする~~~」

と謎に怒りだした。イライラした者同士だと、八つ当たりをいさめるどころか、怒りが伝播してっちゃうのよね。

で、私の器の小ささは放っておいてもらうとして、働くハイスペ女性上司には、イライラしている人が多かった。

新人の頃、弁護士事務所の女性上司が夜のオフィスに戻ってきた。疲れているように見えたので、「お疲れですか?」と声をかけると、

「うん、くだらない飲み会が続いてね、昨日のとかひどかった」

はーっとため息をついた。

で、私の顔を見て「はっ」とした表情をし、私もそのとき「あっ」てなる。だって、昨日の晩って私たち新人歓迎のディナーじゃない!? で、私は、そのとき、気まずいながらもちょっと同情したというか。なんか、この人は、あのディナーの間も、エチケットを知らない新人相手にイライラしどおしで、そうやってストレスをためこんで、消耗してるんだろうなって思いました。

(写真:iStock.com/Tuadesk)

一見ニコニコしているように見える女性上司も、内心ではイライラの炎を燃やしていることが多い。別の弁護士事務所に勤める友人が、ナナコ先生という女性上司の話をしてくれた。ナナコ先生は、かわいらしい顔で、ぽっちゃりをかなり行き過ぎにしたような体形だった。

「先輩から一度、『ナナコ先生って、いっつも、あれキュロットはいてるの? それともスカート?』って聞かれて一生懸命に観察したんだけど、『両方の太ももの間がぴったりとくっつきすぎて、もはや肉眼では判別不能です』っていうしかなかったのよー」だって。

私も意地悪だけど、この友人の底意地の悪さにはさすがに引きました。人の容姿について、そこまで扱き下ろされると、同調できない。

でも、友人にも友人で理由があった。にこにこナナコから鮮烈な八つ当たりの洗礼を受けていたのだ。彼女がまだ右も左もわからない新人弁護士のときに、待っていたエレベーターのドアが開いた。中には、ナナコ先生と、これも巨体で知られた二人の男性弁護士が……。乗り込もうとしてぎょっとした友人は、思わず立ちすくむ。そこににっこり笑ったナナコ先生が、「事務所の三巨頭~」と高らかに愛嬌を振りまくから、友人は思わずぷっと吹き出してしまった。だが、これがいけなかったらしい。

「あの子、なんなの? すごい失礼なんだけど!! 少なくとも、私の仕事はさせないから、この先ずっとよ」と、甚だしくご不興を買ったらしい。

自分からいいだしといて、自分からキレるなんて、相当、イライラしていたんだろうねぇと友人と話し合った。

私が見る限り、エリートと呼ばれる女たちは、社会の軋あつ轢れきにさらされるためか、細かいことまで気を遣いすぎるからか、イライラをためる傾向にある。その体は、細かろうと太かろうと、マグマのような怒りに満ちている。そして、その怒りは発散する対象を、常時、探している。正当な怒りだろうと、八つ当たりだろうと、もはや知ったことじゃないのだ。

 

国語で何点取ろうとも、感情表現はうまくならない

だが、それ以上に目を引いたのは、豊田真由子様の、まさかの脆さだろう。同じ自民党で、これまた不倫ヌード写真を週刊誌によって全国的にバラまかれるという、ありえない失態を犯した中川俊直先生は、直後の国会審議にも出ていたし、坊主にして釈明会見も開いた。

惚れやすい性格かと尋ねられて「小さい頃から多くの人が好き、動物が好きでした」と謎に博愛をアピールする会見は、想像の斜め上をいき、怒りを持って見守っていた有権者も、さすがに失笑せざるをえなかった(と思う)。

対する豊田先生の神経の細さは、なんなのだろう? 騒動の直後から、憔悴しようすいし、入院し、人前に姿を現すことは一切なかったのだから。あの強気な暴言の数々からは想像もつかない弱さだが、人に強く出る人というのは、概して弱い人間なのだ。

私も細かいことを気にして、終始、落ち込んでいる。途中で話しかけられて、そっちに気をとられちゃって名刺交換がおざなりになったけど、嫌われたんじゃないかとか。素敵だなと思った人に、メールしようとすると、ちゃんとしたこといわなきゃと思って、逆に変なことばっか口走ってて自己嫌悪とか。はたまた、こんなハイスペ女子シリーズ書いてていいんだろうかとか。この記事を読んだ人は反感を覚えるだろうし、もうやだなーとか。うーん、細かい悩みから大きな悩みまで思い出されて、ほんとに落ち込んできちゃった。

私が知る限り、ハイスペ女子の多くは、気にしいである。その中の一部は、細かいストレスをためこんで、ある日、ポキッと折れる脆さも併せ持つ。この間、ちょっと前に知り合った友人と話をしたときもそう感じた。彼女はコンサルティングファームに勤めながら、3人の男の子を育てる肝っ玉系の女性で、なんか底抜けに明るいというのが第一印象だった。ところが、じっくり話を聞いてみると、いろいろなことを細かく気にする人だとわかった。

聞けば、以前働いていた金融機関を、突然、退職して周囲を驚かせた経験があるという。

「私は、細かいことでいちいち傷つくんだけど、それでもヘラヘラ笑っちゃうわけ。で、それまで何年にもわたる細かいストレスが限界までたまってしまって、辞表を出したんだけど、まわりからすると青天の霹靂だったみたい。あんなに楽しそうに働いていたのになんで? ていわれた」って。

国語で何点を取ろうとも、私たちは、感情を表現することが決してうまくないのだろう。

怒りや失望を、適切に表現するのは、とても難しい。私たちはつい怒りを増幅して表現してしまったり、逆に、悲しみを表現できずに己の中にためたりする。そして、八つ当たりする自分の醜さに凹み、吐露できないつらさにさいなまれる。生きることは失望の連続。等身大の自分に戻ってすべてを吐き出せる相手や場所が誰にでも必要なのだと思う。それを持たない人間は強いふりして脆い。

ところで、なんといっても悲しいのは、豊田真由子の怒り表現の豊かさではないか。怒りに我を忘れる。冷静さも平静さも木っ端みじんに吹っ飛んでいる。が、相手を侮辱する語彙の豊かさと比喩の鋭さには、この人本来の知性がいかんなく発揮される(まぁ「ハーゲー」みたいな稚拙表現も多いけどね)。「運転中に叩かないでくださいっ」って秘書にいわれて、「どんだけ私の心を叩いてる」と切り返すのとかすごくない?

感情表現は最低レベルの八つ当たりなのに、語彙だけ最高レベルに豊かってどういうこと?

関連書籍

山口真由『高学歴エリート女はダメですか』

いい大学も出てキャリアも積んだ。恋愛もして人生のパートナーを見つけようとがんばってきた20代、30代のはずだった。けど気づくと37歳の独り身で、結婚はこのまま無理かもな……と思ったら、なんだか急に寂しくなった。どうしてこうなったのか? 走れども走れども幸せのゴールが遠のく気がするのはなぜ? 等身大の女子たちや、女子アナ、芸能人まで下世話に観察、おおいに自省しながら、ハイスペック女子の幸せをあれこれ模索してしまう“ひとり茶話会”的エッセイ。

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高学歴エリート女はダメですか

華麗なる学歴はもとより、恋も仕事も全力投球、成功への道を着々と歩んできた山口真由氏。ある日ふと、未婚で37歳、普通の生活もまともにできていないかもしれない自己肯定感の低い自分に気づく――。このままでいいのか? どこまで走り続ければ私は幸せになれるのか? の疑問を抱え、自身と周囲のハイスペック女子の“あるある”や、注目の芸能ニュースもとりあげつつ、女の幸せを考えるエッセイ集。

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山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部卒。財務省、法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。家族法を学ぶ。2017年にニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に入学し、2020年に修了。博士(法学)。現在は信州大学特任教授。「超」勉強力』(プレジデント社、共著)いいエリート、わるいエリート(新潮社)、『高学歴エリート女はダメですか』(幻冬舎)、「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)など著書多数。 
山口真由オフィシャルTwitter

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